ランニングシューズのアッパー素材の変化【ナイキのヴェイパーウィーブがもたらした合成繊維の興隆】
私はエリートランニングの世界におけるランニングシューズが劇的に変わったのは2017年のヴェイパーフライ4%の登場以降の3年間だと思っている。
そして、この1年間の間でアッパー素材の変化が目覚ましく起こっているが、後述する合成繊維のアッパー素材をパフォーマンス系のランニングシューズに惜しみなく投下しているのは、今のところナイキ、アディダス 、そして中国のメーカーであると感じている。
素材を知ることで「感覚」を言語化できる
この記事を書く前にお断りしておきたいのは、私はスポーツメーカーでの勤務歴がない人間であり、シューズショップや靴工場で勤務したこともない。
つまり、以下に書くことはあくまで製造者やサプライヤー側の専門的な知識を持ち合わせていない一般人である私が感じたことを書くまでである。
よって、全てが正確な情報でないのかもしれないが、少々の憶測等をお許しいただきたい。
アッパー素材の話をする前に、ランニングシューズのミッドソールの話を。
よく、
・反発性が高い
・軽量である
とシューズで強調されるが、実際には軽量化どうかは重量を測ればわかるが、反発性が高いというのは、ワークマンのシューズですら謳っているので、反発係数を明らかにしない限りは明確に比較にならないと感じており、「この新製品は反発性が高いです!」みたいなPRはもう1000回ぐらい聞いてきたので目新しいものでは無い。
それよりも、シューズのミッドソールがどういう素材で構成(複合)されていて、それによってどれぐらい弾むのか、ということを理解しながらそれぞれを比較していくほうがまだ説得力がある。
例えば、Zoom X(Pebax)をふんだんに使用したネクスト%と、EVAの臨界発砲での混ぜ物であるDNA Flashを使用したハイペリオンエリートでは、明らかにネクスト%のほうが弾む素材であるのにも関わらず、人によっては「どちらも同じ“ぐらい”反発性がある」という曖昧なことを言ったりする人がいる。
その場合は、その人がハイペリオンエリート2の無償提供を受けている可能性が高い。履いてみればわかることだが、弾みすぎると、安定性の高さ生まれない(例えばトランポリンではよく弾むが、安定していない)。
しかし、ハイペリオンエリート2のDNA Flashは(履いてみればわかることだが)弾みすぎる素材ではなく、安定感の高い素材である。よって、「ネクスト%“ぐらい”反発がある」というのはおそらく勘違いかステマである。
シューズのアッパーも同じように、
・通気性
・撥水性
・耐久性
・フィット感
・ホールド感
※下の2つはラスト(靴型)にも左右される
という評価基準がそれぞれあるがだいたいはその素材で差が出てくるので、素材について知っておくことはミッドソールもアッパー素材も同じようにかなり重要なことである。
そして、それぞれの素材がどういうものかを理解することで、このシューズは○○であるの部分を感覚的ではなく、細かく説明することができる(言語化することができる)。
さて、本題に移ろう。
①:2000年代のランニングシューズのアッパー:人によっては破れやすく耐久性に難があった
私は2002年から陸上を始めたので、2002年前のシューズについては、現物を触ったことすらないので、一切知らない。ナイキのコルテッツや、アシックスの名作の初版などはどういうはき心地なのか一切知らない。
以下は右を除いて、私が陸上競技をしていた高校から大学の時に履いていたシューズのアッパーである。
左:ミズノ、クロノディスト(スパイク)
真ん中:アシックス、ソーティマジックVR
右:カレンジ、ウルトラライト(最近のシューズ:税込み4,400円)
ソーティマジックVR ↓
クロノディスト ↓
ウルトラライト ↓
いずれも同じような編み込み(メッシュ)であるが、このようなアッパーの難点は水を吸いやすく、耐久性が低いことである、お陰で足の親指が大きい私は靴下だけでなく、このアッパーのタイプのランニングシューズのアッパーまで突き破ってしまうということが多々あった。
簡単にいうと、当時履いていたターサージャパンなどアシックスの伝統的なシューズのアッパーの親指の部分は、履き込むと必ずと言っていいほど破れていた。
そして、冬季はそこから冷気が入り込み、通気性は最高に良かった。笑 が、しかし撥水性が良くないので、冬の雪の日や雨の日などはよく足の指に霜焼けをよく起こしていた。
そんなアッパーが当時は普通だった(当時の他のメーカーのシューズは特にミズノぐらいしか履いていない。2000年代はアシックスとミズノがランニングシューズにおける2大ブランドだった)。
↑の拡大写真をよくみても、確かに通気性の良いアッパーである。
②:ちょっと耐久性がアップした最近のメッシュアッパー
左:サッカニー、エンドルフィンプロ
真ん中:アディダス、SL20
右:アシックス、ゲルカヤノ25
エンドルフィンプロ ↓
ゲルカヤノ25 ↓
SL20 ↓
ゲルカヤノ25は少し前のシューズであるが、他の2つは2020年に流通しているシューズである。最近のシューズは昔ほどアッパーが破れにくくなってきており、冬季に、より通気性が高く感じることは少なくなっている。笑
耐久性が高くなっているのは事実であるが、アッパーの素材を織る製造コストも昔よりかは低くなってきているそうだ。ちなみに、2000年代のランニングシューズを履いていてアッパーが破れていたのは多分私だけではないはずだ。笑
③:フライニットじゃないけど...他メーカーのニットアッパー
左:ワークマン、アスレシューズハイバウンス
真ん中:特歩、騛速X
右:特歩、騛速160X
騛速160X ↓
騛速X ↓
ハイバウンス ↓
ニットアッパーの特徴は着脱しやすいということである。しかし、ミズノのウェーブデュエルネオといったニットアッパーなのにタイトすぎるようなアッパーは逆に着脱しにくいが...
