じゃりじゃりとキラキラ
今日みたいな天気の良い日に、思い出す日がある。
今は疎遠になってしまった友達と、潮干狩りに行った日のこと。
いつも約束に遅れてくるあの娘は、その日も1時間以上待ち合わせをズラしてきて、朝イチから夜遅くまでフルで遊びまくる予定が頓挫してしまった。
爽やかな朝の風を浴びながらドライブする事は叶わず、日が少し高くなってきた頃に迎えに行くと、「とりあえず腹減った〜、まずはご飯食べ行こう〜」と彼女が言うので、目的地までの途中にあるレストランへ向かった。
「遅れといてほんっとにあんたはもう…。」
半ば呆れながら、仕方なくスカスカの駐車場へ車を停めた。
ランチには少し早過ぎる時間。
本当は直で海へ行きたかった。
わたしは潮干狩りがとても好きなのだ。
海へ行くのだからと、半袖Tシャツと短いパンツとサンダル姿だった。その格好でちゃんとしたお店に入るのは気が引けた。あの時は若くて、健康的でたくましい腕も脚も、躊躇なく出せていた。
店内は天井が高くて、ファンがゆっくりまわっていた。風通りが良く、開放感のあるレストランだった。お客さんがまだほとんどいなかったので、1番見晴らしの良い窓際の席へ案内された。
メニューを開くや否や、「昼前だけど、ビール飲んじゃおうかな」と彼女が言う。
「ちょっと、何なの?まぁ良いけどさ」と吹き出すわたし。「ふつう運転手に気ぃ使うでしょ?」と苦笑しながら続けていうと、「だってお酒好きじゃないでしょ?」とキョトンとした顔でそう返ってきた。
楽しみにしてた朝からの予定は狂うし、今から潮干狩りに行くってのに、運転手のわたしを気遣う事なく、何にも悪びれず、ビールを頼む自由人。
しばらく雑談をしていると、オーダーした飲み物が運ばれてきた。
「かんぱーい」「かんぱぁい」
わたしは少し不機嫌を装って、しぶしぶグラスをかかげた後、オレンジジュースにストローを挿した。
ふと顔をあげた時、目の前で幸せそうにビールを飲んでいた彼女の姿を、わたしは何となく今でも覚えている。
暑いけど店内に入ってくる外の風は少し冷たくて、でも待ちくたびれてたわたしは喉もカラカラで、それまで全然好きじゃなかったビールが、目の前のジュースよりはるかに美味しそうに見えた。
「明るいうちから飲むお酒うまっ!」
色白で美人な彼女は、笑顔だと更に、憎たらしいほど眩しい。約束をずらされた事も、自分ばかりアルコールを飲んでる事も、何もかも許してしまう位に。
その後は予定通り海へ向かい、潮干狩りを楽しんだ。思ったより沢山獲れて、満足したわたし達は、夜の早い時間に家に帰った。
獲ってきたアサリを、塩水を張ったボウルに入れた。キッチンに置けば良かったけど、少し眺めたくてテーブルに置いておいた。そして疲れてたのかそのまま寝てしまった。
顔に何か冷たいものを感じて、目が覚めた。
寝ぼけた頭が少しずつ冴えていき、気付いた。
「あぁ、元気なアサリ達が、一生懸命砂吐きしてる…」
テーブルの周りも顔も驚くほどびしゃびしゃでじゃりじゃりで、情けない気持ちで片付けをした。
昼間見た友達のキラキラ笑顔を思い出す。
彼女のように生きられたら。
ずっとずっと憧れていた。
あの1日は、本当に楽しかった。
未来に何の責任もなく、天気が良いからと気ままに出かけ、昼間からお酒を飲む友人を眺め、自分のヘボさに失笑した夜。
友達が、幸せそうに目の前で笑ってた日。
多分いつまでも、忘れずにいるのだろう。