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手話通訳者全国統一試験「障害福祉の基礎」2020過去問⑩解説〜障害者総合支援法の福祉サービスとは〜

2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。


問10.障害者福祉の基礎

障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)について述べています。下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。

(1) 意思疎通支援事業を利用できる対象者は、聴覚障害者のみである。
(2) 地域移行支援の対象者は、障害者支援施設に入所している障害者や精神病院に入院している精神障害者である。
(3) 障害者自立支援法において問題があると指摘された「障害程度区分」を「障害支援区分」と改め、知的障害者や精神障害者の特性に応じられるようにした。
(4) 自立支援給付には、介護給付、訓練等給付、自立支援医療、補装具、日常生活用具 給付、相談支援給付がある。

2020年度手話通訳者全国統一試験 筆記試験 問10

問題解説

(3)が正しい。障害者福祉概論として、障害者自立支援法から障害者総合支援法への改正の流れと内容について理解しておきたい。また、障害者総合支援法のサービス体系について整理しておきたい。

障害者自立支援法

2005(平成17)年に制定された「障害者自立支援法」の重要なポイントは①障害者施策の3障害一元化②利用者本位のサービス体系に再編③就労支援の抜本的強化④支給決定の透明化、明確化⑤安定的な財源の確保である。2012(平成24)年に改正されて「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(略称:障害者総合支援法)になった(講義テキストp22)。

障害者総合支援法

2012(平成24)年制定された「障害者総合支援法」は障害の有無に関わらず、誰もが安心して暮らせる社会の実現をめざし、基本理念は「日常生活・社会生活の支援が、共生社会を実現するために社会参加の機会の確保や地域社会における共生、社会的障壁を除去するために、総合的・計画的に行われること」である。

障害者自立支援法の対象者は身体障害、知的障害、精神障害であったが、制度の谷間のない支援を提供できるようにするために、障害者総合支援法では、法律の対象に「難病等」が追加された。2021(令和3)年現在、指定難病は338疾病であり、障害が固定していないために身体障害者手帳の取得ができなくても、一定の障害がある場合障害福祉サービスの利用が可能となった。

障害者自立支援法において問題があると指摘された応益負担は応能負担(低所得者の利用者負担の無料化)原則に変更となった。応益負担は利用したサービスの量に応じて利用料を支払うことであり、応能負担は利用者の負担能力(経済的状況)に応じて支払うことである。障害程度区分は「障害支援区分」に改められた。障害支援区分は障害の多様な特性や心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示すものであり、非該当と区分1から区分6(区分6が支援の度合いが一番高い支援区分)まである。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html

障害者総合支援法によるサービス体系

障害者総合支援法による総合的な支援は、市町村が実施する「自立支援給付」と都道府県と市町村が実施する「地域生活支援事業」で構成されている。「自立支援給付」には、①介護給付、②訓練等給付、③相談支援、④自立支援医療、⑤装身具がある。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)

「障害福祉サービス」は、勘案すべき事項(障害の種類や程度、介護者、居住の状況、サービスの利用に関する意向 等)及びサービス等利用計画案を踏まえ、個々に支給決定が行われる「障害福祉サービス」「地域相談支援」と、市町村等の創意工夫により、利用者の方々の状況に応じて柔軟にサービスを行う「地域生活支援事業」に大別される。 サービスは、介護の支援を受ける場合には「介護給付」、訓練等の支援を受ける場合は「訓練等給付」に位置づけら れ、それぞれ、利用のプロセスが異なる。

介護給付と訓練等給付

自立支援給付の「介護給付」と「訓練等給付」は次の通りである。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)

地域生活支援事業

自立支援給付の「地域生活支援事業」は次の通りである。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)

相談支援

計画相談支援の対象が原則として 障害福祉サービスを申請した障害者等へと大幅に拡大され、地域移行・地域定着支援は個別給付化が図らた。地域における相談支援の拠点として、基幹相談支援センターを市町村が設置できることとなり、相談支援体制の強化が行われた。さらに、地域支援体制づくりに重要な役割を果たす自立支援協議会が法律上位置づけられた。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)

地域移行支援とは

障害者支援施設等に入所している障害者または精神科病院に入院している障害者など、地域における生活に移行するために重点的に支援を必要としている障害者に対して、住居の確保などの地域生活に移行するための相談や必要な支援を行う
このサービスでは、施設・病院からの退所・退院にあたって支援を必要とする障害者に、入所・入院中から新しい生活の準備等の支援を行うことで、地域生活への円滑な移行をめざす。

対象者は次の通りである。
(1) 障害者支援施設、のぞみの園、児童福祉施設または療養介護を行う病院に入所している障害者
※ 児童福祉施設に入所する18歳以上の障害者、障害者支援施設等に入所する15歳以上の障害者(児)も対象。
(2) 精神科病院に入院している精神障害者。
(3) 救護施設または更生施設に入所している障害者
(4) 刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)、少年院に収容されている障害者
(5) 更生保護施設に入所している障害者または自立更生促進センター、就業支援センターもしくは自立準備ホームに宿泊している障害者

地域生活支援事業

障害のある人が、基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営 むことができるよう、住民に最も身近な市町村を中心として以下の事業が実施されている。 市町村及び都道府県は、地域で生活する障害のある人のニーズを踏まえ、地域の実情に応じた柔軟な事業形態での実施が可能となるよう、自治体の創意工夫により事業の詳細を決定し、効率的・効果的な取り組みを行う。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)


意思疎通支援事業

意思疎通支援事業は地域生活支援事業のひとつである。各地方自治体が支援を実施している。
対象者は、聴覚、言語機能、音声機能、視覚、盲ろう、失語、知的、発達、高次脳機能、重度の身体などの障害や難病のため、意思疎通を図ることに支障がある障害者である。

【市区町村】
1.手話通訳者、要約筆記者、盲ろう者向け通訳・介助員、失語症者向け意思疎通支援者等の派遣や代筆・代読、点訳、音声訳等による支援
2.市区町村の窓口に手話通訳者を設置
※1,2ともに遠隔による手話通訳等を含む

【都道府県】
1.市町村が派遣できない場合などにおける手話通訳者、要約筆記者、盲ろう者向け通訳・介助員、失語症者向け意思疎通支援者の派遣
2.市区町村域や都道府県域を越えた広域的な派遣を円滑に実施するための市区町村間の派遣調整

自立支援医療

自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度で、「精神通院医療」「更生医療」「育成医療」の3つに大別される。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)

装身具

装身具は、障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、長期間に わたり継続して使用されるもの等。義肢、装具、車いす等である。

障害福祉サービス 利用について 全国社会福祉協議会(平成27年4月版)

よって(3)が正しい。(1)は、「聴覚障害者のみ」が間違いである。(2)は障害者支援施設入所者、精神科病院に入院している精神障害者のほか、救護施設または更生施設に入所している障害者、刑事施設、少年院に収容されている障害者、更生保護施設に入所している障害者または自立更生促進センター、就業支援センターもしくは自立準備ホームに宿泊している障害者が対象である。(4)の「相談支援給付」ではなく「相談支援」が正しい。本問は支援法の中身の詳細を正確に理解していないと正解できない難易度の高い問題である。


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