そして、ホールド感もほどよくいいので、靴下のように例えられる。しかし、ワークマンのハイバウンスのアッパーはヒール部分が甘いのでかかとがぶかぶかの靴下、という感じである。
ニットアッパーは撥水性が高くないため、雨の日は少し重くなる。しかし、冬季の寒さにも耐えうる通気性なので、逆に冬季は心強い。拡大してみても確かに①や②のアッパーよりも隙間が小さく、たしかに靴下のようなアッパーだといえる。
④:軽くて、耐久性も高くて、通気性もよく、フィット感も良いオールラウンダー
さて、ここからが合成繊維の登場。
左:特歩、竞速160X
右:アディダス、アディオスプロ
アディオスプロ ↓(リサイクルポリエステル)
竞速160X ↓(TPU)
このアッパー素材の良さはオールラウンダーであるということ。この2足はどちらも似たようなフィッティングで、足にストレスをかけすぎず程よい。そして、耐久性が高そう。逆にこのアッパーを破るのは難しいともいえる。
↑のTPU素材とは、Thermoplastic Polyurethaneの略で、熱可塑性ポリウレタンのことである。スマホケースにも使用されるような耐久性の高い素材とはいえ少し柔らかいのが特徴。
それでも、ニットほどの伸縮性はなく、少し太めの釣り糸のようなものだと思っていただければイメージしやすいのかもしれない。
ポリアミド系(ナイロン)、ポリエステル系、ポリウレタン系といったのような合成繊維のアッパーが増えてきているが、中国メーカーがパーフォマンス系のランニングシューズのアッパーにこぞってTPU素材を使用しているのが目立つ。
アディダスのセラーメッシュ も完成度が高いが、それに劣らず中国メーカーのアッパーも完成度が高いから、すごいなぁと思う(そして、それでいてシューズの値段が安い)。
⑤:外側は合成繊維であるが、内側にソフトな生地が使用されている
左:スケッチャーズ、ゴーランレイザー3ハイパー
右:ナイキ、ペガサスターボ(初代のもの)
ペガサスターボ ↓
ゴーランレイザー3ハイパー
④と同じような耐久性も通気性も高い素材を使用しているが、その内側に肌触りがソフトな生地があるので、このシューズのアッパーはこれまでのランニングシューズのフワッとしたようなフィット感である。
外側が合成繊維で耐久性が高く、内側がこれまでと同じような素材なので肌触りや足へのなじみが良い。この組み合わせは意外と侮れない、と思っていたら、ペガサスターボは2でアッパーを変えてきたし、しかもペガサスターボ自体が廃盤になる。
⑥:ネクスト%のヴェイパーウィーブと、それをパクったジョーダンのアッパー
左:乔丹、飞影PB
右:ナイキ、VFネクスト%
ネクスト% ↓(緊急事態宣言の時に暇だったので赤く染めた。笑)
飞影PB ↓
この素材は撥水性が高い。合成繊維が水分を吸わないうえに、水の粒子を靴の内側に簡単には通さないほど細かい(↑はだいぶ拡大している。)
ネクスト%のアッパーは皆さん履いたことがあるだろうからイメージしてもらえるかと思うが、この飞影PBのアッパーはもろパクリであるが完成度が高すぎて、すごいとしか言いようがない(このシューズは定価12,000円!)。
⑦:中国メーカーのシューズははっきりいって凄い
この合成繊維のアッパーはここ最近で多く使用されているが、数年前の製品にも使用されていたものがあったりといきなり新しく出てきた素材ではない。
それでも、中国メーカーのシューズは結構この素材をよく使っていて、それはレーシングシューズ以外にもチラホラ使用されている。
左:ピーク、UP30
真ん中:李寧、飞电1.0
右:特歩、ウルトラライト
飞电1.0 ↓
UP30 ↓
ウルトラライト ↓
この3足はいずれもネクスト%のヴェイパーウィーブのように水を通しにくく、そして軽い。
↑のウルトラライトはズームフライSPのようなアッパーであるが、このウルトラライトは新品を3500円ぐらいで買うことができる。そんな安価なシューズの割にはなかなかイカしたアッパーと見た目のシンプルさである(ミッドソールはEVA)。
このように、中国メーカーのシューズは製造コストが安いのだろうか、李寧を除いては極めて低価格の傾向がある。そして、ネクスト%がリリースされてから以降は、このような合成繊維素材のアッパーが増えてきたように思う。
私の感覚だと、エンドルフィンプロやフューエルセルRCエリートのようなアッパーの肌触りも好きであるが、合成繊維のあっさりとした感じのフィット感も好きである。
中国メーカーのシューズは価格が低いうえにクオリティが高いので、是非多くの人の手に行き渡ってほしいと願うのだが、現在では日本での販売が361°を除いてほぼないに等しい。
これまで、聞いたことのないようなメーカーでも、現状有名なメーカーが出しているようなシューズと同じ、もしくはそれを上回るようなクオリティで低価格のシューズがどんどん今後も出てくるだろう。
今後もこういった中国メーカーの勢い位に注目してランニングシューズ業界の動向を追いたい。個人的には気になる中国のスポーツメーカーは現状で8、9社ぐらいはある。
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