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花咲くように、しなやかに。

はやくも梅の花が咲いていた。
たくさんある梅の木の中で
紅梅と白梅それぞれ一本ずつ、
並んで咲いていたのだ。
その二本の木だけ、
陽射しのスポットライトが当たっていた。
私はマフラーにすっぽり埋もれながら
ああ、いいねえ!
と、マスクの下で微笑む。


今日は成人の日。
私の住む街の成人式の式典は
急遽中止となってしまったらしい。

式典は行っても行かなくても自由。
行きたい人も
行けない人も
行かない人も
いてかまわないと思う。
どこにいて何をしていても
成人の日がある、という事実だけだ。


自分の成人式の頃、
私は何をしていたかな。
成人式の式典には参加したけれど、
それからまもなくして
私は入院生活を送ったのだったな。
式典の頃も病状はだいぶ進んでいたけれど、
家族も含めて
周りの人たちには隠していたのだ。
大学の授業の間をぬって病院に通い、
春休みの間についに入院したのだった。
成人式のことを思い出すと、
無理をしていた自分の姿が目に浮かんでくる。
なぜあんなにも頑なに
隠していたのだろう?
おそらく
《今》という大切な毎日の連続を、
病気で断たれたくなかったのだと思う。
ずっと続いてほしかった。
それくらい楽しくて充実していた。
意地っ張りだった。
今となっては笑うしかない。

この歳になるまでの間
辛いことや悲しいことも沢山あったけれど、
私、ここまでやってこられたじゃない。
と思う。
今もこうして、図々しく生きているし。

いつかは笑い話になる、なんて
その時の当事者は思えないものだ。
けれども時間は着実に過ぎてゆく。
何年経ってからでもいい
振り返った時にそう思えたら、
自分はあの時の悪魔のような時間に勝ったのだ!
と誇れる。


振袖姿の女の子二人連れが
マスクをしたまま大きな声で笑いながら
歩いていた。
その屈託のなさを見た時、
この世代の子たちは
これから先も
困難さを乗り越えていけるのだろうなと
信じた。

新しいひとの
新しい価値観
新しいやり方。
私たちには思いつかないようなことを
さらりとやっていくしなやかさが、
困難な時だからこそ、
若い人たちには備わっていく気がする。


とても頼もしい笑い声に
励まされたのは私の方だ。
ありがとう。

あの梅の花のことを
心の中で思い出していた。

寒い中でも彼女たちは
きっと、咲く。

新成人のみなさん、
おめでとうございます。


文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。