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迷ったときは楽しい方を。 がんばらない「ゆる薬膳」で感じる暮らしのつながり。

「おにいちゃん、かーしーてー!」
「ちょっとまって…。あ、とったなー!まてまてー!」

子どもたちが騒いでる。

以前の私ならすぐにイライラしていたけれど、最近は少し違う。子どもたちのやりとりを眺めていられる。

気にならないことが増えたのかな。
ううん、違うな、物事を広く見られるようになったのかも。

一歩下がって見る感覚。

騒がしいのではなく、はしゃいでいるって思える。楽しいんだろうな、おもしろいんだろうなって、私まで笑顔になる。

閉じていた扇子が広がっていくように、どんどん視界がひらけていく。

それは、薬膳に出合ったから。

全てがつながっている感覚は、薬膳を暮らしに取り入れて感じたこと。今は薬膳が自分の一部になって、染み付いている。

がんばりすぎずに、暮らしを「薬膳する」ことが、今の私には心地いい。

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「発信を続けているのは、薬膳が自分にしっくりきたから。もう、私の一部です」

画面越しにそう話すのは、薬膳ライフアドバイザーのchikaさん。自分から話を主導するのは苦手と言いつつも、薬膳の話になるとその「伝えたい」想いが溢れ出すようだった。

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言葉の端々から、熱量が伝わってくるようなchikaさんの薬膳講座。

養生のポイントをしっかり伝える、理路整然としたメール。
アイテムをゲットするように、ゲーム的視点を取り入れたオリジナルテキスト。
難しそうと敬遠されがちな薬膳を、どうしたら分かりやすく伝えられるか。

chikaさん自身も悩んだからこそ、薬膳の世界観をイメージしやすいように例えや図を使って、受講生が自分で考えて学び進めていけるような工夫がしてある。

直接言葉を交わすのは初めてだったけれど、緊張感を飛び越えて対話に没頭できたのは、文面からも感じた真っ直ぐで柔らかな人柄のおかげ。

そして、楽しみながら自分にフィットする暮らしを探求する、芯の強さとしなやかさを感じる時間が、そこには流れていた。

chika 薬膳ライフアドバイザー。薬膳を使ってごきげんな人生を送るをモットーに、オリジナルテキストを使った季節のゆる薬膳、はじめての薬膳講座を開催。管理栄養士→菓子開発→中医学膳士。夫、5歳と3歳の子どもと暮らす。長崎県在住。


薬膳との出合い

「1人目を妊娠したと分かった瞬間から、不調が始まったんです」

出産まで続いた便秘と咳の症状がとにかく辛かった。

「ショックでした。栄養学を学んでいて、食には気を遣っているはずなのにって。もう一度栄養学を学び直す過程で、『薬膳』や『漢方』という言葉と出合いました」

栄養学にはない考え方に興味をもったchikaさんは、2人目を妊娠した時に自分の体で「実験」をしてみた。薬膳で便秘や咳の症状に良いとされる食べ物を取り入れたり、薬膳的視点からそれぞれを引き起こす原因など探っていった。

「当時のノートを見返すと薬膳のことばかり(笑)分からない言葉が多くて、頭の中はハテナでいっぱい。でも嫌にはなりませんでした。分からないながらも、実践していくうちに、咳も便秘の症状も和らいでいって。1人目の時と比べて、妊娠期間がすごく楽だったんです。季節を意識した過ごし方や、体質に合った食べ物を取り入れると、こんなにも違うんだ、変わるんだって感動したのを覚えています」


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chikaさんが薬膳に感じたおもしろさや魅力は「全てがつながっている」ことだったそう。

「大学で学んできた栄養学はミクロの世界。お米は炭水化物で、どんな消化酵素で消化されて…といった具合に、食べ物を物質としてみている感じです。その観点も重要なんですけど、あまりにもミクロすぎて、自分のことのように捉えられていなかったのかもしれません」

一方の薬膳は、中医学の理論をもとに、体質や症状、体調、季節などに合わせたオーダーメイドの食事のこと。自分の体だけを診るのではなく、心身を含めた身体全体で診る。自分の身体は、季節の移り変わりによっても変化する。自然界とつながりがあり、全体が影響し合っていることを感じたのだそう。

「便秘や咳も、何か1つのことが原因で起きていたのではないんだと実感しました。薬膳を知ると、季節の変化や旬の食べ物に敏感になります。以前は真冬のスーパーで、ズッキーニを探してたんですけどね(笑)スーパーにいつも並んでいる食材ではなく、きちんと旬のものをいただきたいと思います。私たちも自然の中で生きていますから」

優先順位は自分の楽しさ


「薬膳をたくさんの人に届けたいと思ってます。でもその形というか、やり方をまだ模索中なんです」

春、梅雨、夏、秋、冬の季節に合わせた「ゆる薬膳」のレシピ集、薬膳を体系的に学びたい人向けの講座「はじめての薬膳」をオリジナルテキストで届けるchikaさん。以前は、個人の食事内容や悩みの症状を聞いて体質診断を行うサービスも提供していたが、現在はお休み中だという。

「誰かの体質を診る機会はなかなかないので、すごく良い経験になりました。食事の内容や悩まれていることを聞いて、中医学の視点での体質やおすすめの食材や養生を伝える。体調が良くなった、症状が改善したなどの声はすごく嬉しくてやりがいもあったのですが、自分の活動量と対価のバランスが崩れてしまい、今はお休みしています。体質診断は悩まれていることにアドバイスをしていくので、どうしても相手に入り込んでしまう面もあり、そうすることで自分もしんどくなってしまったんです」

