いちばん遠いと思った場所へ。
自分の目で見ることができる
いちばん遠い場所へ、
行ってみたいと思っていた。
電車の窓から眺めた川向こうの緑の空き地。
帰り道の坂の上から見える1本道の果て。
その場所はどこであってもひかり輝いていて、
あそこへ行けば望むものが見られるかもしれないと思った。
小高い丘の上へと伸びる小道が
どこへ続いているのか、
確かめに行きたいのだ。
ついに目的地を目指して
自分の足で歩いていくことに決めて、
ようやく辿り着いてみると、
案外と普通の
ぼやけた街並みが広がるばかりだったりもする。
家と家の間の秘密の小道へ
(そういうものにやけに心惹かれる性分なのだ)
入り込んだのはいいけれど、
そこで見たのは
奔放な草と朽ちた空缶ばかりということもある。
テレビで見かける絶景のような場所は、
日常の中にはそれほど多くはない。
それでもたまにはいいこともある。
ちょうど運良く夕焼け時に
立ち会うことになって、
橋を渡る列車や街や道ゆく人すべて
橙色に染まって、
そこに感情が与えられる瞬間を目撃すると、
私は幸せになる。
黄昏てゆく空に目をやりながら、
今日もいい日だったじゃないかと
ひとり呟いたりする。
ところが今度は、
あの夕陽の沈む場所へ
行ってみたいと思ってしまう。
もっと遠くへ。
でも、自分の目の届く限界の世界へ。
想像を掻き立ててやまない、
ちょうどいい果て。
見えているけれどなかなか行けない、
私の中でいちばん遠い場所を、
いつも求めているのである。
ほんのひとときだけでも、
いつかはあの風景の一部になりたいと、
心で願っているのだ。
どこかへ行きたいと思うのは、
自分の立ち位置を確かめることと
同じ気持ちから生まれたものなのだろうか。
ひとつの場所に落ち着いていたい欲求と、
ここにばかりはいられないと知っている本能とが、自分の中でせめぎ合っている。
それは人間の深いところにある
昔からの仕組みのようなものか。
あの場所まで行ってみたい。
丸くて青いこの球体の上で、
私は今日も見果てぬ夢のような場所を
目で追いかけているのである。
文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。