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実感のある文章は伝わる。「苦手から始める作文教室」を読んで

「文章が書けたらいいことはある?」

この素朴かつ、核心をつく質問に答えてくれる本です。


津村記久子さんが書いた「苦手から始める作文教室」は、ちくまQブックスシリーズの1つ。

身近なQuestion「なぜ」を出発点に、Quest(探索)の大切さを伝えるというコンセプトがステキだなと思って、手に取りました。




友達が話しかけてくれているような語り口なので、スルスル読めます。「作文教室」という題名からも察することができるように、おそらく小学校高学年か、中学生を対象にした読み物なのでしょうが、(ひらがな多めで、「距離」という漢字に振り仮名が付いている)大人でも十分楽しめます。むしろ、大人の方が楽しいかもしれないです。

特に、
・文章を書くことに苦手意識がある人
・SNS投稿に何を書いたらいいのか悩んでいる人
・どうやったらもっといい文章が書けるかなと思っている人
にとっては、かなり有益な本だと思います。

自分の頭の整理のためにも、内容をシェアします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

文章を書くための3つのポイント


9章で成るこの本は、大きく3つのポイントに分かれていると思います。

まず、「書く前の話」です。

何を書いたらいいのか、どうやって書いたらいいのか、という書く前段階の話をしてくれます。特に大事なのがメモの話。日常で気になったことや、忘れたくないこと、くだらないことや、愚痴など、なんでもいいからメモを取る。それが書く前の準備になります。

2つ目は、「中身の話」です。
書き始めるコツや、伝わる文章とは何か、また感想文を書く理由についてなどが書いてあります。

3つ目は、「そもそも文章とは」という話です。文章をもっと良くしたい時はどうしたらいいのか、作文に正解はあるのかなどです。

この著者の津村さんはたくさんの賞を受賞しているすごい作家さんなのですが、私はこの本で初めて知りました。だから津村さんの印象は、この本からのみなのですが、一言でいえば、「ゆるゆる」です。

思ったことをそのまま書いたので、上手い表現ではないですが、悪口じゃありません。

スパッと切れ味の良い包丁のような、端的に表現した文章ではなく、大根おろし器みたいに、時間をかけて丁寧に説明してくれている印象を受けました。大根をおろしていると、大根おろし器のフタの裏にもすり下ろした大根がくっつきますよね。それもしっかり確認して、取り残しのないようにできるくらいの丁寧さです。

読者を置いてけぼりにしないので、読みながらしっかりと理解できる本だと思います。

では、1つずつ、詳しくみていきます。

①「書く前の話」メモを取ろう



書く前段階において、津村さんは「メモ」を薦めています。いや、かなり熱く推しています。メモをとることが自立につながる。今まで思いもよらなかったメモの奥深さにも触れて、胸が熱くなりました。


少しむずかしい話かもしれませんが、自分の考えたことを書き留める行動は、自分という人間を内側から支えることにつながります。それは、自立という状態にもつながってます。その状態は、いつもいつも誰かにそばにいてもらって話を聞いてもらったり、話を整理してもらったり、話をほめてもらったり、話をほめてもらえないからといって怒ったり悲しんだりすることをせずにいられる状態でもあります。ものすごく乱暴に言うと、お母さんにずっとそばにいて話を聞いてもらったり、誰かを無理やり話を聞いてくれるお母さんに仕立てあげたりしなくていい状態です。この自立という状態は、自由という価値のあるものへとつながっているようにわたしは思います。

P47


確かにメモは、過去の自分が、未来の私に投げてくれたボールとも言えるかもしれません。自分の脳内対話のきっかけにもなるし、考えの促進にもつながります。そういうアレコレが、書くことのタネになる。

私もよくメモをします。スマホアプリの「Bear」や、考えをまとめる用の無印良品の自由帳、息子が学校から持って帰ってきたお便りの裏、手帳のすみっこや、レシートの裏などに書いています。

後から見返して、「はて、なんのこと?」と思うことが半分以上ですが、それでもすごく助けになることもある。メモは書くことの第一歩なんだと思っていたけど、プロの作家さんの太鼓判を押してもらったので、これからも続けていこうと思います。


②中身の話 書くことへのハードルを下げてくれた「コバエ」のエッセイ


じゃあ、実際に書いてみようと思った時に、わざわざ書くのだから、なんとなく高尚なことを書かないと…と身構えることはありませんか。私はそうでした。

でも津村さんの「虫のこころざし」という「コバエ」に関するエッセイを読んで、肩の力が抜けました。わざわざコバエのことを朝日新聞の連載エッセイに書くなんて。結構衝撃でした。だってコバエです。

決してくだらないとかではなく、日常のささいなことって、こういう「コバエ」のような、家を出たら忘れちゃうような出来事なんだなと思わせてくれました。そしてこの「コバエ」のエッセイはおもしろいです。津村さんの脳内会話を聞けているような、でも、他人の生活を覗き見しているような感覚です。

(このエッセイを読んで私は、家にゾウリムシが転がっている話を書きたいと思いました)

「伝わる文章」は書けていますでしょうか?


