未来の制度を伝えに行く。~マネーフォワードのパブリック・アフェアーズ~
こんにちは、マネーフォワード Fintech研究所長の瀧です。
マネーフォワードは9月29日(火)に、ベンチャー企業を対象として「イノベーションで社会を変える、新しい産業を生み出す政策づくり」というイベントを開催します。このイベントの趣旨は「ベンチャー企業におけるパブリック・アフェアーズへの理解を深めること」なのですが、開催に先立って、当社におけるこの活動の考え方をご紹介させてください。
マネーフォワードが社会に向けて発信する機会
マネーフォワードは創業以来、お金の課題を解決するサービスを通じて、不安を減らし、ユーザーの可能性を広げていくことをミッションに掲げてきた会社です。私たちの会社は、基本的には家計簿や、会計サービスなどを通じて社会へ発信しており、お陰様で大変多くのユーザーの皆様に日々ご利用いただき、また様々なフィードバックを頂戴しております。
一方で当社では昨今、「サービス提供会社とユーザー」という関係以上に、実に様々な局面で社会に働きかける機会が増えてもきました。
それは、マネーフォワードが取り扱う事業のテーマがなかなか重い、というのも理由にあるかと考えています。当社は、単なるサービス提供者という立場に留まらず、例えば生活やビジネスにおいては、極めて機密性の高いデータを取り扱うだけでなく、人々の意思決定にも大きな影響を与える情報を提供していたりします。そのような会社が邪悪な意思を持ってサービス展開した場合には、当然ながら多くの人たちに迷惑をかけてしまうかもしれません。
また、データ利活用やITプラットフォームという言葉を最近はよく耳にしますが、社会におけるそのあり方も現在進行形で変化しています。マネーフォワードの活動が、様々な法制度や社会規範から外れることがないよう、また、その未来のあり方がより社会にとって望ましいものになるよう、私たちは様々な発信を行う必要があります。この働きかけのことを「パブリック・アフェアーズ」と呼んでいます。
ベンチャー企業は国にとって、社会をアップデートするためのヒント
パブリック・アフェアーズ活動とは、具体的には省庁や国会議員への政策提言や、メディアに向けた事業者としての見方の共有、また広くユーザーの皆様にアイデアを募ることなどがあります。そのような活動は、より大きな会社では「ロビイング」と呼ばれることも多いです。私も前職の金融機関でロビイングに関わっていたものの、ベンチャーで行う活動は、前職のイメージとは大きく異なっています。省庁や議員の方々が、私たちのことを「要望を伝えに来た人」というよりは「知らないことをインプットしてくれる人」という期待値を持って見ており、先方の接し方が思ってたよりやさしい(笑)と感じるのです。
その理由はなんとなくわかってきました。それは、社会制度が「常に実際の経済や人々のくらしに対して、少し古い事情を反映したもの」であるためです。ベンチャー企業は、それまでに試されてこなかった社会的価値や、サービス提供のあり方を一生懸命模索する存在です。そのような人たちは、制度を作る側から見れば、社会をアップデートするためのヒントを持っている立場でもあるわけです。永田町や霞が関の中ではその正解がわからないからこそ、当事者たるベンチャー企業の知見を重視していただけるのだと思います。
当社のパブリック・アフェアーズは一通のメールから始まった
思えば、当社のパブリック・アフェアーズ活動の端緒となったのは、金融庁から届いた一通のメールでした。
当時「金融庁からメールが来た!ひょっとしてお叱りを受けるのかな」と冗談にもならないことを騒いでいたのですが、実際に赴いて講演をすると、様々な方々からこれでもかという量の質問を受けました。そこには決して何か問題点を探そうとする姿勢ではなく、今の制度で想定できていない経済の可能性やリスクを必死で考えようとする真摯さがありました。この機会以来、マネーフォワードは、金融庁に限らず、様々な省庁や国会議員に向けても、このような働きかけを行うことをとても大事にするようになりました。
社会の未来を担い、誇りある仕事をする
一方で、どのベンチャーもそれぞれの利益追求の観点でいえば、自社だけを取り上げてほしいという誘因が出るのも事実です。ただ、それは場合によっては既得権益化や癒着と呼ばれるものにつながるため、制度的には許容されないものでもあります。「新しい社会に関するインプット」と「癒着の防止」をどのように両立していくかについては、様々な観点がありますが、一つだけ挙げるならば「フェアネス」の観点の徹底があると思います。
行動指針の一つとして「フェアネス」を掲げるマネーフォワードは、政策提言を考える際に、現在の様々なステークホルダーに加えて、未来の起業家を常に想定するようにしています。
フィンテックに限らずですが、日本のベンチャー産業はまだ歴史も浅く、層も厚くありません。そのような中で、小さなパイを巡る競争ではなく、「エコシステムの拡大を通じて、産業として発展していくこと。そこが優秀な人々の雇用の場所となり、さらに新しい社会変革の場として機能していくこと」というビジョンを持つことが重要であると捉えています。そのようなモメンタムを作ることは、もちろん一筋縄ではいかないですし、時にはしんどい悩みを抱えることもあります。ただ、会社のみならず、社会の未来を背負って仕事をする感覚は、とても誇りあるものでもあり、人に伝えたい仕事であるのもまた真実です。
9月29日(火)に開催するイベント「イノベーションで社会を変える、新しい産業を生み出す政策づくり」では、マネーフォワードで捉えてきたパブリック・アフェアーズの考え方に加えて、交通の世界で新たなチャレンジを進めているLuup社の考え方、様々な変革産業のパブリック・アフェアーズを支えるマカイラ社に蓄積されている経験則、そして、経済産業省の新規事業創造推進室側から見たこれらの活動の意義などについて、お話しする予定です。日本の未来を担うベンチャー企業にとって有用な情報が盛りだくさんですので、ぜひご参加いただけますと幸いです。