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役割を作って、役目を果たす

芝浦のカモメ

私は会社から徒歩8分の芝浦の一角に住んでいるのですが、お台場を臨む窓からの景色を気に入っています。リモートワークが始まるまでは気付かなかったのですが、たまにカモメが上昇気流を掴んで高度を上げていく姿に気づきます。小さな身体がくるくると舞い上がって、汐留の方向へと飛んでいく姿はとても気持ちのよいもので、ぼうっと見入ることもしばしばです。

上昇気流は、理論的には分かっていても、見えないだけに直感的に理解することが難しい存在です。ある朝カモメに生まれ変わっていて、「あれを頼りに飛べといわれてもできないな」とかのんきなことを考えます。しかし、カモメが数羽で群れて飛んでいるときには違って見えます。鳥の動きが渦の流れを見える化してくれて、「皆でやるのであれば、生まれ変わっても何とかなるかもしれないなあ」と思わされます。

構造が見えるようになると、不可能と思っていたことが「できるのかもしれない」という気持ちが生まれます。10年くらい前の自分は、まさにそうでした。当時留学していた西海岸では、金融データの集約サービスや、自動化されたアドバイスのサービスが存在していましたが、日本にはその決定打がなかった。一方で、サービスのアーキテクチャーや、オープンソース的なものづくりや、クラウド・スマホドリブンな環境変化を感じる中で、お金の不安を解消するための、異なる筋書きができる気がしていたのです。

周囲に起業の相談をすると、大多数の反応は「やってみなはれ、知らんけど」か「心意気は買うけど、厳しいよ」のいずれかでした。そのような中、現実的な課題を指摘しながらも、課題を解くマインドで話し続けてくれたのが、現在のCEOである辻さんでした。そして「やってみようよ」と思える仲間が約9年前に集まってできたのが、マネーフォワードでした。以来、サービスの認知・利用拡大には、大きな外部資金も、沢山の応援も必要でした。これらを提供する株主や、提携パートナーの方々や、他の様々な社会のステークホルダーの皆様も、広く見れば「やってみようよ」といってくださった仲間たちです。マネーフォワードのコーポレートガバナンスは、この「やってみようよ」が誠実に、かつ成長力をもって履行されるための、重要な仕組みです。

創業期の取締役会

かなり昔のことに感じますが、ジャフコさんから2013年10月に出資して頂いたあと、当時はCFOの金坂さんも管理本部長の坂さんもいなかったので、私が会議体の準備・運営をしていました。毎月当日朝に試算表を印刷して、財務状況をオブザーバーの株主の皆様に向けてお伝えして、大きな問題があったときだけ議論が起きるような内容が創業期の取締役会でした。

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(私が取締役会の準備・運営をしていた頃のオフィスの様子)

それが今や、上場企業として日本を代表する経営者や専門家の方々を社外役員とし、しっかりとした議論と意思決定ができる場になりました。取締役会に出て発言するときには、熟考・熟慮の上での責任ある意見ができているのか、毎回緊張します。目に見えないステークホルダーの利益までをも含めて、正しい意思決定を担保できているか。常々頭の中では総力戦だと感じます。

そしてこの度ですが、私は取締役としての立場を退任する予定となりました。お陰様で会社がぐんぐんと成長する中で、取締役会がこの「仲間たち」をより丁寧に代表し、よりスピード感と規律を維持していくのは当然の流れと考えています。また、一言で言えば「この変化によって可能になるチャレンジ」をとても楽しみにしています。いったんこれまでの役目を果たして、新しい役割を作る感覚は、脱皮のようなスリルを感じるものです。

ガバナンスについて

「ガバナンス」という言葉は、日本ではややもすると「コンプライアンス」的な理解をしている向きも多いように感じますが、本来は「決まるべきことが、決まる」という言葉です。それは、性悪説的に何かを監督するとか、少数者の意見を反映するべき、というだけでなく、「企業が永続的に社会に向けた価値を発揮できるか」に向けた意思決定の総称でもあると思います。

こんな堅苦しいことを述べるのは、大昔、コーポレートガバナンスを専門に研究者となることを目指した時期があったからです。コーポレートガバナンスは、形式主義ではどうにもならず、そこに魂を込めて実効的にできるのかが大事なことである、という当たり前の認識が、世の中ではなかなか理解されません。しかし、形式主義は2001年のエンロン事件(エンロン社は15人以上の取締役のうち、社内は二人だった)が一つの強烈な証拠であるように、それ単体で実効性を担保できるものではありません。一般的な会議がそうであるように、正しいインプットに基づき、皆が当事者意識を発揮して議論することによって強い実効性を生み出せるか。この点については、退任後も同じ熱意を持って新しい役目を果たせればと思っています。

Chief of Public Affairs

さて、今後なのですが、瀧の仕事はほとんど変わりません。退任ブログ的なものを期待していた方、ごめんなさい。

これまで務めているマネーフォワード Fintech研究所長としての活動も変わりませんし、電子決済等代行事業者協会をはじめとする諸団体での動き方も変わりません。ただ、これらのパブリック・アフェアーズ活動を総称した役職を今回新設して頂き、CoPA(Chief of Public Affairs)を務めることとなりました。いわば、新しい役目として、こちらに全力であたります。

パブリック・アフェアーズについては、これらの記事をご参照ください。

マネーフォワードは、金融データを中心に見える化や行動変容を提供する会社として、将来の社会の制度や価値のあり方について、半歩だけ先の情報をお伝えできる場所だと思っています。当社が大切にするValue(User Focus、Technology Driven、Fairness)に沿った活動を変わらず進めてまいりますので、引き続きご指導のほどを頂ければと思っております。

本日、辻からもブログを公開しておりますので、もしよければそちらもご覧ください。

さいごに

創業当初に、自己紹介文として下記のごあいさつ文を書きました。会社サイトの自己紹介欄にはその記載がありますが、いつまで載ってるか分からないので(笑)、ご紹介します。

駆け出しの社会人の頃、教わった言葉があります。
「安全」と「安心」は違う。安全は説明を尽くせば伝えることができるが、安心は相手の中に生まれるものだから伝えることができない。
その言葉は、資本市場の世界で「説明を尽くす」仕事をしていた私にとって、仕事を考えていく上で大きな意味を持ちました。
似たような言葉の組み合わせで、「リスク」と「不確実性」というものがあります。リスクとは、じゃんけんのように、複数の結果があるときにどれくらいの確率で勝つか負けるのかが分かることを指します。一方、不確実性とは意中の人に思いを告げる時のように、何がどのような確率で起きるのか、分からないことを指しています。
私は世の中で不安と呼ばれていることの多くは、不確実性ではなくリスクに近いものだと考えています。本当の問題は、物事を優しく理解していくためのツールや、次のアクションが不明であることではないか、と捉えています。
マネーフォワードは、不安の最たるものであるお金の問題について、その解を提供していく会社です。サービスをご利用される皆さま一人ひとりが、本当に必要なことに注力できる社会をテクノロジーの力で実現していけるよう、粘り強く、フェアネスを大事に、チャレンジを続けていきます。

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