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#156 パワハラの原点

ビジネス書と推理小説の合間にたまに歴史ものを読むのですが、これが面白い。
今回は前から気になっていた「信長の原理」を一気読み。

そこから見えてきたものは当時の生々しい現実と、現代社会における教訓の数々
備忘録的にまとめてみたいと思います。

■素敵な歴史の教科書

まず触れたいのは著者である垣根さんの手法。
(似たようなものがもしかしたらあるかもしれないけれど)個人的にはこの手の書き方には初めて触れました。

どんなものかというと・・・
歴史的事実は超シンプルに触れるのみで、そこに至るまでの登場人物の心情や思惑をすごく丁寧に書き上げています。

例えば、誰もが知っている本能寺の変。
これに対して本能寺で誰が何をしたという事実はほとんど描かれておらず、なぜそんなことになったのかという光秀の心情や思惑、当時の彼を取り巻いていた環境、またそうなるに至った背景や信長との過去など、複雑に絡み合う危うさを実に丁寧に、じっくりと描いてくれています。

故に、
読んだ後あぁそういう事だったのかと凄くスッキリとした感覚になれます。

多くの人が小学生の時に歴史に興味を持つと思います。自分もそうでした。
でも授業になると途端につまらなくなる。それは他でもありません。歴史が暗記教科になるからです。例えば江戸時代に起きた”ええじゃないか”は教科書に太字で書かれていましたがなぜそんなことを当時の人がしたのかの説明はありません。こんなの腹落ちするわけがない。


その点この「信長の原理」は、教科書で習ってきた信長の偉業(愚業もあるけど)に対して、情景がしっかりと書かれていて実に面白い。
それを”原理”で括って小説に昇華させているところは、さすがプロの仕業です!


■ハラスメントとトップダウンの境目

経営者の方々は歴史を勉強する人がすごく多いです。それはかつての偉人たちが不確実な世界で何を見てどう判断したかという実績が、同じく不確実な会社経営において参考になるからだと思います。

特に戦国時代の武将というのは隣国の脅威に常にアンテナを張りながら、ミスったら首を斬られる世界で強くたくましく判断してきたわけです。
信長がその”アンテナ”と”判断”において他の武将より優れていたことは間違いないでしょう。

しかし「信長の原理」では、信長のこの才能こそが自らの破滅を導いたとも読み取れます。
これが実に現代っぽい!

ミスのできない環境において、圧倒的に実力を持った人がトップダウンで組織を動かすというのはとても有用だと思います。炎上プロジェクトなんかはリーダーの指示で問答無用に引っ張った方が早く鎮火します。

しかし、このトップダウンによる指示。いかにそれが正論であってもメンバーたちは息苦しさを感じてしまうということがこの安土桃山時代にもあったんですね。

具体的に言うと、正論を強いるという行為が正しいようで正しくないかも・・・という歴史的事実。
あるいは正論を強いることは組織が生き延びていくうえで正しいのですが、一方でパワハラと表裏一体という悲しき事実。

ネタバレになるので詳しくは言えませんが、張り過ぎた糸は切れやすいということ。
現代ではハラスメントという言葉で広く周知されるようになりましたが、その現象は遠く戦国時代でも同じだったんですね。。。

■最後に、

数ある歴史小説の中でも、もうひと段階深堀して史実を理解したい人、
あるいは学校での歴史の授業が超絶つまらない人、
信長のやったことは全部知ってるし聞き飽きた、

という人におすすめです!!


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