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【迫真エッセイ】転職と苦悩の話⑥

かくして初めてリーダーとして臨んだ新商品は売れに売れた

スタート当初は現状維持大好き軍団の巣窟であったが、いつからか「これは売れるかも」という空気が関わる人たちを変えた。良いものにするためには多少の苦労は厭わないプロ集団になっていた。

・・・始めのところ。本当に始めのところは苦労した。特に新しい提案をぶち上げた時は多くの敵に囲まれた。あの人と仕事したくない、とまで言われた。今振り返ってもよく屈しなかったな、と思う。全ては下積み時代に築き上げた信念と経験値が効いていた。


■勘違いの英雄

モノづくりの基本であるQCDは完ぺきだった。

普通は販売数の伸びと不良率の伸びはある程度同期するが不良率は早々に横ばいになった。半年後には総販売数は新記録に達した。他社からシェアを奪回した。営業も品管も皆笑顔だった。数十億単位の利益を会社にもたらした。

ノリのいい先輩からは「よ!バカ売れリーダー!!」と社内で声を掛けられた。まんざらでもなかった。社内ですれ違う人を見ては”皆さんの給料は私が捻出いたしました!!”と心の中で叫びほくそ笑んだ。

間違いなく社会人生活で一番充実していた。


嬉しかったのは、プロジェクト発足当時に最も反発してきた後輩の変化だった。自分の中に自信を得たのだと思う。これまでは典型的な受け手社員の一人だったが、間違いなくリーダー候補に生まれ変わっていた。
環境が人を育てる。それを周囲の人たちを通じて目の当たりに出来たのはとても大きな経験だった。

自分はどうだろう?

成長はしたか?多分したと思う。でもそれ以上に問題があった。この時伸びに伸びた鼻は、既に天井に突き刺さる勢いだった。

僕は充実していたが、明らかに調子に乗っていた。人生とは難しい。光があると影が生まれるからだ。

 

■井の中の蛙

僕はとてつもなく大きな成功体験を引っ提げ、満を持してある壁に挑むことになる。昇進試験だ。

バカ売れリーダーともてはやされた時、僕はまだ課長でも部長でもなく一人の技術者でしかなかった。ようやく非組、すなわち経営側の人間になるべくその関門に挑戦できる権利を得たのだった。

正直自信があった。

昇進試験が、誰により多くの給料を払うかの選抜試験であるならば、間違いなく自分は選ばれなくてはいけないという自負があった。それだけの稼ぎをたたき出していたからだ。

上司の太鼓判もあった。今思えば自信があったが100倍ぐらい慢心があった。そして何より、自分の歩いてきた道しか見えていない視野の狭い人間だった。

結果はもうお分かりだろう。


僕はこの試験に合格できなかった。地獄の始まりだった。

 

 

 

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続く。闇の時代へ。


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