22.動きの表現・「ひらみ」を考える①(動きの原因をイメージして、流れを作る)
動かない「静止画」で前後の動きを感じさせる……つまり「躍動感」を出すためには、ポーズだけでなく、「ひらみ」の表現が重要な役割を果たす。
【ヘッダー写真 ジャンヌ・ダルク:ライラックさん】
F4 1/200s ISO2500
Canon EOS5D MarkⅢ+EF50mmF1.4
以前、写真の中の「見てほしいところ」の際立たせ方③(「動き」で視線を誘導する)という記事で、「写真の中の流れ」を中心として「ひらみ」による表現を扱った。
また、「ポーズ作り」は誰の仕事? (レンズの焦点距離に合わせて「ポーズ」の迫力を考える)では、迫力のあるポーズの作り方について書いた。
今回はこれらの要素を組み合わせ、「動き」(アクション)の表現を中心に、どのような「ひらみ」を作るべきかを考えてみる。
アシスタントがいればアシスタントに委ねるのもいいが、三脚などにカメラを預けて、カメラマンも「ひらみ」に参加する方が、単純に手も増えるので、表現の幅が広がる。
①その部分が「なぜ動いたのか」をイメージし、考える
「なぜ動いたのか」、言い換えると、「ひらみ」の部分が、なぜ「そこにあるのか」ということ。
ひらみには、
「動作に取り残された」
「自然の風で動いた」
「それ以外の力で動いた」
などの要因があり、それぞれの要因によって動き方は変わってくる。
もちろん、これらの複数の要因が絡む場合もある。
また、「素材(表現したい物体の重さ)」や「長さ」「空気抵抗」などによっても、動き方は変わる。
例えば、画像のようなシチュエーション。
もし、本来は重いはずの「鎧」や短いスカート(袴)などの動きが、風で動きやすい「髪」よりも大きい動きになってしまうと、不自然になる。
不用意に全ての動きを大きくするのではなく、的確に頭の中で「それがどう動くのか」イメージすることが大切だ。
②「動作に取り残された」場合の動き
動作と逆方向に取り残された衣装や髪などの流れを表現する「ひらみ」によって、まるで動いているかのように見せる表現。
特にアクションの表現をするなら、この「ひらみ」が欠かせない。
この画像では、キャラクターの髪が画面左へと大きくなびいている。
また、顔や視線が画面右に向かっていることで、武器を構えたまま画面右へと動いているように見えるかと思う。
つまり、画面右に向かう動作の結果、「動作に取り残された髪がなびいている」という場面を表現している。
実際のコスプレイヤーさんは一歩も動いていない状態なのだが、顔や視線の向き、ポーズ、そしてひらみの方向を組み合わせることで、このように「動作の瞬間」が表現できる。
ここでは、アシスタントが髪の動きを出すために、指の上を滑らせるような動作で髪の流れを作りながら、画面外へと逃げることでこの動きを表現している。
つまり、実際は「左へ引っ張られた毛先」が落ちる寸前の様子を撮っている状態だが、写真の中では「右への動作に引っ張られた髪がなびいている」ように見える。
実際にその通りに動いてもよいのだが、多くの場合、かなり激しく動かなければ、思ったほどの「ひらみ」が出ない。
静止画に向けたコスプレ撮影では、衣装や道具などを破損したり、転倒などをするリスクが高まるのでやめたほうがいい。
こちらは、右回転で振り向いたようなポーズ。
初音ミクの特徴的なツインテールの広がりを出すために、「回転に遅れてついてきた髪が、左右に広がった」瞬間を表現している。
「表現したい動作の中で、それぞれの部分がどう動くか」をイメージしたうえで、「動作のどのタイミングを写したいか」に合わせて調節しよう。
③「自然の風で動いた」場合の動き
撮影のタイミングで狙ったとおりにいい風が吹くことはほぼなく、言葉通り「奇跡」でしかありえない。
運も実力のうちとはいうが、理想の風を待っているだけでは撮影が進まなくなってしまう。
そこで、「自然の風が吹いたら、どう動くか」を計算して、ひらみを作るのがおすすめだ。
当然、「どの方向の風か」「どのくらいの強さの風か」「どの部分に、どの程度影響するか」なども計算する必要がある。
この写真も、ポーズだけを見れば先ほどの初音ミクの写真でお見せした「振り向きの動作」に近い部分がある。
だが、髪の動きを見れば、「振り向いた」ことによる動きではなく、「風が吹いた」ことをなんとなく感じてもらえるかと思う。
実際にこの形で「振り向いた」だけの場合、手前の髪が肩に当たるため、写真のような形で髪が動くことはない。
毛の長さなどによっては、「揺らす」程度でも動きが大きく出るので、滞空時間と、離脱までの時間を計算しながら調整しよう。
実際の場所は屋内なので、風が吹くはずはない場所。
ただ、雰囲気と合わせて写真を見た人に「風が吹いた」と感じさせることができれば、写真としてはそれでいいのだ。
髪などは先端ではなく根元から動かすと、動作が先端に伝わるまでの時間を稼げるため、逃げるまでの時間を確保できる。
また、真横に走るのではなく、少しカメラに近づくように、斜めに走る方が画角外に逃げやすくなる。
④「それ以外の力で動いた」場合の動き
不思議な力でふわふわ浮いているキャラクター。
布を敷いた脚立の上に座ってもらうことで体が浮いたように見せている。
このように、風でなくても、水中だから、無重力だから、強烈なエネルギーが出ているから、など、状況に応じて髪や布などに対してどんな力が働くかを計算する必要がある。
尻尾や翼など、「本来は力がかかっていることもの」の位置や、二次元ならではの髪のボリュームなどを補正するのもひらみの役目の一つ。
空中に「置く」ようなイメージで少し浮かせる、高めの位置から手を離すなど、出したい動きに応じて自然な形を作ろう。
⑤まとめ
「ひらみ」はただ動かすのではなく、表現したい動きに合わせて「なぜ動いたのか」「どんな力が働いているのか」を考えることで、写真の中に自然な動きを出すことができる。
また、動かす際には、衣装への負担なども考える必要がある。
引っ張る力などに応じて、どのように衣装に対して負荷がかかるかを必ず確認しておこう。
コスプレイヤーさんに別のコスプレイヤーさんのアシスタントを頼むときなどは、「ひらみ」の退避時の動きによってアシスタントの衣装なども破損する可能性があるので、無茶な動きは要求しないようにしよう。
衣装の様子を見ながら、動いても一歩程度に留めるのが良い。
また、「ひらみ」を作るには、「動かして画面外に消える」以外に、テグスなどで吊るして、固定してしまう方法もある。
逃げ切れない場合、手が足りない場合など、必要に応じて使い分けよう。
また、触っていい部分か、動かしていい部分かは、必ずコスプレイヤーさんに確認してから行うこと。
👓<二次元に「ひらみ」は必要なんだよ!
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