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ランニングでのトレーニングにエフェクトをかけて「トレーニング効果」を増やす。


※トレーニング法(ランニング、フィジカルトレーニング)、シューズの履きわけ、期分け、暑熱順化、クーリング、リカバリーの質を高める(食事、ケア、睡眠、瞑想...etc)、トレーニングの効果を高める方法・戦略は色々ありますが、以下は、トレーニングにエフェクトをかける(かかる)ことに着目した記事です。

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中長距離走(ランニング)において“どんな練習”を“どのように”するか、“どのシューズが良いか”の議論はよくあるが、どういった路面・起伏・坂で練習をやるかについてはあまり議論されない印象がある。

【路面】
・ロード(Asphalt, ※Tarmac...etc)
・トラック(Hard or Soft)
・土(Dirt, Trail, Sand...etc)不整地
・クロカン(Woodchip, Grass...etc)不整地
・山道(土、芝、石、木の根っことかいろいろ)不整地
・トレッドミル(基本的にSoft)
など

※ターマック舗装:欧米の旧式の舗装で、アスファルトよりも剥がれやすく滑らかでない(アスファルトよりも舗装のクオリティが低い)。

私は、日本で※ファルトレク(akaスピードプレイ)の練習が重要視されていない(普及していない)のは、ランニングにおいてこういった路面や起伏 / 坂、またはペースの変化によってトレーニング効果にエフェクトをかけられることが重視されていないことが背景にあると感じている。

※ファルトレク:起伏の変化や路面の変化(不整地)を考慮しながら、スピードに変化をつけて行う持久的な練習。一般的なファルトレクでは一定時間、疾走と緩走を繰り返す。20分ほどのハードなファルトレクから40-80分ほどのリラックスしたファルトレクまで様々。

しかし、トレイルランの選手は逆の印象である。

なぜなら、彼らのレースはバーティカルレースでない限りはアップダウンの連続であり、ペースの変化がそこにある事が前提であるからだ(つまり、ロードレースとは違ってフラットレースではない)。彼らは普段からレースでも山での練習でもファルトレクのような練習をしていることになる。

もちろん、不整地練習を重視したクロカンコース自体は日本全国で作られてはいるが、新しくそこに作る、という視点よりかは、元からどこかにある良い坂や良い路面、良い練習場所を求めて多くの時間を割いている人は、トレラン関係者を除いて、高校や大学・実業団の指導者など以外では、そこまで多くない印象である。

トレーニングにエフェクトをかけて「トレーニング効果」を増やす。

トレーニングにエフェクトをかけるとは、“特殊効果”を使うというイメージだ。もちろん気象条件の変化などでもトレーニング効果は変わってくるが、ランニングのトレーニングでエフェクトをかけられる(かかる)ものとして以下のものが挙がる(箇条書き)。

・気象条件
a. 天気
夏は晴れると暑くてパフォーマンスが落ちるが、雨の日は涼しくて走りやすい。逆に冬は雨や雪が降ると体が冷えてパフォーマンスが落ちる。

b. 風
追い風も向かい風も風速に影響される。台風でのレースはタイムが出ない(私も1回だけ経験有。5000mで1分以上タイムが遅くなった。笑)
追い風での流しは、スパイクを履くように概ね走速度を高めるうえでトレーニング効果を上げる。同様に片道のロードでの追い風でのインターバル走は心理的ストレスを減らし、トレーニング効果を上げる(良いフォームを維持できる)。逆に向かい風だと心理的ストレスとフォームの乱れにつながる。
また、ペーサーは心理的メリットやペース配分のアシストだけでなくドラフティング(風よけ)の効果ももたらす。

c. 気温
概ね25℃以上や5℃未満の気温はランニングのパフォーマンス低下に関係している。スプリントは低い気温の悪影響を受けやすく、持久性運動は高温化で悪影響を受ける。

d. 湿度
暑さ指数(WBGT)にも関係するが、気温と湿度の相対的な指標である露点温度が高いと、汗が乾きにくく体温を下げることができなくなってくるので持久性運動のパフォーマンスの低下に繋がる。

・ペーサー(トレーニングパートナー)
練習パートナーの存在は、練習のベースを引き上げるとき、高強度の練習をする時などに心理的にも肉体的にもメリットがある。中長距離走では、レースでも練習でも前の選手の動きに自分の動きをシンクロさせる場面がよく見られるが、これは単独走のレースや練習よりもメリットが大きい。ただ、駅伝やマラソンでは単独で走る場面もあるため、一概に全てペーサーやトレーニングパートナーの存在が良いとも言い切れない。

