【読書感想】こだまさんのエッセイから受けとったもの
先日ついに読み終わった「ずっと、おしまいの地」。本名も顔も一切明かさない覆面エッセイストこだまさんのエッセイ本だ。
こだまさんのエッセイ本を読むのはこれで4冊目。
昨年の終わりにこだまさんのエッセイに出会ってから、どっぷり「こだまワールド」にハマり、今回も楽しませていただいた。
こだまさんの一作目「夫のちんぽが入らない」は、ご自身の生い立ちから学生時代の後の旦那さんとなる男性の出会い、就職した後鬱になり、あるきっかけから出会い系サイト経由で人と会うようになり、その後不思議な病を患い、夫も鬱になり…と壮絶なエピソードが綴られていた。
その濃厚な内容自体に引きこまれると同時に、見方によってはかなりの悲壮感絶望感漂うエピソードの数々を、どこか一歩引いて冷静に観察する視点や、それを淡々と、もはやユーモアさえ感じさせながら語るこだまさん独特の文章に一気に引き込まれ、次々にその先のエッセイも手にとった。
これまで時系列に4冊のエッセイ本を読んできて、今回の「ずっと、おしまいの地」が最新のエッセイ本とのこと。一見平凡に見える日常の中にじんわり混在する奇天烈エピソードが淡々と語られる中、じんわり滲み出るユーモアは相変わらず健在。登場人物たちの「どうしようもなさ」、人生の「どうしようもなさ」。でもそこ確かに潜む温もりも感じられるようで、読後感はじんわり生温かい(いい意味です)。
そう、温かさ。今回の本を読んで特に感じたのは、初期のエッセイの頃に感じられた、読んでいるこちらにまで迫り来るような圧倒的な絶望感や悲壮感が和らいできているというか、こだまさんの根本にあるものや魅力は変わらないのだけれど、どこか世界を見る目(というか表現する目)が優しくなっているような、とにかく軽やかさと柔らかさが増しているような、そんなふうに感じられて、今までで一番読みやすく、単純に楽しんで読めた気がする。(どの本がより優れているかという話ではなく、ただ私が個人的に感じた雰囲気のこと。面白さでいえばどの本も面白い!)
そういった変化がまた、ここまでこだまさんが自分の人生をエッセイという形で書き続けてきた行為によってもたらされたことなのであれば(実際にご本人もエッセイの中でそんなことを書かれていたような…)、やっぱり「書く」ってすごいなぁ、「書く」っていいなぁ、と、私自身細々と自分なりに日記やエッセイなどの文章を書いている身として、勝手にじーんときたりもしたのだった。(こだまさんと自分を一緒に語るなんて恐れ多くて申し訳ないことだけれど)
この「ずっと、おしまいの地」がこれまでの本の中で一番単純に楽しめた、というところで一つ挙げたいのが、こだまさんが喫茶店でバイトを始めたエピソードだ。
この喫茶店のエピソード、個性的な喫茶店のオーナーなどの登場人物の面白さはもちろん、またしてもこだまさんの「どうしようもなさ」溢れるエピソードが満載で、読みながら笑いが止まらなかった。サラダのオーダーを受けて、慌ててサラダをお客さんに出したと思ったら、まだドレッシングもかけていないただの野菜の状態で出してしまって、「まだでした!」とお客さんの前から野菜の載った皿を慌てて下げてくる、という描写がいまだに忘れられない。今でも思い出すだけで笑えてくる。
ちなみに喫茶店で働くその後のこだまさんのエピソードが最近ウェブサイトで更新されて、「あっ!あの喫茶店だ!」と嬉しかったし、相変わらずいろんなことをやらかしていてまた笑わせてもらった。
ぜひ読んでみてください。(ケーキは刑期、って天才か)
これまでこだまさんの著書を何冊も読んできて、どの作品もそれぞれそのときのこだまさんの状況やフォーカスされているエピソードによって作品全体の雰囲気は多少異なる。
でも、こだまさんのどの作品を読んだあとも、最終的に思うことはいつも同じだなと思う。
「人って、人生って、なんだか尊いなぁ」
結局これに尽きる気がする。
人生っていろいろあるけれど、なんだかんだで続いていく。だから、なんだかんだなんだかんだ、やっていくしかないし、まぁなんとかなる(かもしれない)。そんな気になる。
勇気をもらう、というとちょっと表現が明るすぎる気がするけれど、どうしようもない中、どうしようもなくていいから、とりあえずどうしようもないまま、今日もやっていこう(こだまさんもやってるし)、みたいな。
そして再び余談ですが、やっぱり「書く」っていいよなぁ、これからも書いていきたいなぁ、と、そんなことを読みながら思わせていただいたりもするのだった。
こだまさんのエッセイに出会えて本当によかったなぁと思う。
最後にこだまさんのエッセイ、並べておきます。
ぜひお手にとってみてください。
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