文中で津村さんは、読者にこう語りかけています。書き手側からは読み手の気持ちはわからない。プロの作家さんでも分かりません。では、どうやったら、読み手に伝わる文章が書けるのか。

そのポイントの1つとして挙げているのが、「実感」です。

実感とは「本当のことが書いてある」と思えること。書き手自身の心を正直に書いているか、とも言い換えられるかもしれません。嘘がないってことです。

自分を変に大きく見せようとしている文章を津村さんは「つまらない」といいます。

でも、自分の日常なんて平凡だし、そんなの読んでおもしろいの?と思う人もいるかもしれません。それに対し津村さんはこう答えます。

「ずっと文章を書いてきて気付いたことの一つに、自分自身のしょうもないありのままの出来事を文章に書いてみると、そのしょうもないありのままの出来事が、でも捨てたものではないなと思えてくることです。意味がある、と言い切ってしまうのとはちょっと違いますが、「しょうもないのもそれほど悪くないな」という感じです」

P69


プロの作家さんの文章だから、という理由もあるかもしれませんが、津村さんのコバエのエッセイを、私はすごくおもしろいと思いました。もし友人がコバエの話をしてきたら、ゲラゲラ笑って聞く気がします。その「しょうもなさ」が逆におもしろい気もする。

本当はそう思っていないのに、それっぽいことを書き連ねたものよりも、大したことではないかもしれなくても、本当のことを書く。自分が感じたこと=「実感」のこもった文章は、嘘がないとわかるし、すごくおもしろいなと思います。



③「そもそも文章とは」 本当のことをおもしろくする方法


とは言っても、せっかく書くなら多くの人に「おもしろかった」「良い文章だった」と言ってほしいですよね。私もそうです。

本当のことを書いていてもおもしろいと思ってもらえる。そのために大事なのは「細部がわかること」です。

例えば、「お菓子を捨てようとする」よりも、「クリスマスケーキを床に落として破壊しようとする」の方が、リアリティがあるし、想像ができます。

(なんだかすごい例えですが、この本に載っていた文章を一部使いました)

細部を描くには、注意してみることが大切です。自分が興味のあること、好きなことであれば、自然とその細部を知りたくなります。そしてその細かいアレコレを文章にしたらいいのでは、という提案です。

自分は芸能人の誰と誰が付き合っているかとか結婚したということには関心がないかもしれませんが、電車の窓から見えるよその街の風景には興味があるかもしれません。流行の食べ物には関心がないかもしれませんが、You Tubeのゲーム実況者がゾンビには負けないけどカラスは苦手だということはずっと考えられているかもしれません。

P105



スイーツが好きな人がおすすめのケーキ屋さんについて書くのであれば、甘すぎない生クリームのケーキとか、米粉なのにふわふわのスポンジのすごさとか、具材がモリモリのタルトを発見した喜びなど、細部にわたって実感を込めて書けそうです。読み手もワクワクとした気持ちで読み進められます。 




万人がおもしろいと感じる出来事は、そんなに多くはありません。でも内容が面白くなくても、面白い文章はあります。


この本の中に、「祭りのあと」というエッセイが載っています。めちゃくちゃおもしろくて、私は途中で吹き出しました。

祭りといっても、「秋の事務手続き祭」なので、自分一人で開催できる「ヤマザキ秋のパン祭り」的な雰囲気です。

細部がわかって、想像できるのはこんなにもおもしろい。そう実感できます。

私はこういった「内容以上に文章そのものがおもしろい。笑える」本に出会えると、読書が趣味でよかったなと心底思います。

津村さんの「内容以上に文章そのものがおもしろい。笑える」本は、椎名誠さんの「わしらは怪しい探検隊」だったそうです。私にとっての1番最初の「内容以上に文章そのものがおもしろい。笑える」本は、さくらももこさんの「もものかんづめ」でした。

小学校5年生の時、当時仲の良かったさわちゃんと、昼休みになると小学校の図書室へ行き、額を寄せ合って、笑いを堪えながら読んだ1冊です。

漫画ちびまる子ちゃんよりも、さくらももこさんのエッセイの方が、私にとっては何倍も笑えました。文章だけでこんなにおもしろいなんて。その感情を味わいたくて、今も私はせっせと本を読んでいるのかもしれません。

まとめ



120ページほどの薄い本だったので、2時間程度で読めましたが、本を閉じてからも何度か繰り返しページをめくっています。濃密な読書タイムを過ごすことができました。

大人になっての作文は、今の時代だったら、こういうSNS投稿を指すのだと思います。どうしても他人の反応や「いいね」数に、一喜一憂しがちですが、まずは書くことは自分との対話であり、嘘ではない自分の実感を表現するものだのだと改めて感じました。

読書感想文に悩むお子さんにもおすすめの一冊です。
(現在小2の息子は、字が多すぎる…と読めませんでしたが、小4の友人の娘さんは面白かったと絶賛していました)













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