ショートショート 177【路上飲み被害】
事態は深刻さを増していた。
世の中の人にとっては「そんなこと・・」と笑われてしまうかもしれない。でも、私たちにとってはたった一度しかない今を生きるうえで、それは死活問題だったのだ。
**
程よい気候になってきた。
例えば4月や5月というのは日中は穏やかだが日が暮れるとさすがに少し肌寒い。かといって梅雨に入ってしまえば忌々しい雨に邪魔されることになる。
そういう意味では今夜は貴重な夜だった。
僕はずっと我慢してきた。緊急事態宣言になり出かけられる環境は一気に減った。
時刻は間もなく19時になろうとしていた。辺りはようやく暗くなったころだ。人目を避けつつ程よい灯りを得るには駅前広場の片隅にあるベンチが丁度いい。
僕たちは先ほどコンビニで買いこんだ飲み物を各々持っていつもの場所に向かっていた。しかし、
「まただ。」
僕たちは大きなため息をつく。それから、店の中で酒類の販売を禁止する緊急事態宣言をひどく恨むのだった。
**
「で、その買った飲み物はどうしたの?」
「家に持って帰って、各々で飲んださ。」
「それは災難だったな。」
いつもオレの失敗を喜ぶこいつが災難だと言うのだからそうなんだろう。
「大体さ、そこまでして飲みたいかね。」
全くだ。
「政府はさ、飲食業に助成金を渡すとか何とか言ってるけどさ。一番割食ってるのこっちだよな。」
言いたいことは全てこいつが言ってくれた。
緊急事態宣言が延長されて路上で飲みだす人が出始めた。気候が良くなった途端に駅前などではそういった人たちが急増した。
政府や行政は声高に路上飲みの禁止を訴え、飲食店は制約に従う代わりに声を大にして保証を求めている。
では、
オレたちも訴えようではないか!
「高校生から、イチャイチャする場所を奪うな!」
緊急事態宣言で一番割を食ったのは、実は高校生カップルなのである。
**完**
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました!
がんばれ高校生!大人たちは空気読め!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?