・シューズ
それぞれのシューズには目的に応じた機能が備わっているが、それらを練習のタイプや路面などで変えること(履きわけ)が大切である。例えば、スプリント練習にはスパイク(そして軽い)、ロングランには(ペースが速くなければ)クッション性のある靴、速く長く走りたければ最近の厚底シューズを履くのがベターである。
様々な練習をどのような路面 / 起伏 / 坂で、何のシューズで行うかを考えることは、どのような料理をどのような食材でどのように調理して、どのようなものに仕上げるか、という過程ぐらいに非常に重要なことである

・レジスタンストレーニングと重い靴
ウェイトトレーニングなどのレジスタンストレーニングで、ヴェイパーフライのように、重いものを楽にあげられるようになる方法があるとすれば、何のために決まった負荷をかけているのだろうか?

足にかかる負荷を減らしているのは時にプラスで(タイムを狙う時)、時にマイナスになる(例:このペース走、ロングランでヴェイパー履いて楽過ぎた...トレーニング効果あるのかな...?)例えばペースの速くないロングランであれば重い靴を履くこと自体が良いトレーニングになる。それ自体が良いレジスタンストレーニングになっているからだ。

例えば300gのHOKAのボンダイを履いてロングランをした翌週に、160gのタクミセンを履いて同じロングランをすれば、きっとペースは速くなっているはずだ。

だから、極端ではあるものの、私の体験であればワークマンのシューズを履いてロングランをして脚を作ることはすごく有効であると実感している。

・伊藤国光さんが高岡さんについた嘘
何かの本で見かけたが、男子マラソン前日本記録保持者の高岡寿成さん(現カネボウ監督)は、当時のカネボウの監督であった伊藤国光さんからロードでの高負荷練習時に、実際の距離とは違った距離を告げられて「なんか、おかしいな」と思ったことがあるそうだ。伊藤さんは今とは違ってGPS時計が普及していない頃に「タイムを操作」することによって、選手の練習時の心理的な負荷の強弱をコントロールしていた。
(うる覚えなので、間違ってたらすみません...)

・路面
a. ロード(Asphalt, ※Tarmac...etc)
不整地よりも反発があり、力を弾く。ロードで走りすぎると故障するが“脚を叩いて鍛える”ということが言われる路面(矛盾している)。質の悪い海外の舗装路では足をつまづきやすいところもある。

b. トラック(Hard or Soft)
柔らかいトラックと硬いトラックとある。施工業者や素材の差によるもの。そのバランスが取れたいわゆる記録の出やすいトラックというものがある。トラックが硬いと、ロードと同じく比較的足が張りやすい?

c. 土(Dirt, Trail, Sand...etc)不整地
ダート:固められた土、トレイル:人の往来で自然にできた土の道、サンド:小石がある砂地、そのほか砂利地など。

d. クロカン(Woodchip, Grass...etc)不整地
ウッドチップ:足に優しいが最大スピードを出しにくい。芝:芝の長さや土の凸凹にもよるが、柔らかい土の延長線上にある路面。ある程度の走速度を上げるファルトレクには最適。

e. 山道(土、芝、石、木の根っことかいろいろ)不整地
トレランの熟練者以外は集中して走る必要があり、心理的にもストレスがかかる局面もある。しかし基本的には日陰や森林浴の状況下で走れるのでリラックスもできる。体全体の様々な筋に刺激を加えられる。

f. トレッドミル(基本的にSoft)
ペースや起伏を変えることができる。基本的にロードよりも路面が柔らかく、凸凹していないので怪我のリスクを抑えられる。


・起伏
アップダウンがあることによってリズムを変えること、使う筋肉に変化がある。上りも下りもリラックスを心がけ、淡々と走る。ペースや心拍数の変化があり、例えばロングランの後半に起伏のあるところを組み込むことでワークアウト感が高まり、ロングランの後半で集中力が高まりトレーニング効果が高まることがある。


・上り坂
全力の坂ダッシュ(高負荷)
a. 上り:地面を捕らえる接地練習に持ってこい。腕振りなど上下の連動を意識できる(腕を振らないと前に進みにくい)。フラットでの全力スプリントよりも着地衝撃が少なく(フラットなところよりも走速度が落ちるので)、全力運動の割には故障のリスクを軽減できるお得感のあるワークアウト

