D.Scarlatti/Sonata K.427について(編曲譜面の公開)

マリンバ3台(奏者3人)のための編曲。
●Marimba 1 (C3-C7, 4.0oct.)
●Marimba 2 (A2-C7, 4.3oct.)
●Marimba 3 (C2-C7, 5.0oct.)
演奏は平易で、全て2本マレットによるものです。ただし、Marimba 1または2と3は共有出来ません。必ず3台必要になります。
トレモロは記譜しておりませんが追加等をされても良いかと思います。
演奏そのものは平易ですので、アンサンブルの練習にオススメです。

スコア・パート譜が1つのPDFファイルとして同梱されています。

大学院時代、室内楽のために編曲をしたものです。その時のプログラムノートはこちら。

D.スカルラッティ(1685-1757)と言えば、やはり代表作はソナタと言えるのではないだろうか。小品といえど、555曲を同じコンセプトで書き上げるというのは歴史上、彼を除いてあまり例がない。もちろん、交響曲を100曲以上書いたJ.ハイドン(1732-1809)、300曲以上書いたL.セーゲルスタム(1944-)の方が、書いた音符の数は多いだろう。ピアノ学習者お馴染みのC.ツェルニー(1791-1857)も1000曲を超える作品を残したが、彼らと異なる点としてスカルラッティのソナタは直筆譜が全て散逸し、21世紀の今現在でも多くの謎が残されたままとなっていることが挙げられる。

そもそもソナタとは形式であって、教会ソナタ等という言葉にも表れる、複数楽章のまとまりについてのテクニカル・タームと言えよう。ところがスカルラッティのソナタは単一楽章である。これはもともとスペイン王家マドリードの王女、マリア・バルバラのために書かれた作品であったのが後に“ソナタ”と呼ばれるようになったのであって、スカルラッティ本人はEssercizi per gravicembalo(チェンバロ練習曲集)として作曲したものである。この過程も謎が残されたままである。
 20世紀アメリカを代表する音楽学者で、自身もチェンバロを演奏したR.カークパトリック(1911-1984)が熱心に取り組んだのもまた、スカルラッティのソナタであった。もとはA.ロンゴ(1864-1945)によるロンゴ番号(L.+番号で記される)が普及していたが、カークパトリックが1953年に発表したカークパトリック番号(K.+番号もしくはKk.+番号で記される)が作曲順などをより正確に表しているという理由などから、現在ではこちらの方がよく使われるようになった。
ロンゴは、例えばニ短調の作品の冒頭がD,G,Aで構成されているのをスカルラッティの誤りだとしてD,F,Aに直したが、カークパトリックはそれをそのまま演奏するように主張していた。

555曲ある中で唯一Presto quanto sia possibile(できるだけ早く)と記された作品であるが、むしろ近年の風潮ではK.141等の方が早く演奏され、テクニカルな表現として用いられているのではないだろうか。4分程度と短い作品でありながらファンファーレが効果的に配置されており、明るく転がるような流れの冒頭がシンプルなベクトルに還元され、音楽の根本的な喜び、小規模ながら和声の繊細な表現が意図されている。
スカルラッティのソナタ全般に見られることだが、この作品にも用いられている技法としてソプラノとバスを保持したまま和声を変化させていくフレーズがあり、そうした部分を実際にチェンバロで演奏すると倍音の構成が明確に変化する為、驚くような色彩の変化が聞いてとれる。

編曲にあたり、原典とされているファクシミリを参照し、また当時お決まりであった多少の遊びを後半に挿し入れた。
チェンバロの華やかなサウンドを再現することは編成上困難であったが、しかしマリンバという楽器を用いることで新たな魅力が結果として明らかになったのではないだろうか。

尚、編曲の課題として設定した事は「自然で美しいアンサンブル」というものであった。
演奏そのものは非常に容易である。3人×2マレットで、おそらく初心者でも演奏可能であり、楽器を始めて数か月で、充分可能であろう。しかしながら、アンサンブルのアンテナを張り、一つ一つの音と丁寧に向き合い演奏するためには相応の努力と覚悟が求められる。かといって極端なことや困難に立ち向かうのではなく、当たり前のことを当たり前に、自然に音楽が流れる演奏を心掛けた。

・・・とまあ、よくもまあこんなに長い文章を書いたものである。何せ『プログラムノートを読んでいたら演奏が終わった』とまで言われたほど。

何かの役に立てばと思い無料公開します。再編曲(カットや楽器の変更など?)や改変などもご自由に。

あるいは、作編曲でマリンバが必要になった方の何かの参考にもなるかもしれません。『パンパカパーン』が実はちょっと難しい(連打すると後の音が小さくなりやすい)ので、その面でもいい練習になります。

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