NNランニングチームのコーチから学ぶパンデミックにおけるモチベーション維持

ケニア、エチオピア、南アフリカ、エリトリア、ウガンダにトレーニングキャンプを持つ世界最強のグローバル長距離チームであるNNランニングチーム。

そのNNランニングチームを代表する3人のコーチが、パンデミックにおける選手のトレーニングの現状や、競技に対してのモチベーションの保ち方などについてアドバイスしている公式の記事を紹介します。

現在、トレーニングのモチベーションを失っている人にとっては、この記事の内容を読むことでヒントを見つけられるかもしれません。

Addy Ruiter(ウガンダ)

ウガンダのカプチョルワは、ケニアとの国境に近いウガンダ東部エルゴン山北麓にある標高2500mの町。このカプチョルワで汗を流すウガンダ人選手たちによるNNランニングチームのトレーニングキャンプを指導しているのが、オランダ人コーチのアディ・ルーターです(↓写真右)。

このキャンプには、ロード5km、15kmの世界記録保持者で、2019年世界クロカン、ドーハ世界選手権金メダリストのジョシュア・チェプテゲイが所属しています(私は彼がハーフで58:00を切れる選手だと思います)。

元トライアスリートだったアディコーチは、オランダの高校生やオランダトップレベルの選手指導を経て、ウガンダのNNキャンプのコーチになるオファーを数年前に受けました。

彼はウガンダのキャンプの選手だけではなく、オランダ拠点の選手も指導しているので、年間を通してオランダとウガンダとの行き来をしているコーチです。

そんな彼が指導において重視しているのは「選手との定期的なコミュニケーションと、前向きな考え方」です。

今回のパンデミックでウガンダの選手は、これまでに行っていた集団練習ができず、練習場所の変更を余儀なくされましたが、臨機応変にバイクトレーニングなども取り入れているとのこと。選手たちはこれらを前向きに捉えて練習に取り組んでいます。

「ウガンダの選手達がトップレベルに達した理由の1つは、現在の危機に対する選手達の行動にも反映されています。挫折や失望にうまく対処して刻々と変化する状況に素早く適応し、落胆はしません。そうやって高いモチベーションを維持するんです」

アディコーチは記事の中でそう述べていますが、2010年からの10年間で、ウガンダの中長距離選手は世界大会で計6つの金メダルを獲得しています。

【ウガンダ:この10年間の世界大会の金メダル】
2012年ロンドン五輪:スティーブン・キプロティッチ(男子マラソン)
2013年モスクワ世界選手権:スティーブン・キプロティッチ(男子マラソン)
2017年世界クロカン:ジェイコブ・キプリモ(男子ジュニアの部)
2019年世界クロカン:ジョシュア・チェプテゲイ(男子シニアの部)
2019年ドーハ世界選手権:ジョシュア・チェプテゲイ(男子10000m)
2019年ドーハ世界選手権:ハリマ・ナカイ(女子800m)

チェプテゲイや彼のトレーニングパートナーのスティーブン・キッサ(10km27:13)はトレッドミルを購入して自宅でのトレーニングに時間を費やしていますが、普段走らない新しい場所でのトレーニングといった新しい発見もあると前向きに捉えています。


Patrick Sang(ケニア)

ケニア・リフトバレー州でも有数の都市エルドレットの郊外にあるカプタガトの町に世界トップクラスの長距離トレーニングキャンプ(GSCキャンプ)があり、1992年バルセロナ五輪3000mSC銀メダリストのパトリック・サング(写真右)がコーチとして長年活動しています。

GSCキャンプには、
エリウド・キプチョゲ(マラソン世界記録保持者)
ジョフリー・カムウォロル(ハーフマラソン世界記録保持者)
ロジャース・ケモイ(2016年U20世界選手権10000m金メダリスト)※愛三工業にも所属
スティーブン・キプロティッチ(ロンドン五輪、モスクワ世界選手権マラソン金メダリスト)
フィレモン・ロノ(マラソンPB2:05:00、トロントウォーターマラソン3勝、愛称“ベイビーポリス”)
アブディ・ナゲイジェ(マラソンPB2:06:17 = オランダ記録)
など約30名の選手が所属。

