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将来の夢が向いていない貴方に

突然だが、私は作家になりたい。文字を書いて生きるのが夢だ。
私はこの何ともおおざっぱでつかみどころのない夢を友人や両親にたっぷりと語り、その度にみんなは無条件で応援してくれた。


そんな私に起こった「将来の夢、向いてないよ」事件についてお話しよう。


それは大学からの帰り道のことだった。授業が終わり帰路も同じだったとある友人(ここではBくんとしよう)と、他愛のない会話をしながら駅に向かっていた。
その友人は最近とある悩み事のせいで疲れが取れないのだそうだ。ただ、じっくりと彼の話を聞けども、その悩み事が”将来”についてであること以外なにもわからない。恐らくだけれど意図的に、明確なことや全体像について誰かに教えたくはないのだと悟った。


私は基本人が話したくないことを熱心に聞き出したいタイプではないので、彼が曖昧な言葉を使いながら、でもどうやら進路に対して問題を抱えているのだということが示唆された会話に耳を澄ませていた。



話が中盤に差し掛かるころ、彼は「自分は人にアドバイスをするのが向いている」と私に話した。人間観察が好きな彼は人の向き不向きが分かり、将来の進路に対してアドバイスをするのが得意だという。
その流れで私にしてくれたアドバイスは、「教師やジャーナリストに向いているが、作家は向いていない」ということだった。


私はそのとき、驚きで彼を見つめてしまった。だって初めてだったのだ。誰かから自分の将来に関して「向いていない」と言われたのは。
(誰も、私に対して”作家になれる素質”が備わっているかどうか説いてきた人はいなかったから)
しかも彼は、私が作家になりたいことを知っているのだから、余計に混乱してしまった。
確かに本当のところ、他人から見れば私は作家に向いていないのかもしれない。AIでさえ私に教師を勧めてくるし……。


私は「どうしてそういうことを言うのだろう?」と内心考えながらも、話し続ける彼に耳を傾けていた。


「あのさ、せっかく助言してくれたのに申し訳ないんだけど、多分私、作家になる道をあきらめないと思うよ。向いてなくても」


熟考して出てきたのは、上記のような言葉だった。そのとき自分が彼に伝えられる言葉はこれくらいしかなかった。言葉にできたのがこれだけだったという意味でもあるし、これ以外、彼に伝えたいことがなかったという意味でも。
Bくんは、もちろん強制しているわけじゃなくて、と言葉を置いてから「自分も、自分が向いていると思う職業を親に否定されることがある」と話してくれた。


そのとき、なるほど、とすぐに思った。彼の親と友人の関係が、Bくんと私の関係に置き換わっているのに気づいたからだ。
この関係に私は必然性を感じずにはいられなかった。そして、彼の悩みがそこにあるのだとも。


Bくんには多分、なりたい職業があるのだろう。けれど、向いている職業とのはざまで揺れている。そして、なりたい職業について本当は誰にも否定してほしくない。”向いていない”と言われるのが怖いのだと思う。


もしかすると、単純に私がBくんの「向いていない」というアドバイスを受け入れることで、自分には助言が得意なのだと思いたい理由があるのかもしれなかった。
または、Bの助言によって将来の夢を変える人間を見てみたかったのかもしれない。
それが、彼の夢を諦められる理由にすらなり得たかもしれないから。


なんにせよ、彼が今悩んでいることは、つまるところ”夢をあきらめたくない”ということの裏返しではないだろうか。
彼は、将来のことについて悩んでいると示唆しながらも、彼の夢を具体的に教えてはくれない。
その背景には「向いていない」と言われ続けた過去があるのではないか。


結局私たちは駅に着き、彼は最後まで「迷っている」といいながらホームに消えていった。


友人と別れて電車を待つ間、ホームでラインを開けば今月文学フリマで出した本の感想を送ってくれた人がいた。
その感想を読みながら不意に思う。

なるほど、今まで私がデカデカと自分の夢を話せるのは、それを信じてくれる人がいるからなのだ、と。
私の置かれている環境が凄く恵まれていることに気づく。友人との会話がなければ、目の前の嬉しさだけに感謝こそすれ、ずっと前からどんなにありがたい世界で息をさせてもらっていたかに気づくことはできなかった。


今まで私が語った突拍子もない夢にみんな一緒に乗ってくれた。何ならサインを求めてくれる先生や友人もいた。はたから見れば無謀な夢を、真っ直ぐに無条件に応援してくれる人がいる。
当たり前じゃなかったと知らずに生きていた私はずいぶんな幸せ者なんじゃないか?
私が気づけないくらい信じてくれる人がいたことに感謝の気持ちでいっぱいだった。


かといって、私はここでどちらが幸せでどちらが不幸かなどという無意味な論争を繰り広げたいわけではない。
彼に言われた「向いていない」には一生をかけて抗うつもりではいるが。


ただその抗いには、私の夢を一緒に見てくれる人が必要不可欠だ。例えばこのnoteを読んでくれている貴方も、ぜひ一緒に。

だから将来を迷っている彼にも、夢を真っ直ぐに信じてくれる人がいるといい。「その夢は絶対に叶うよ」と言ってくれる人がいるといい。


まずは私が、その一人になりたい。



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