最果てのカフェに知らない女性の手紙を届けた話。4/4
再びフェアバンクスのホステルに戻り、バローまでの経路を考える。
ホステルの庭にテントを張っていた旅行者がいて「なぜ極寒の中テントを」と問いかけると、数人でキャンピングカーを借りて、凍てつくダルトンハイウェイを走破しよう計画していた。わたしの行きたい場所は、そこから更にカヌーで3日かかるけど、仮に走破できれば北極海は見ることができる。そう思い、彼らの動向を見守っていたが、初日にスピンして脱輪。翌日に運よく救助されたものの、危うく死にかけたと聞いて、わたしはとうとう陸路での移動を諦めた。
残すは空路、調べてみると、どうやらフェアバンクスからバローまでは小さな飛行機があるらしく、移動コストはそれなりにかかるが、北極海を見ることよりも、手紙を届ける目的を果たしたかった。
無計画なまま、衝動に駆られて飛び出したものの、なんとかバローに到着できた。すぐさま目的のカフェを目指して歩く。
手紙を受け取らなければ、来ることがなかったかもしれない。
黙々と歩いていると色々な感情がこみ上げる。
何故、北極海を見たいと思ったのだろうか。この手紙は大切なものだろうか。手紙の中身はどんな内容だろうか。自分は極寒の最果てで何をしているのだろうか。
気が付くとカフェの前にいて、やっとの思いでドアを開けた。
温かい珈琲をたのんで手紙を手渡す。すると、奥から老女がでてきて、目を潤ませながら手紙を読んだ。その時、わたしはなにも言うことができなかったけれど、それで良かった。ただ手紙を読む老女を眺めていたかった。どんな内容だったのだろうか、手紙を書いた女性とはどのような関係なのだろうか、わたしはもう、知ることができない。
そしてもう一つの目的、北極海を見に。
極夜の中、段々と
光が射す。
北極海の前で暫く立ち尽くして、とりとめのないことを考えた。それはもう忘れてしまったけれど、毎年、夏が近づくと思い出すことがある。
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