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【読書記録】最果タヒ『好きの因数分解』

 2020年の1~2月あたりにNHK(BSだったかもしれない…)の番組で、詩人最果タヒの特集を見た。それがきっかけで彼女の詩集を買った。小説のようにわかりやすい状況の描写がなく、でも世界観を掴みたくて、何度か噛みしめるように読んだ。

 その後、最果さんがエッセイを書いていることを知り読んだのが『「好き」の因数分解』だ。最近、自分もエッセイを書き始めたこともあり、改めて読んでみた。

 この本は、著者が50個近くの「好き」なものをキーワードとして挙げ、一つ一つについて見開き2ページ分の中で縦書きでエッセイを書いている。さらに、同じページにその言葉に関連する短いエッセイを横書きで添えている。
 例えば「新幹線」のページには「海外旅行」という題名の短文と、さらに、「ひとことメモ」のようなものが載っている。
 上手く説明できてない気がするが、なかなか個性的な誌面デザインで、そこに魅力を感じて私はこの本を選んだ。

 キーワード自体50個もあるので、どれかは自分のアンテナにひっかかるものがあると思う。ちなみに私は、趣味でもある「書くこと」や「野外フェス」、昔聴いていた「BLANKEY JET CITY」や、昔アニメを見ていた「ポケットモンスター」などツボにハマるキーワードがあり、そこから読み始めた。

 特に「BLANKEY JET CITY」がでてきたことが嬉しくなり、一番初めに読んだ。その中で早速印象に残る言葉に出会った。

よいというもの、すばらしいというもの、それは世界で起きていることで、他人が決めていることで、でも「好き」だけは私が決めるものなのだ。私がいなければ「好き」は起こりえないのだ。

 著者は、このバンドの音楽と出会い、理由はわからないが好きになったという。そのときに「自分で好きなものを選んでいいのだということを、この人たちに教えられた」と書いている。

 この感情、私自身にも覚えがある。中・高生の頃、何が良い音楽なのかがわからず、“みんな”という周囲の人たちが聴いているものを選んでいた。それが格好いいと思っていた。

 けど、習い事のエレクトーンが縁でjazzと出会い、はじめはよくわからなかったが、曲を練習するうちに「いいな」と思うことが増えた。当時、習い事仲間以外に同じ趣味の人は周囲にいなかったが、初めて「好き」を自分で選んだ瞬間だったと、今になって思う。ブランキーの音楽に出会ったのはその後の話。

 「そうそう、私もそう思う!」「あの時、同じこと思った」と筆者に共感できること、それがエッセイの楽しさで、この本はその本質をついていると思った。

 そして、エッセイ初心者として、このように洗練された言葉で書くことは難しいが、自分の感情を素直に綴っていこうと気持ちを新たにした。

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