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インタビュー記事①ベーグル専門店の誠実さと責任感。イイトコvol.9


「この白神こだま酵母のプレーンの生地が土台として崩れない限り
わたしは自信をもって、ベーグルを焼いていける」

そう語るのは、ベーグル専門店 atelier3103(アトリエ サトミ)の店主
面 沙都美さん(おもてさとみ)さん。

石川県能美市にある、小さなお店。

壁に打ち付けてある看板が、こじんまりとしてるけど、目を引きます。

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*週に1回しかopenしないベーグル専門店
*並ぶ種類は毎回10種類以上
*ちょっとジャンキーな(!)揚げパンも隠れた人気

先月1周年を迎えた小さなお店には
11時のopenめがけて列がつく。

「正直、今は週に1回が精いっぱいなんです」

”週1回”ということに
うしろめたさを感じながらも

"数にとらわれて、手を抜きたくない”

その狭間で揺れつつ

今の自分が精いっぱいできることを考え
等身大の自分で勝負する
atelier3103の ”今”  を聞きました。

<お店を開くまでの道のり>

>>なぜベーグル屋をやろうと??

「単純に自分で何かしたかったんです。

カフェをめぐったりすることも好きだったし
やるなら、飲食関係かなって。

料理教室に通おうと決めたとき、コースが分かれていて。
料理、スイーツ、パンの3コース。
全部の工程を一人でできるのがパンだったので、パン作りを選びました。

そのコースの最後に習ったのがベーグルでした。

作ってる最中になぜかピンときたんです。
あ、もし何かやるならコレだな、と。

ベーグルの基本材料は
強力粉、酵母、砂糖、塩、水。

牛乳や卵、バターが入っていないのに
このモチモチ感とおいしさ!

感動して、ベーグルに夢中になっていきました。

その後、イベント出店をしながら
さらに納得のいくベーグル目指して、試行錯誤。

干しぶどうを使った自家製酵母に挑戦したりしたんですが
なかなかうまくできなくて。
安定させることができず、わたしには合わなかったんですね。

そんなときに出会ったのが 白神こだま酵母 でした。」

パンがパンになるためには「酵母」必要だ。

白神こだま酵母はその名の通り
世界自然遺産に登録された白神山地の腐葉土から発見され
分離、選抜された野生の製パン用の酵母のこと。

酵母のみでドライ状になっており
乳化剤などの添加物不使用の野生酵母である。

「いわゆるドライイーストの形状なんですが
ドライイースト特有の匂いみたいなものがなくて
個性的だけど、いい匂いだなーって。

調べていく中で、白神こだま酵母の自然の力強さを感じたし
何よりもすごくおいしくて、これに決めたんです。

イベント出店から、店のopenまで7年くらいかかりました。」

<1人でやる大変さ>

「正直、今は週に1回が精いっぱいなんです」

土曜日のopenめがけての仕込み
卸先への納品
発送用の冷凍ベーグルの注文が入ることも。

その他にも、消耗品の買い出し、お金の管理etc...

「1人でやるのが、こんなに大変だと思いませんでした。」

「それでも”思い通りにできる楽しさ"は、
何物にも替えがたいなぁなんて思います。」

いちばんの楽しみはお客さんの”反応”

自分で考えたものが、形になる。
それは必ず "反応" となって返ってくる。

うまくいっても、いかなくても、おもしろい。

「失敗しても、あまり凹まないんです。
そうそう、以前うぐいす豆のベーグルを作ったことがあって。」

「卸先である施設の職員さんからは"おいしかったよ”と
言ってもらえたので、店頭にも出したんです。
そしたら、笑っちゃうくらい残ってしまって。
年齢による嗜好の違いもあるんでしょうかね」

実験のように、反応を楽しむ。

そこに気負いはない。


来てくれるお客さんにも選ぶ ”楽しさ” を提供したい。
それが少量多品種にこだわる理由だ。

それぞれにファンがいるので
ヘルシーなベーグルとは対極の揚げパンを作るのを
やめようかと思う日もあるそう。

「でも、コレがなかったら、いつも3袋買ってくれるあの人は
買うものないなって思って、結局作っちゃうんです」

<ベーグルを通して伝えたいこと>

「”誠実さ”かな。」

大切にしていること
ベーグルを通して伝えたいことはありますか?と聞いたら

ベーグルを捏ねながら、よく考えたりするんですけどね、と
前置きをして、答えてくれた。

「自分がうまく使いこなせてないっていうのもあるんですけど
instagramの威力にびっくりしています。

おすすめを書くと、お店に来てくれたお客さんが
コレが今日のおすすめなんですねーって声をかけてくれる。
みなさん、ちゃんと読んでくださってるなぁって嬉しくなります。

