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東京五輪と日本の実業団入りを目指す女子マラソンモンゴル記録保持者のムンフザヤ・バヤルツォグト選手について

女子マラソンモンゴル記録保持者で、リオ五輪女子マラソンモンゴル代表のムンフザヤ・バヤルツォグト選手の走りを間近でしっかり見たのは、2019年のゴールドコーストマラソンの時。

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31km地点で単独走をしていたムンフザヤ選手に向けて、思わずシャッターを切っていた。それから、1年3ヶ月後。

NHK WORLD - JAPANのAsia Insightというプログラム(番組)に“Dreaming of a Medal: Mongolia”というタイトルでムンフザヤ選手の28分のショートドキュメンタリーが放映された。

このドキュメンタリーの冒頭で使用されている今年1月の大阪国際女子マラソンでのムンフザヤ選手の写真は私が撮影したもので、このドキュメンタリーを見て学ぶ点は非常に多いと感じた。

10月22日まで↑からオンラインで視聴可能です。


モンゴル草原マラソンで優勝し日本の指導者と出会う

2010年(16歳)から陸上を始めたムンフザヤ選手は18歳からマラソンという競技に取り組み始める。その後、モンゴル草原マラソンやウランバートル国際マラソンで優勝するなど才能を発揮。

一方でモンゴルの長距離界は競技人口が少なく、アジアではまだまだ日本のレベルには達していない。

夫のバトバヤル・ドルジバラムさんは100kmのアジア選手権で優勝した経歴を持つが、2人は2013年に結婚。そして、ムンフザヤ選手はその年に息子のアミドラル君を出産した。

モンゴルでは長距離走に取り組むものが少なければ、指導者も少ない。ムンフザヤ選手のコーチは夫のドルジバラムさんであるが、まだまだ手探りな部分も多い。出産後の翌年の2014年から彼女は本格的なマラソンの練習を再開したが、その時の彼女の記録は2:45と国際レベルではなかった。

準高地〜高地のモンゴルでは冬季は−30℃まで冷え込むので野外でのスポーツ活動は厳しい。室内練習場も整備されている場所があるが、それだけではマラソン選手として走り込みは厳しい。

しかし、モンゴル草原マラソンの発案者である日本人の藤原達一さんとの出会いをきっかけに、藤原さんが住む岡山県井原市や、長距離指導者の広島の古川渉さんのもとでムンフザヤ選手は夫婦揃って冬季合宿を行うようになった。


リオ五輪に出場するも東京五輪は参加標準が引き上げられた

ムンフザヤ選手がマラソンに本格的に取り組むようになってから4年目でリオ五輪に出場(72位)。その時の参加標準記録は2:45と、そこまで厳しくなかったため、女子マラソンは彼女を含めて156人がスタートラインに立った。

しかし、東京五輪の参加標準記録は一気に2:29:30まで引き上げられた。ターゲットナンバー(出場予定者数)は80人を想定。五輪マラソンは周回コースの導入に加えてレベルの開きをなくして、より一層コンパクトな大会運営方針に変わってきているためだ。

2016年終了時で2:37:55の持ちタイムだったムンフザヤ選手は先述した日本での冬季合宿を2016年の冬季に敢行。そこからの数年間の成長の証は年次ベストを見ると一目瞭然である。

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2019年のゴールドコーストマラソンではついに、2:29:30の標準記録を突破。今年の大阪国際マラソンでも2:28:03まで記録を伸ばし、東京五輪のスタートラインがいよいよ現実に迫ってきていた。

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(41km地点で撮影)


モンゴルでスポーツを続けていく環境整備がなされていない

日本で生まれ育つと、何不自由なく一年を通して(北海道や日本海側などの冬季に厳しい環境の地域を除いて)長距離練習を行うことができるが、モンゴルだとそうはいかない。

先述したように冬季は走り込みどころではなく、そもそもスポーツを楽しめるような環境整備がなされていない。そんな中で、男子のバトオチル選手が日本の実業団に入り、モンゴル記録を更新(2:08:50)。

彼女も同じように日本の実業団入りを熱望している(スポンサーを募っている)。それには、彼女の決して裕福とはいえない生活事情や、モンゴルでのスポーツ環境が整備されていないことも関係している。

↑のドキュメンタリーでは、パンデミック後のモンゴルでのムンフザヤ選手のトレーニング状況に密着している。そこでは彼女の「食糧難」というスポーツ選手としては厳しい生活があることがわかる。

スポーツ選手にとってはトレーニングの内容と同じぐらい、トレーニング後の栄養補給が重要である。しかし、一児の母でもある彼女の稼ぎは現在少ないが、育児と並行してトレーニングや栄養補給をしなければならない。

モンゴルには日本のように選手寮もなければ、管理栄養士もいない(と思われる)。そして、彼女が住むウランバートルのスーパーでの食品は値段が高く、スポーツ選手であるのに、彼女十分な栄養が確保できていない現状がある(1週間の食費は2,000円ほどだとか)。

こういった食糧難に陥る選手はアフリカの貧しい選手だけだと思っていたが、モンゴルのスポーツ環境はそこまで整備されていないのが現状のようだ。

補助金を得てなんとか敢行できたモンゴルでの国内合宿でありつけるホテルの食事が、彼女にとっては貴重な栄養補給のシーンでもあったりする。こういった決して恵まれているとはいえない選手が、一歩ずつ積み上げてきて、マラソンで2:28:03まで記録を伸ばしている。

ムンフザヤ選手まだ26歳。

東京五輪と日本の実業団入りを目指す、女子マラソンモンゴル記録保持者で、一児の母だ。

(もし興味を持ったという方がいらっしゃったら以下のドキュメンタリーをご覧になってください。国際放送なので、全編英語ですが、映像だけでもモンゴルでの厳しいスポーツ環境の様子がわかると思います)

10月22日まで↑からオンラインで視聴可能です。

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