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牛と暮らした日々-そこにあった句

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俳人である夫-鈴木牛後の俳句と、その背景や生活についての私-Junkoのエッセイです。23年間の酪農生活とそこから生まれた俳句。1年間の連載を終えて完結しました。
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固定された記事

牛と暮らした日々-そこにあった句#00 はじめに

2023年の秋、牧場をやめることになった。 サラリーマンでいう定年退職である。 自営業なの…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#01 大阪から北海道へ

残雪の果てのひとつを踏みつぶす 鈴木牛後 (ざんせつのはてのひとつをふみつぶす) 残雪と…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#02 仔牛のベスト

仔牛の寒衣脱がせ裸と思ふ春 鈴木牛後 (こうしのかんいぬがせはだかとおもうはる) 仔牛は…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#03 牛乳の味

牛乳に溶く春光の五千粒  鈴木牛後 (ぎゅうにゅうにとくしゅんこうのごせんつぶ) 就農し…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#04 放牧準備

草青むはやさに歩む牧支度  鈴木牛後 (くさあおむはやさにあゆむまきじたく) ゴールデン…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#05 新規就農

牧開き空と牧とはちがふ青  鈴木牛後 (まきびらきそらとまきとはちがうあお) 「楽でも…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#06 放牧開始

牧開き牛を荒息ごと放つ  鈴木牛後 (まきびらきうしをあらいきごとはなつ) 「牧開き」というとのんびりした響きだが、実際の放牧初日はそんなものではなく、実にバタバタしている。 放牧初日。 出す準備に出入り口の片づけを始めるともう牛たちの咆哮(ほうこう)が牛舎に響き始める。悲鳴のような鳴き声だ。 ああ、うるさいと思いながら準備を終わらせ、いざ牛を放そうとすると、牛は外へ出たくて出たくて気がせくのか、チェーンをひっぱるひっぱる。で、ナスカンをなかなか外せなくて指を挟んだり

牛と暮らした日々-そこにあった句#07 諦める

星の鳴る夜空だ遅霜は来るか  鈴木牛後 (ほしのなるよぞらだおそじもはくるか) 農家にな…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#08 牛の死

牛死せり片眼は蒲公英に触れて  鈴木牛後 (うししせりかためはたんぽぽにふれて) 牛の死…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#09 牧場の広さ

我が牧は四十町歩揚雲雀  鈴木牛後 (わがまきはよんじっちょうぶあげひばり) うちの牧場…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#10 蝦夷梅雨

蝦夷梅雨の馬具は革へと戻りたき  鈴木牛後 (えぞつゆのばぐはかわへともどりたき) ここ…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#11 牧草収穫

裸ひとつこの地に捨つるため稼ぐ  鈴木牛後 (はだかひとつこのちにすつるためかせぐ) 「…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#12 トラクター

トラクターに乗りたる火蛾の死しても跳ね  鈴木牛後 (とらくたーにのりたるひがのししても…

Suzuki Junko
2年前
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牛と暮らした日々-そこにあった句#13 見られる

白日傘傾ぎ見られてゐる労働  鈴木牛後 (しろひがさかしぎみられているろうどう) うちの採草地のほとんどは人里離れた山奥にあるのだが、自動車がたまに通る道路に面している畑も少しある。 その畑でトラクターに乗っていて乗用車が通りかかると、作業を見られているのではないかと緊張する。 でも実際は、乗用車は普通のスピードで走っているので、そんなにじっくり見てはいない。 しかし、歩行者は見ている。 この道路はウォーキングコースになっているらしく、たまに市街地から歩いて来る人がいる。