その反面、見た目重視というか、おいしそうに見せすぎるのはどうかなぁって。
いちばん大事なのは ”味” だから、そこは変わったらいけないって思ってます。」

「あとは、長く続けたい。それこそ ”老舗の味” みたいになったら嬉しいなぁ」

100年、200年続く老舗の味は、決して複雑じゃない。
シンプルで、でもこだわりすぎない。長く愛される味。

「この白神こだま酵母のプレーンの生地が、土台として崩れない限り
わたしは自信をもって、ベーグルを焼いていける、そう思ってます。」

atelier3103の軸となる "おへそ" はまさにこの一文に凝縮されている。

<頼りになるブレーン>

「1人でやっていると
これでいいのかなって思うときがあるんです。
そんなときに、頼りになるのが、小麦粉などを納品してくれる
材料やさんなんです。」

「週に1回土曜日のopenって決めてるけど
うしろめたさがないわけじゃないんです。
もっとできるんじゃないか、とか。お客さんに申し訳ない、とか。
だから、ポロッと聞いたことがあって‥。

そしたらこう言ってくれたんです。」

自分は材料やだから、パンのことは分からないけど
自分で決めたことはブレずにやった方がいい。
今の時代は何でもあり。
週1ってわかってくれる人が、来てくれれば、それでいいんじゃない。

「時間も数も限られているからこそ
おいしいもの、よろこんでもらえるものを、提供したい。
より一層、作る責任を感じています。」

<悔しかったこと>

「以前、あるお店に置いてもらっていたんです。
だけど、納品しに持っていくだけでおしまい。

売り切れればいいけど
残った分は、お店の人が翌日も並べてくれていました。
冬は、ベーグルが硬くなってしまうので
翌日に持ち越したものは味が落ちるんですね。

そんなことが重なると
初めは毎週のように来てくれていたお客さんが、来なくなってしまって。

売れ残ることが続くと
お店の人の対応も冷たくなってしまい、取引終了。

自分に対する悔しさが残りました。

パンに対する責任が足りなかった。

売れ残ったら回収しに行ったり
お店の人にこうして欲しいって伝えればよかった。

自分の手を離れた後の責任を感じたし
より一層自分の手元で売りたいと思うようになりました。」

<嬉しかったこと>

「お客さんが来てくれるってことが、本当に嬉しいです。
いつも来てくれる常連さん。
初めましての方。

予約してくれる人は会えるってわかるから
待つ楽しみもあります。

たわいのない会話やエピソードを共有できる。
その人の生活の中に、自分のベーグルがあるって
すごく嬉しいし、誇らしい気持ちになります。」

<最後に>

「スキ」を話す人は、見てるだけで楽しい気持ちを、こちらに運んでくれる。

時間は限られている。
自分の持ってる知識も限られている。

だけど、その限られたモノを
精いっぱい注ぎ込んで

何かに夢中になっている人
それを極めていこうとする人の言葉は
密度が濃い。

”作る人は、お客さんに、安心で安全なものを食べさせる義務がある”

って思ってます。

だから、誠実に、責任を持って

おいしいっていってくれるものを、作りたいと思います。」

atelier3103の ”おへそ” にふれられた日。

(そういえば、ベーグルのくぼみって、まさに”おへそ”みたいだ。)

おいしいの向こう側を、知る、感じる。

それは、食べるという行為を、味わうという時間を

より一層、深いものにするんじゃないかと思います。


***さとみさん
わたしの初めての、つたないインタビューを受けてくださり
ありがとうございました。

心から感謝いたします。

special thanks.... @atelier3103   
https://www.instagram.com/atelier3103/?hl=ja

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おまけ:チーズベーグル&抹茶と小豆(クリームチーズ入り)

ほんとに、美味しいですよ◎

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