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記憶の扉が開くとき…

ふわ〜 魔法の壺から妖気がたゆとう如く…
なんとも不思議な感覚とともに、記憶の扉が開くことがあります。
いったい記憶の扉はどこにあるのでしょう?

日ごろの体験の記憶は、意識されることもないまま… 森の臆病な小動物のように…
身体のどこかに、ひっそりと隠れ住んでいるようです。

フランスの作家マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」の有名なシーン
があります。

久しぶりに故郷に戻り、全てが過ぎ去ってしまったと沈む男性の前に熱い紅茶が運ば
れてくる

なにげなく… マドレーヌを紅茶に浸し… その香りを嗅いだとたん!魔法のように鮮
やかに、子ども時代がよみがえるのです。

憂鬱な初老の紳士は、突然、子ども時代のみずみずしい感覚で満たされ、あふれん
ばかりの幸せがわき起こってくるのです。

すべてが過ぎ去ってしまった…故郷で、紅茶とマドレーヌの香りが、幼い頃の心地
よい喜びが蘇り、当時の感覚や感情に浸っていたのです。

紅茶とマドレーヌの香りが眠っていた記憶を呼び覚まし、当時の感情や感覚までを
味わった…「失われた時を求めて」のこのシーンから、ある香りが特定の体験と結
びつき、その香りを嗅ぐことで、鮮やかに記憶が呼び覚まされる」現象はプルース
ト効果」と呼ばれています。

私たちが体験している、名前がなかった現象に「プルースト効果」という名前が
付けられたことで、これまで意識できないまま、通り過ぎてしまった「記憶の
扉」に気づくことも多いのです。

「プルースト効果」を体験したことがあるでしょうか?

ちょっと意識してみると、意外なほど多々あるのかもしれません。

アロマの研究が進み、「嗅覚」が感情感覚に直接作用するメカニズムも明らかになっ
ています。何の香りか、識別するより速く!瞬時にユニークなそれぞれの感情や感覚
を呼び覚ますのです。

キャラメルポップコーンの香りが漂ってくると…
私は理屈抜きで幸せな気分を味わっているようですし、ぎこちなくキャラメルの包み
紙を開ける〝私の小さな指先〟が浮かんできて、思わずニッコリすることもあります。

「お気に入りのスナックは?」
なんだか、わからないけれど、いつでも「キャラメルコーン」を選んでいるのですか
ら、考えてみると、ちょっと怖くなってもきます。

気づかないうちに、さまざまな記憶に操られているようなことが多いのかもしれませんね。

嗅覚だけではなく、視覚、味覚、触覚、聴覚…私たちの感覚は感情やその場と深く、
結びつき、意識されないまま、深層に沈み、
そのまま忘れられ、静かな眠りについているのか…もしかしたら、悪夢に怯えて隠れているのか…

香りがトリガーになっている現象は「プルースト効果」と呼ばれるようになり、有名に
なりましたが、嗅覚ばかりではなく、あらゆる感覚がトリガーになリ、「失われた時」
の扉が開くきっかけになることがあります。

失われた日々の幸せな気分や記憶がよみがえるのは素晴らしいですが…。

そうばかりはいかないのが人生というものです。悲しみや怒り、痛みまで、味わうことの方が多いかもしれません。

だからと言って、「意識」という決まりきった世界に閉じ込もったまま、失われた時は忘れ人生の時間をやり過ごしてしまう方が安全でしょうか…? 

もちろん、封印を引き剥がし、無理に記憶の扉をこじ開けるのは御法度ですが、自然に開いた扉を閉めてしまうは、実は…とても残念なことかもしれない…そんなふうに囁く声も聞こえてきそうです。

「今の私」に充分なレジリエンス(回復力)があるならば、「過去の私」を助ける騎士として、扉の向こう側に向けて、思い切って探索の旅をしてみる勇気がわいてくるかもしれません。

深層に囚われているプリンセスやプリンスを見つけ出し、〝愛〟を捧げ、優しく見つめることができるかもしれないのです。

扉の向こう側には、「過去の私」にまつわる〝宝〟も埋もれていそうです。閃きやクリエイティブなイマジネーション、ユニークなエネルギーを発掘するチャンスもありそうです。

星空を見上げ、風の囁きに耳を澄ますと…
「過去の私」のためにこそ!今、しなやかで勇敢でいたい…そんな祈りの声がきこえてくるような気がします。

魔法が降りそそぎ、記憶の扉が開いたら、颯爽と馬にまたがり、優しく強い「騎士」
になり、扉の向こう側に探索の旅に出かけたいと想うのです。










夏が近づく頃になると、私たちの前に、たくさんの記憶の扉が現れます。
お祭り、花火、盆踊り、海水浴、プール…
いくつもの記憶の扉がそこにあることを確かめて、ちょっとほっとするのです。

その扉の向こうに、“失った何か〟が、まだ、そこにあって… 手をのばせば、いつでも取り戻せるような気がしているからかもしれません。

扉が開き、今、ここにあるかのように記憶がよみがえるのは、ここまで生きた私でしかありません。

ヨーロッパのアロマセラピーの世界では、香りが与える心理効果は大きなテーマになってきましたし、嗅覚は脳の中枢部分に直結しています。つまり、何の匂いか分からなくても、快、不快や幸、不幸という感情を呼び起こすのです。

プルースト効果の語源になったシーンでは、幸せや喜びがあふれてきましたが、逆に恐怖や苦痛が蘇ってくることもありますから、自分の苦手な匂いにも、ちょっと注意を向けておく必要があります。

トラウマのような出来事が蘇ったりすることもありますし、何だか、分からないけれど、悲しく、やるせなくなったりするかもしれません。




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