2児の母・フルタイムで不動産業に従事する35歳の女子選手:キーラ・ダマートが5000mT.Tで15:04の好記録

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アメリカの35歳のセミプロランナーのキーラ・ダマート
5000mT.Tで15:04の好記録(非公認とはいえ女子5000mの東京五輪参加標準超え)。T.T.では男子に引っ張ってもらいラスト200m31秒(彼女はスパイクを履かなかった)。

ダマートの今回のT.Tの記録は非公認ながらも、35歳以上の女子5000m世界歴代7位に相当する。一般的にVO2Maxは年齢が30代になると低下してくるといわれているが、彼女は35歳にして20代前半に出した5000mの自己記録を1分以上縮めた。

キーラ・ダマートって誰...?

ダマートは10年以上も前にアメリカン大学(NCAA DI校)でマット・セントロウィッツ(セントロJr.の父)の指導を受け、全米学生クロカン個人6位の実績を持っている(当時の5000mのPBは16分台)。

それから、学生時代に痛めた脚の治癒や、2児の育児をこなしながら、フルタイムで不動産業に従事。彼女にとって陸上競技は約10年弱のブランクがあった。

今の彼女のコーチはアラン・ウェブ(1マイル全米記録保持者)を指導したスコット・ラズコーで、現在の彼女のスポンサーはトラックスミス(ボストンの新鋭ランニングブランド)である。

ダマートは2017年に本格的に競技復帰し、ロードレースから走り始めてその年にマラソンで2:47。それから着実に実力を伸ばして、今年はヒューストンハーフで1:10:01の自己新、そして2月末の東京五輪マラソン全米選考会では2:34:24の15位だった。

フルタイムの仕事を持つ2児の母ながらも、今年のマラソン前の1月と2月は月間730-750kmを走破(だいたい175km/週)。マラソンを走ってから、3ヶ月後に今回の5000mT.Tを15:04で走った(この記録はWAスコアリングテーブルではマラソン2:24台に相当する)。

ダマートの練習メニュー

10年弱のブランクがありながらも35歳にして5000mを15:04を走るのはただものでは無い。この記録は男子5000mだと13:15に相当する。

想像してみてください。

約10年弱のブランクがある男子選手が35歳で5000mのT.Tを13:15で走っている姿を(この記録は2019年シーズンの日本1位に相当する)。

このような凄まじい記録を練習で出したダマートの普段の練習の内容については、彼女のSTRAVAで全て見ることができる。

【5000mT.TのSTRAVAのログ】

【5000mT.Tのフル動画】

このコロナ渦においては、STRAVAのログ+フル動画があれば、非公認とはいえはタイムトライアルを実施したことを証明できるといえる。この方式でアメリカでは高校生や大学生がペーサーをつけて個人的なタイムトライアルで好記録が生まれている。

【タイムトライアルのメリット】
・選手1人だけの専用ペーサーを設けることができる
・その場合選手は最短距離を走ることができる(ロスがほぼない)
・そのようなことからワークアウトの内容(ペース・精神面)をコントロールしやすい

【タイムトライアルのデメリット】
・あくまで練習なので(非公認なので)、T.Tに選手のピークを持ってくることは通常しない。
・そのようなことから、名指導者のアーサー・リディアードは「T.Tを練習で導入する時期、もしくはその時期での実際のレースでは最高の記録は出ない」と述べている。

(例えば、チーム選考などでトラックや駅伝のT.Tにピークを持っていくような選手がいたら、その選手はその後、レースまでに期間が開いた場合はピークがズレる可能性がある)


さて、彼女の普段の練習メニューの中から、最近の主要な練習について以下に掲載する。彼女の月間走行距離は以下の通り。

・マラソン練習中の11月上旬-2月下旬の
4ヶ月間の平均月間走行距離が700km弱(100mile/week)

・マラソン後の3月-6月中旬の月間走行距離
3月:470km(マラソン後の3日間はノーラン)
4月:617km
5月:553km
6月:314km(6/15日現在, 628kmペース)


最近の主な練習
5/27
・6(400+400+300+200)+3×200, R, SR1'walk
1-6セット目:400m67-69", 300m50-51", 200m32-33"
200m:31, 30, 30"
Total 19.5km(ave. 4:21/km)

6/2
・8(400+400+300)R, SR1'walk
1-7セット目:68, 68, 50"
8セット目:66, 64, 48"
Total 24km(ave. 4:24/km)

6/7
・23km走(ave. 4:08/km)

6/8
・26km走(ave. 4:38/km)

6/10
・20×400m, R1'walk
1-16本目68-70", 17-20本目64-66"
Total 21km(ave. 4:28/km)

6/11
・29km走(ave. 4:28/km)

6/14
・5000mT.T:15:04

STRAVAのシューズ欄によれば、ポイント練習はほぼズームフライで行われている(ホンマかいな...)。ただ、5000mT.Tの時はスパイクではなかった。

この練習スケジュールをみるとフルタイムの仕事を持つ2児の母としてかなりのハイマイレージであるが、5000mT.Tの3日前に29km走(2時間超)が入っているように、今回のT.Tはあくまで練習の一環で臨んだ感じである。

テーパリングをきちんとして、彼女が5000mの記録会や競技会に出れば14:50秒台は出そうな感じであるともいえる。とにかく、インターバルのタイムが速い。

リカバリーは100mウォークでだいたい1分。この辺りのさじ加減はコーチのラズコーによるものであることが考えられるが、現在アラン・ウェブに続いて全米代表クラスの選手を指導しているのは間違いない。

東京五輪が2021年に延期となったが、5000mもしくは場合によっては10000mで面白いベテランの選手が出てきたといえるのではないだろうか。来年の東京五輪全米選考会が楽しみである。

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