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ゆめゆめゆだんめさるなかれぇ~!

「せっかく夢の研究家になったのに、何もすることがないなんて!?」
そうつぶやいて、すやすや姫はがっかりしていました。とても困っていたのです。

たしかにそうですよね…いったいどうしたらいいのでしょう?  ただただ…すやすや眠っていていいものでしょうか?  すやすや姫は〝夢の研究家〟になると決心したことにすっかり満足していました。でも、すっかり満足したせいかもしれませんが、それからというもの…まったく夢をみなくなってしまったのでした。
 
夢のレポートをして、もっともっと〝夢の研究家〟になるつもりなのに、すやすやすぃ〜っと…すっかり寝入ってしまうのでした。夢の世界を観察するどころか…いつのまにか朝になっているのです。もちろん何も覚えていません。レポートなんかできるわけもないのです。

そんな朝がずいぶんつづいていました。すやすやすぃーっと…朝までぐっすり!…今朝もそんな朝でした。すやすや姫のつくった〝夢の研究〟のファイルは空っぽのまま、ついに18日も経ってしまったのです。
「ちっとも夢をみない日が・・・15,16,17、18!」
カレンダーのマス目を数えていると、ふとお父さんが話してくれたことを想い出します。
 
すやすや姫のお母さんは、生まれたばかりのすやすや姫が気持ちよさそうに眠っている様子にいつも見とれていたって… お父さんは言っていました。うっとりと、赤ちゃんすやすや姫を見つめているうちに、いつのまにかお母さんも、すやすや眠ってしまったそうです。
 
「そこに… 」
お父さんはとてもぶっきらぼうに言うのですが、すやすや姫はそのお話が大好きでした。
「そこに〝夢の妖精〟がいた…たしかにいたと想うんだよ。」
お父さんもうっとりしてるみたいで、それからいつもちょっぴりさみしそうな顔になるのです。
 
「夢の妖精…」
すやすや姫には〝夢の妖精〟がなんだかわかりませんが、夢の世界に連れていってくれるのかもしれないと思ったのでした。お父さんにきいてみるよりも、トンボやチョウチョみたいに、ゆっくり図鑑で調べてみようと思いました。お父さんにもわからないことがいっぱいありそうだし、お父さんのさみしそうな顔をみるのはつまらないって思ったのです。 

すやすや姫はそんなことを考えながら朝ごはんをたべていました。こんなに静かに朝ごはんを食べるなんて!とてつもなくめずらしいことです。それからひとりごとまで言いはじめました。
「18日も夢をみない…なんて…〝夢の研究家〟になれないかな? なれないかも!」
 
すやすや姫のひとりごとに、納豆を海苔で巻いていたお父さんの手がとまりました。
「じゃあ、夢の妖精と仲良くなるといいかな?いいかも!」
お父さんも〝夢の妖精〟のことを想い出して入たのでしょうか…
 
すやすや姫はびっくりして、お父さんの目を見て言いました。
「どこに? 夢の妖精はどこにいるのかな? 」

お父さんはふわふわ笑いながら、なんでもないことのように言うのです。
「果報は寝て待て!ゆったり待っているのがいいよ。空からいつの間にか… 夢の妖精が舞い降りて来るのを待つんだ… すやすやメロディーに耳をすますんだ… 」
 
すやすや姫はお父さんの声を聞いていると、朝なのに!なんだか眠たくなりました。〝果報は寝て待つ〟のがいいのだから、すやすや眠っていればいいはずだけど、ちっとも夢は舞い降りてこないのです。
夢を見ることもなく…すやすや眠るばかりなのです。そんなふうな日がまた…いく日もいく日も続いていき…ついに22日めの朝が来ました。
 
「すやすやすくすく眠れる!これだけで大天才だ。夢の妖精は近くでひらひらダンスしてるのかもしれないよ。耳をすませて!いつ夢の妖精が舞い降りてくるのか… それは誰にもわからないからね。ゆめゆめゆだんしないでおこう!」
 
「舞いおりてくる…?」
すやすや姫は〝のりたま〟をごはんにふりかけながらつぶやきました。しらす干しもごはんに舞い降りてきたらいいなあ…とも思いました。
 
「うん…夢の研究家は世界中にいっぱいいるから、本を読んで勉強もしてみたらいいね。夢をとても大事にしたインディアンの話や『夢のお告げ』で国を治めていたり… そんな記録がたくさんあるよ。」
 お父さんはいっぱいいっぱい、いろいろなことを知っていそうです。

夢が舞いおりてくるのを待つあいだ、すやすや姫はもっと『夢』を勉強してみたいと思いました。夢は形がないから、どう勉強したらいいのかわからなかったのですが、夢の研究家はいっぱいいるみたいだし、夢の研究の本もたくさんありそうです。 

とにかく〝夢の研究家〟になることを絶対にあきらめない決心をして、すやすや姫はイスから立ち上がり、ぴょんと1回ジャンプして、言いました。
「わたし、夢の研究家が書いた本を読んでみる!勉強する!」

ふわふわ父さんは、両手を高くあげて、とても感心したように言いました。
「すごいねぇ… すやすや姫は勉強したいって思うんだねぇ。勉強は自分がしたいと思えば、いつでもできるから、どんどんやれるよね!」

それから、ちょっとアルカイックな微笑みを浮かべて、つづけました。
「誰にでも夢の勉強はできるけど…夢の妖精が舞い降りた…深い夢の世界をレポートした研究家はいるのかな?ほんものの〝夢の研究家〟のお話をきいてみたいって思うんだよ。」
ふわふわ父さんは虹の彼方のまだ見たことのない世界に憧れる少年のような目をしています。

「眠っているのに…〝夢の妖精〟が舞い降りてきたことがわかるかな?夢のなかでもちゃんとレポートできるかな?ちょっとゆだんしたら、すぐに何も見えなくなっちゃうかな?夜の闇のなかにドロンと消えちゃうかも…」
 
「ドロン!となぁ…」
お父さんがテレビで見た歌舞伎の役者さんみたいな振りをつけてジャンプしたのたので、すやすや姫の目はまんまるになりました。そして今度は歌舞伎みたいな抑揚をつけて、もじゃもじゃ頭のお父さんは声をはりあげます。
「すやすや姫様、ドロン!とやらには… ずずずぃーっと… ゆめゆめゆだんめさるなかれぇ~!」
 




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