・下り坂(着地衝撃大)
ストライドの獲得の練習、走動作における脚の巻き上げの角度の改善には良い。追い風でのスプリントと同じように、通常時よりも速い、大きい動きを下り坂を使うことによって人工的に作り出している。着地衝撃が大きいので、全力でなくても普通の流しぐらいでも速い、大きい動きを作るには最適。


・高地練習
高強度の練習には向いていないが、中期的、長期的に滞在することによって生理学的なパラメータに変化を起こすことがある。また、夏期は気温が低く、平地よりも心地よく過ごしやすく、心理的メリットがある。快眠を促しリカバリーの質を高める。


・低酸素ルーム
研究機関、大学、有料のジムなどで利用される。トレーニング効果やリカバリーの質を高める。


特異性の原理と日本の駅伝・マラソン文化

以上がランニングでのトレーニングでエフェクトがかかる主な要素であるが、日本では駅伝文化があり、マラソンも人気が高い。

するスポーツとしてだけでなく、見るスポーツとしても人気がある(視聴率が高い)。おそらく見るスポーツとしてのマラソン人気は世界一ではないだろうか(箱根駅伝のように視聴率が取れる陸上のコンテンツは、人類最速王決定戦ともいえる男子100m以外にもあるだろうか??)

そのようなことも影響してか、日本人はロードを走ることが多い。市民ランナーも競技選手も同じだ。特異性の原理に基づくと、駅伝やマラソンを走るならやはりロードで練習することが重要視される。

さらに、ほとんどの日本の道路や通路が舗装されており、トレイルを除いて舗装路が大半である。また、駅伝の時期に世界中で行われているクロカン文化が日本ではそこまで広がりがあるわけではないので、不整地を走るといったような文化が根付いていない。

言い換えればクロカンコースは走るけれども、その辺の公園の芝生の上を走る人はほとんどいないのである。

そして、日本にはフラットのロードレースが多いしさらには山に常駐して練習する人は多くない。強豪の実業団や大学、高校の拠点ほとんど平地にある。

このような日本のランニングにおける、昨今の状況を考えたときに、練習のバリエーションを増やすためのヒントを考えるのも面白いのではないだろうか。それはファルトレクのような練習を取り入れるといった以外にも、

・クロカンコース行く以外に公園等の芝でクロカンできるかを考える
・ジョグ中に良い坂を見つける
・自分なりのロングランの最高のコースを設計する(例:起伏や不整地をコースにどう組み込むか)

といった工夫に関わってくる。

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(宮崎県の新しいクロカンコースで走る私)

だから、人工的に練習拠点にクロカンコースを作ることが必ずしも強化につながるとは限らないと私は考えている。

どうやってクロカンのような練習がどこでできるのかを、自分の頭で考えたり工夫することによって、その選手が強くなっていくということに繋がるのではないだろうか。

世界大会出場歴のある、関東の某大学駅伝部の監督は「良いクロカンコースがなくても自分の頭で考えて練習することで強くなれる」と、私に話していただいたことがある。

ケニアの練習環境を見れば、そこに人工的なクロカンコースというものはほとんどないが、元々そこにある高地という地形を利用して発展したワークアウトに幅がある印象だ。

当然、ケニアでは不整地でのファルトレクは中距離からマラソンの選手までが行う基本的な練習の1つである。


積み重ねの成果は工夫次第

どんなトレーニングをするかは一般的なものから特異的なものまで、年齢を重ねるにつれて年々変わっていくものであるが、どういう路面や起伏/坂でやるかどうかは、そこまで変わらない印象だ。

だからこそ、長い目でみて何千回、何万回もの積み重ねで良い効果を得られる地形や路面を選ぶスキルは大切である。

で、あんまりそういうことは事細かく本に書かれていないし、ネットの記事でもあまり数は多くない。

それらで目にすることはあっても、路面や起伏/坂についてはちょこっと触れらているぐらいで、やはりメインはどういうトレーニングを行うかや、どういうシューズを選ぶかというトピックが多い。

トレーニングのエフェクトの強弱を考えるうえでこのような視点は持っておくとトレーニングの強度設定、距離設定以外にも幅を設けられる

私はトレーニングを行う前、トレーニング計画を立てる前には、まず獲得したい能力を先に決めて、それを開発するための練習方法がどういう路面/起伏/坂でやるとエフェクトがかけられるかを考える。