その他、パトリックコーチは現在ではアベル・キルイ(2009、2011年世界選手権マラソン金メダリスト)、フェイス・キピエゴン(リオ五輪女子1500m金メダリスト)、ヒヴィン・キーエン(2015年北京世界選手権女子3000mSC金メダリスト)などの選手も指導しています。

選手時代とコーチ時代の35年以上の経歴のなかでパトリックコーチは、これまでも数え切れないほどの課題に直面してきましたが、今回のパンデミックのようなことは初めてだといいます。

世界中で大会の中止や延期が続き、ケニア政府による行動制限でキャンプは一時解散。選手たちは目の前の目標を奪われてしまいましたが、パトリックコーチは約30人のキャンプの選手、そしてその他にも指導しているアスリートに向けてこのように話します。

「前向きに考えるよう計画を立てています。遅かれ早かれコロナウイルスは終わります。これまでにもいくつもの困難を経験してきましたが、永遠に続くわけではありません。選手達には、エネルギーをシーズンの残りの部分に集中させること、そして前向きになるように言いました」

キプチョゲは朝を中心に1人でゆっくりと走る日が多く、カムウォロルは慣れないトレッドミルを購入してジョグ以外の練習も少しだけ行っているそう。ナゲイジェはクロストレーニングとしてバイクトレーニングを採用しています。コーチは今の時期に、基礎的な持久力維持や筋トレを推奨しており、あくまで彼らはキャンプが再開する時に備えています。

ケニア政府の行動制限によりコーチは選手たちとは会っていませんが、キャンプのメンバーの多くの選手に妻や子供といった家族がいます。キャンプに住んでいる選手たちは普段、日曜日しか家族に会うことがないので(日曜日しか家に帰らないので)、コーチは今回のこの機会を前向きにとらえています。

「愛する人に1日24時間囲まれて過ごせることを可能にしています。これが良い影響を与えるでしょう。家族ともに過ごすことで、人生で本当に重要なことが何かを思い出すきっかけにもなるでしょう」

(ちなみにこれを書いている私も、自分の娘と過ごす時間がこの数ヶ月で格段と増えたことによって、家族の絆が深まったと感じています)


Mersha Asrat(エチオピア)

5000m、10000m世界記録保持者のケネニサ・ベケレのコーチである元1500m選手のマーシャ・アスラットは、若手選手の指導も行う38歳のエチオピア人コーチです。

彼が指導する選手も単独でも練習を余儀なくされている選手がいますが、それでも前向きな考えをしていくことが重要であるといいます。

「私はパンデミックは過ぎ去ると考えています。いつ競技が再開されるはまだ誰にもわからないが、すぐに競技を始められるように準備しなければならないのです」

マーシャコーチは、週に3回のランニングと3日間の自宅での筋トレを交互に行うことを選手たちに提案していますが、このプログラムには長期的な効果があると考えています。

「エチオピアの選手の中には、筋力が低い選手もいます。私は選手たちに、それぞれのワークアウトにはそれぞれの意味があり、それぞれの機能やメリットがあることをきちんと説明しています」

また、マーシャコーチは、以前と比較して練習量の多さを継続するのではなく、余った時間で英語力を伸ばすことを推奨しています。ベケレやハイレ・ゲブレセラシエ のように、世界トップの一流選手が英語を話せるようになったのは、もちろん母国語でも、公用語でもない英語を勉強したからに過ぎません。

マーシャコーチのグループの多くの若手選手は、日頃から英語を学ぶのに苦労しているそうなので、コーチは今こそ前向きに、積極的に学ぶ時期だと考えています。

(エチオピア人選手の英語学習については個人差がありますが、パンデミックが起きる以前に、普段でも喫茶店のようなところに集まって英語の学習を有志で行っている選手たちもいるという記事を、数年前にどこかで見かけたことがあります)

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