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人権リスクマップの縦軸と横軸に企業は何を選んでいるか



1.人権リスクマップとは


以前書いたnote「サプライチェーンの人権リスクは自分で探しに行くものと知った」では、企業は人権に関する責任の範囲は自ら行動して決めていくものであり、具体的には、「リスクがありそうなところに自分から探しに行く」ものであるということを学びました。

「リスクがありそうなところに自分から探しに行く」とは、下の図の「ステップ① リスクが重大な事業領域を特定」です。

出典:経済産業省 令和5年4月
「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のための実務参照資料」

①を終えたあとはより重大なリスクのある事業領域から優先して、ステップ②以降のステップを実行していくことになるのですが、最終ステップである③負の影響(人権侵害リスク)と企業の関わりの評価及び優先順位付けに際し、「人権リスクマップ」を作成している企業があります。

人権リスクマップは、人権分野に特化したマテリアリティ・マトリックスのようなものですね。


2.私の素朴な疑問


これらの「人権リスクマップ」をいくつか見て勉強してみたのですが、ひとつ気づいたこと…というか疑問に思ったことがあります。それは、


人権リスクマップの2軸のうちのひとつが「自社とのつながり」や「自社の対応優先度」となっている企業があった


ということです。

だって、「自社とのつながり」はリスクマップ策定以前にすでに特定されているもので、「自社の対応優先度」はリスクマップを使って決めるものではないでしょうか…??
(私の理解がまだ足りない可能性も大いにありますが…)

人権リスクマップを作成している企業の数自体が少ないですし、まだまだこの分野は発展途上ということなのかな…と思いつつ、今後の参考のためにもいくつかの事例をメモしておこうというのが今回のnoteの趣旨です。


<補足説明>
経済産業省「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のための実務参照資料」p.14では、優先順位付けの判断基準の例として以下を載せています。


3.事例①人権への影響×自社とのつながり

積水ハウス

縦軸は「人権への影響度」、横軸が「当社グループとのつながりの強さ」となっています。

マップの作り方
人権レポート2023(※これがあるのは先進的!)の記載は「積水ハウスの事業に関わる人権リスクの評価の見直しは人権デュー・ディリジェンスミーティングで行っています」でした。

実際のマップ


大成建設

縦軸は「人権への影響」、横軸が「自社とのつながり」となっています。

マップの作り方
外部専門家(SOMPOリスクマネジメント)の指導・助言のもとでガイダンスに基づき、産業全般に共通する人権への負の影響(人権リスク)と建設業と自社グループにに特有の人権リスクを抽出

抽出した人権リスクを「人権への影響(深刻度、影響の受ける人数、救済可能性、発生可能性)」と「自社とのつながり」で定量的に分析・評価

サステナビリティ委員会及び取締役会の審議

「優先的に対応する人権課題」を特定

実際のマップ


4.事例②人権への影響×(自社の)対応優先度

川崎重工グループ

縦軸は「深刻度(範囲、規模、修復可能性、実現可能性)」、横軸が「対処と管理の優先順位付け(関連性、影響力、リスク管理の現状)」となっています。

マップの作り方
主要な事業における人権リスクアセスメント・インパクトアセスメントを米国NPO団体のBSR(Business for Social Responsibility)と共同で実施

9つの項目を特に人権リスクが高いと判断

(マップとの関連は記載されておらず)

実際のマップ

これはマトリックスで優先順位を「決めている」のではなく、優先順位をすでに決めた上で「見せている」図のようですね。


5.事例③人権への影響×(自社での)発生可能性

日清製粉グループ

縦軸は「発生可能性」、横軸が「人権問題の影響の大きさ」です。

マップの作り方
外部有識者の協力を得て、各事業の生産、開発、調達、物流、管理部門等の関連部署へヒアリングを実施

事業活動の特性も勘案し、自社とサプライチェーン上の人権リスクを事業会牡ごとに抽出

※人権問題の影響の大きさ(横軸)と発生可能性(縦軸)の2軸に加えて「関与度を考慮に入れて」取り組むべき優先度を決定

実際のマップ

ん?「関与度」が入るということは、実際には3軸になっているのでしょうか。


東急不動産ホールディングス

縦軸は「潜在的な人権への影響の深刻度」、横軸が「人権への影響が生じる可能性」です。

マップの作り方
全事業共通の課題に加え、各事業で人権への影響が発生する可能性と潜在的な人権への影響の深刻度を指標にリスクの分析・評価を実施して人権方針を策定

2022年度には事業の再構築とマテリアリティのリスクに合わせて評価の見直しを行い、人権マップに整理


実際のマップ

ここでいう「影響が生じる可能性」は「発生可能性」と同じ意味でしょうか、それとも違うのでしょうか。ちょっとよくわかりませんでした。


6.事例④その他

飯野海運

縦軸と横軸が両方とも「人権への影響」になっているリスクマップです。今回私が確認した中では、珍しいタイプかも…。

マップの作り方
各種規範・ガイドライン、公開資料、法律事務所からの提供資料等に基づいて事業範囲(海運業、不動産業等)で想定される人権リスクを網羅的に抽出

グループ全体にヒアリングを実施

各リスクについて「規模・範囲・救済困難度」と
「社会的信用の毀損・発生頻度」の側面から点数評価

一定以上の点数となったリスクをマッピング

自社にとって重要なリスクを外部専門家の助言をもとに特定


実際のマップ

網羅的に抽出→ヒアリングという方法で作成しているため、かなり幅広いものとなっています。右下には「リスクとしてあり得るものもピックアップしており、必ずしも今現在当社グループで顕在化しているリスクとは限らない。」との記載が。

特定したリスクに対しては、対象部署・グループ会社へアンケートを実施しそのリスクの状況を確認

リスクが高いと判断された項目や進捗が遅れている部署・グループ会社については、追加ヒアリングを実施

とありましたので、アンケートやヒアリング後にまたこのマップの内容も変わっていくということなのかもしれません。

7.今後に向けて

色々見てきましたが、ひとことでいうと人権リスクマップはどの企業さんもまだ手探りで作成されているのかなと。

ESG評価最上位クラス常連企業さんの多くがまだ作成していないところをみると、皆さん今まさに色々と検討されているところなのかもしれませんし、あるいは(別に必須ではないので)マップは作らないというやり方もありなのかも。

引き続き事例収集していきたいと思います。



以上、サステナビリティ分野の仕事についたばかりの私の「1000日連続note更新への挑戦」25日目(Day25)でした。

それではまた明日。




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