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東証プライム企業の人的資本スコアランキングと考察

サステナブル・ラボは2023年12月号のForbes JAPAN巻頭特集『新しい「いい会社」100』の企業ランキングを担当した。その中で紹介した「人的資本ランキング」はランキング上位企業を個別に解説するものであったが、ここではよりマクロ的な目線で人的資本ランキングを解説していく。
(参考:Forbes JAPAN 2023年 12月号 Kindle版


どの業界も全体で人的資本に資する傾向

図1:業界別 平均人的資本スコアおよび各業界の人的資本トップ企業のスコア(東証プライム)

出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)

業界別の人的資本スコア平均データ(青)を見てみると、平均値はほぼ同じ結果となった。2023年3月決算以降から金融庁により人的資本開示が有価証券報告書の中で義務化されたことにより、業界関係なく人的資本への取り組みが必須となったことが影響していると考えられ、つまりは、社会全体で人的資本の取り組みがなされていると読み取れる。人材に投資して人材の価値を最大化することは、どの企業においても企業価値向上に資する重要事項であることを反映しているとも言えるだろう。

また、業界別の人的資本スコア平均データと各業界トップ企業を並べたグラフをみると、業界トップ企業のスコア(赤)が業界平均スコア(青)に対して2倍以上となる業界はさほど多くない結果となった。それでも、業界をリードする企業は一定数存在価値を発揮している。なお、業界平均の2倍以上のスコアを有する企業は4社。リクルートホールディングス、日本郵船、東京エレクトロン、住友金属鉱山である。

図2:上位100社の業界占有率

出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)、サステナブル・ラボ作成

人的資本スコア上位100社の産業グループ割合を円グラフで見てみると、資本財が最も多く20.2%、次いでテクノロジー・ハードウェア11.1%、自動車・自動車部品8.1%となった。
資本財ビジネスやテクノロジー関連は、人が生み出す生産手段やサービスが価値を生み出しビジネスの鍵となる分野のため、特に人的資本の重要性が高く上位に多くランクインしたものと考えられる。


人的資本スコアトップ企業ランキング

図3:人的資本スコアトップ企業ランキング 上位20社(東証プライム)

出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)

また、今回は人的資本スコアランキング上位20位のうち、注目企業の取り組みを照らして紹介したい。

11位:ニトリホールディングス

家具・インテリア用品の小売をおこなうニトリや大手ホームセンター島忠を傘下に持つニトリホールディングスは、独自の人的資本戦略を進めている。人的資本の基本方針は従業員一人ひとりが自らのなりたい姿に向けて主体的に成長を目指すことを促し、その支援を実施することである。2〜3年ごとに多様な職種を経験する配転教育、各種キャリア支援、各国・地域にフィットした商品・サービスの実現を支えるグローバル人材育成を進めるほか、IT人材育成にも積極的。2022年4月に「㈱ニトリデジタルベース」を設立し、優秀なIT人材を国内外から集め2032年に社内IT人材を1,000人に増やすことを目標に採用活動と育成に力を入れている。非IT分野出身の社員のIT人材化も推進するなどITの基礎から最先端技術まで段階的な教育プログラムを構築している。
また、同社はアルムナイ(退職者)も新たな価値をもたらす貴重な人的資本であると考え、アルムナイ(退職者)の退職後も持続的につながることのできるネットワークの構築を2023年3月より開始。再雇用制度の利用活性化も目指すほか、同ネットワークを通じて同社のキャリア採用情報や会社の変化などを伝えたり、情報交換やイベント開催で現役社員と退職者の良好な関係をつくることなどが目的。
(参考資料:ニトリホールディングス|アルムナイネットワークの構築を開始重要課題6働きがいのある環境づくりとダイバーシティ推進ニトリグループの人的資本

12位:バンダイナムコホールディングス

エンターテインメント企業グループを統括するバンダイナムコホールディングスは、働きやすい職場づくりのため、グループ管理本部内に長時間労働対策担当を配置し、社員が安心して働ける環境整備に注力している。またエンターテインメントを創出するクリエイターの職場環境を改善するため安全安心労働対策プロジェクトを立ち上げ、クリエイターの制作ブースの深夜消灯時間やメールなどでの連絡可能時間帯、会議時間や残業時間の上限などについて、具体的な数値を設定して働き方改革を促進。またグループ各拠点内にサテライトオフィスを設置するほか外部サテライトオフィスも活用し、クリエイターが外出先や自宅近郊からでも勤務ができるようにして柔軟で生産性の高い勤務環境を整備している。(参考資料:バンダイナムコホールディングス|働きやすい職場環境の実現

18位:SGホールディングス

輸送サービスおもにを提供するSGホールディングスは、物流課題の解決を目指すため、
企業間物流に強みを持つ全国ネットワークと大量物流、倉庫事業、ITシステムなどグループ各社の叡智を集結して顧客企業にソリューションを提供する目的で「GOAL(GO Advanced Logistics)」を2014年に始動。GOALはグループ横断の先進的ロジスティクスプロジェクトチームで、約26,000名のセールスドライバーが普段の集荷・配達の中で集めた情報や気づきをから顧客の潜在課題やニーズを吸い上げ、約500名のGOALのチームと連携して物流課題の解決に貢献するとともにグループの競争力強化に資する。現場の気付きから実際に物流ソリューション案件につながっている。2024年問題が目下重要課題となっている物流業界では、DX等による効率化、生産性向上が鍵となっており、このようなSGホールディングスの一人あたりの労働生産性を向上させる取り組みに着目するポイントだ。
(参考:SGホールディングス|SGホールディングスグループの価値創造ストーリー、佐川急便|SAGAWAの強み「GOAL(GO Advanced Logistics


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