もっとも大切にしているのは「自分が楽しむこと」だとchikaさんは話す。楽しくなければ続かないから、自分の楽しさの優先順位は高くする。無理をしすぎない、がんばりすぎない、ゆる薬膳の暮らし。届けるからには、まず自分がそれを実践する。そんな姿勢を感じた。


暮らしとは何か

当たり前にそこにある暮らし。一人ひとりが心地良さを探しながら、感じながら、日々を過ごし、それぞれに合った「暮らし方」をしている。薬膳を知ってから180度変わったというchikaさんの今の暮らしは、どんなものだろう。

「暮らしって、ずーっと続いていくもの。気合を入れてがんばるというよりは、ゆるゆる自分のペースでやることが大事。だから、ゆる薬膳。私にとっては薬膳を取り入れた日常が暮らしの基本になっています。なくてはならないものだし、暮らしそのものが薬膳といえるかも。もう、頭が薬膳、思考が薬膳ですから(笑)」

物事を薬膳的な視点で見れるようになってから、相手のことだけではなく、自分自身も広くみれるようになったという。

「何もしなくても楽しいなって思える、ごきげんな状態が増えてきたと感じてます」

以前は子どもたちが騒いでいたらイライラしかしなかったというchikaさん。今はその様子がおもしろいと、笑ってみていられる。

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「あれ、今怒ってないぞ、イライラしてないぞって、ふとした瞬間に思うんです。自分の気持ちの持ち方や置き具合で、こんなにポジティブに物事を見れるんだって。今でもイライラすることはもちろんありますが、そんな時でも頭の片隅で『こんなにイライラしてるってことは、氣が巡ってないのかな、血(けつ)が足りてないのかな』なんて、薬膳的な視点で自分を観察したりしてます。同じように不調を感じた時も、薬膳の観点で見ると原因と対処法が見えてくる。自分でできることがわかるから、気持ちは平穏でいられるんです」

自分にはできることがあるという自信。それは暮らしを楽しむ自信にもつながる。薬膳を学び続けることで、chikaさんが手にしたものはなんだろうか。

自分の取扱説明書を
自分で理解する

「昔、手荒れが酷くて、いろんな皮膚科に行って処方された薬を塗ってたんですけど、全然治らなくて。でも薬膳で食べるものを整えていったら自然に治ったんです。今でもたまに手先が荒れることがあるんですけど『胃腸に負担かけてるな』とか、症状が起きる理由が分かっているので冷静に自分を診ることができます」

「手荒れ」と一言でいっても、原因や対処法は人によって違ってくる。それぞれの体は違っているからだ。自分の体の「取扱説明書」を「自分で」理解できること。それが薬膳の醍醐味でおもしろさだとchikaさんはいう。

「薬膳を深く学べば学ぶほど、今までは点でしか理解できていなかったことがつながっていくんです。こういうことだったのかって、つながって線になる。今導かれるように薬膳を学んでいますが、振り返ると高校生の時に進路変更をした時からつながってきたのかもしれません。食への興味から栄養学部のある大学に入って、管理栄養士の資格を取ってからは、自分がおもしろそうと思った菓子開発に携わってきました。いろんな材料を集めてきて、形のあるものにしていくのが楽しくて。その感覚は、薬膳のテキスト作りに生かされているかもしれません」

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迷ったときは、楽しいと感じる方を選択してきたchikaさん。これから大事にしていきたいことはなんだろうか。


子どもとの時間も
大切にしたいから

「自分が楽しいことと同じくらい大事にしたいのが、子どもとの触れ合い。薬膳の発信は楽しいことですが、子どもとの時間を犠牲にしてまでやろうとは思ってません」

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平日に毎日ブログを書いているchikaさん。子どもが幼稚園に行っている午前中に、薬膳や最近興味の出てきた環境問題など、暮らしに関するあれこれを発信している。

「時間が限られているので、毎日集中してやっています。ブログでの発信は、書くネタに困ることもあるのですが、書き出すと止まらない。文章を書くのは決して得意ではないのですが、書いているうちに自分の気持ちがわかったり、書くことで情報の整理にもなるので、頭がスッキリします」

薬膳をたくさんの人に知ってもらいたいと言いつつも、そこに固執することはない。

「薬膳や環境問題など、暮らしに関することを発信してますが、ごきげんな人生を送ることが一番だと思ってます。薬膳を学ぶ目的は、料理を作ることではないから。あくまでも、ごきげんな暮らしを送るための手段です。環境問題も暮らしにつながっているから、自分ができることを少しずつ取り入れたり、調べて発信しています。それぞれが心地いい暮らしを見つける。その中で私にお手伝いできることがあれば、すごく嬉しいなと思います」


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「つながり」

chikaさんと対話をする中で、感じた言葉だ。

「植物を見てても、人と同じだって感じます。植物も人も、水、光、風、栄養が必要ですよね。人も一緒。全てがつながっているってこういうことかって、毎日が発見の連続です」

そんな風にさらっと語ってくれたchikaさん。そう、わたしたちはつながっている。

自然の中に人間がいるのではなく、人間も自然の一部だ。

薬膳の視点を取り入れると、少し違って見える自分や相手、周りの景色。

近すぎると、見えないこともある。
近づきすぎで、見落とすこともある。

そんな時は少し立ち止まったり、
一歩後ろに下がってみたらいいのかもしれない。

目を瞑って、深呼吸をする。

目を開けたら、すぐそばで、きっと、ごきげんな自分が微笑んでいるはずだから。

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文責 CHIHIRO
写真 chika

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