そうなるとやはり自然豊かな場所、高地で練習したいと考えることが多くなる。

基本的には、設楽悠太を除いて、強いマラソン選手はそこに住んだり、合宿をしたりして最終的に山に集まる。それは日本でも世界でも同じである(大迫傑も然り)。そして、強いもの同士がトレーニングパートナーとなって良いワークアウトを積み重ねる。

ベケレやキプチョゲ、ハイレは元から高地に住んでいたが、ファラーでさえ最初に強くなるキッカケを掴んだのは、ポートランドに拠点を移す前ではなく、ミカ・コゴ、クレイグ・モットラムらと合宿を初めてトレーニングを始めた時である(確か彼の大学卒業の後ぐらい)。

ちなみに、日本では長崎県に良い坂が多いそうだ。ここは高地ではないが、ジョグにしても坂ダッシュにしても良いトレーニングができる場所が多いのではないだろうか。

そして、MHPSに良いマラソン選手が多いのも偶然でないのかもしれない。


自分の家(拠点)からどうやって幅を持たせるか。

とはいえ、ほとんどのランナーには理想と現実のギャップがある

かくいう私もその1人で、大学生や実業団選手でもないので、高地に合宿にいくことはあまりない(ケニアのイテンには3回行ったけど)。

しかも、今年は大学側からの指示で合宿を行えない大学も多いと聞く。そうなってくるとやはり、withコロナ(コロナ禍)ではこういった従来の発想にとらわれない工夫が必要になってくる。

そこで、最初の話に戻るが、今の自分の環境下で何によってトレーニングにエフェクトをかけられるかを考えることが大切である。もう今まで通りに簡単に飛行機に乗ったり、合宿にさえ行けなくなっているのだ。

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(鹿児島県のジャパンアスリートトレーニングセンター大隅)

例えば、この写真を見る限りでは左の人工的なコースも右の走路も、トラックも走ることができる。これらの組み合わせでできそうなワークアウトは一体何種類あるだろうか?すごくたくさんあるはずだ。

それと同じように、自分の家から(もしくは自分の拠点から)、良い坂を見つけにいったり、良い芝生を探してみたりすることはこの写真にあるような場所を見つけにいくようなことだ。

それはまさに私が4月下旬にジョギングを始めてから数ヶ月間でやってきたとである。何の練習をするか以前に、もう一度繰り返すが、

私はトレーニングを行う前、トレーニング計画を立てる前には、まず獲得したい能力を先に決めて、それを開発するための練習方法がどういう路面/起伏/坂でやるとエフェクトがかけられるかを考える。

そこに行くためには、公共の交通機関や自家用車で行くこともできるが、私のオススメは自分の足でジョギングで走りながら見つけることだ。

・クロカンコース行く以外に公園等の芝でクロカンできるかを考える
・ジョグ中に良い坂を見つける
・自分なりのロングランの最高のコースを設計する(例:起伏や不整地をコースにどう組み込むか)

そういったことの積み重ねが、※最高のマイコースを作ることに繋がるので、それもまた楽しくトレーニングを継続させるための工夫なのかもしれない。

※自分が獲得したい能力を開発するために「良いエフェクト」をかけられるオリジナルコース

そして、このような良いコースを見つけられる練習はジョグやロングランだけでなく、自由に走るファルトレクだったりする(トラックでのインターバルトレーニングではそういう視点は生まれないだろう)。

私はジョギングを初めてから、自宅の周りを走ることによって良いコースがたくさんあることを発見した。というか、良いコースを創造することに意義を見出している。

その中には、いわゆるクロカンコースという「人工的なもの」はないが、とある公園の不整地を自由に走れる「最高の不整地コース」であったり、良い坂を見つける度に喜びを感じ、次のトレーニング計画を立てることが楽しいと感じている。

今現在、ジョグを2日以上連続で行っているのは学生以来、実に13年ぶりであるが、これからはこうやってランニングのトレーニングの中にまた別の喜びや意義を見出すことを大切にしていきたいし、こういった視点は私の競技だけではなく、指導の現場にも生かせると考えている。

何のシューズを選ぶか、何のトレーニングをするかと同じぐらいに、どのような路面や坂や起伏のあるところで走るかは、今後も重視していきたい。


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