【すしログ直伝】美味しい江戸前鮨仕様のシャリの作り方
さて、世の中に美味しいスシ(鮨・鮓・寿司)を広めるべく、不定期連載の【スシレシピ】を書こうと思い立ちました。鮨の第一人者である「すしログ」こと大谷が、長年食べ歩き、自分でも作ってきた研究をもとに、誰でも楽しく美味しく鮨・寿司を作れるよう、レシピを提案していきます!
さて、第1号の記事のレシピは【シャリ】です。スシの生命線。「すし飯」が正式名称で、「酢飯」とも言いますが、本noteでは通り名の【シャリ】を採用します。
最初に断言しますが、【シャリ】が美味しければ、あらゆるスシが美味しくなります。これは極論ではなく事実です。【シャリ】さえ美味しければ具が安いものでも、一気に贅沢なスシになります。実は、手巻き寿司を美味しくするためには、タネ(ネタ)よりもシャリが重要です!
…しかし、世間の【シャリ】のレシピは、あまり美味しくないことが多いです。江戸前鮨を食べ歩いた結果、背後にある大きな理由に気づきました。●●の使いすぎが美味しくならない理由か…!と。後で詳しく説明します。本記事が美味しいシャリとの出会いにつながれば望外の喜びです!
なお、筆者は鮨職人限定のイベント「世界シャリサミット」に参加して、鮨職人とともにシャリについて考えた経験があります。
同時に、一流店の鮨職人さんとシャリの研究を行ったり、シャリ改良のアドバイスを行ったりすることもあるので、ノウハウは「回らない鮨店」クラスです。そして、本記事で言う「美味しいシャリ」とは「美味しい江戸前鮨店のシャリ」としてご理解ください(ただ、本記事では家庭で美味しく作ることを目指しているので、鮨職人さんはその点をご了承の上で一読ください笑)。
まず、初めに大前提です。これらを見落とすと高確率で失敗するので、最初にお伝えします。
シャリは炊飯が9割!
絶対に美味しいお酢を使う
一度に2合以上(最低でも1.5合)作る
それでは、テンポ良く解説していきます。
シャリは炊飯が9割!
美味しいシャリは炊飯でほぼ確定します。分かりやすく述べると、加水率が高いお米では、美味しいシャリは作れません。これは江戸前鮨(握り鮨)でも、棒寿司でも、手巻き寿司でもみんな同じです。
シャリの大敵は粘りと柔らかさです。お米の水が多いと、粘ったり、柔らかくなったりしてしまいます。回転寿司でも、粘っこかったり、お米がベチャッとしていたら美味しくないですよね…。
そこで重要な炊飯方法を箇条書きにします。
粘度が低いお米を選ぶ
水は通常の80%程度
浸水は冷水で行う
理想としては冷蔵庫で一晩(8〜12時間)浸水する
浸水したお米は土鍋や銅鍋などを用いて、高火力で一気に炊く
炊いたお米は保温せず、熱々のうちに合わせ酢でシャリ切りする
上記を実践すれば、高確率で美味しいお米が炊けます。「いきなり土鍋や銅鍋!?」と思う人も多いと思いますが、ご安心ください。炊飯器でも美味しく炊く方法を後ほどお伝えします。
そして、「一晩の浸水」についても「面倒だな…」と感じる場合には、「水は1合分の80%程度」だけでも試してみてください。
では、説明に入ります。
一番簡単に美味しいシャリを炊く方法としては、お米選びと、水分量を考えることです。順に細かく見て行きましょう。
まず、「お米選び」から始まる
お米については粘度が低い品種がベターなので、新米のコシヒカリは避けましょう。新米のコシヒカリでも技術があれば美味しいシャリを作れますが、家庭で安定的に美味しくするためには別の品種をオススメします。ちなみに、非常に有名な「銀座久兵衛」さんでは、新米のコシヒカリだけでは粘りが出るので、水分が抜けた古米のコシヒカリをブレンドされています。そして、東京の現在主流のお店でも、コシヒカリを使うお店は結構レアです。
家庭向けの品種を具体的に挙げると、 ササニシキ、ななつぼし、ひとめぼれ、みずかがみ、雪若丸などは美味しいシャリを作りやすいです。そのように考える根拠としては、デンプンの性質。デンプンにはアミロースとアミロペクチンの2種類があり、この含有率の違いによりお米の性質が変わります。分かりやすい例はもち米で、もち米はアミロペクチン100%なので粘りが強いのです。つまり、アミロペクチンが少なく、アミロースが多い品種が「安定的に美味しいシャリを切れるお米」となります(※繰り返しになりますが、コシヒカリなどの高アミロペクチン系の品種でも、美味しく炊く技術はあります)。
気を抜いてはダメな「水分量」
次に、水分量は非常に重要です!しかし、「酢飯 レシピ」で上位表示されるサイトは、漠然とした表現されていません。
サイトA:少し硬めに炊き上がるような水加減
サイトB:酢飯コースの水加減
サイトC:少し硬めに炊いたもの
これでは高確率で美味しいシャリにはなりません。具体的には、水は通常の80%くらいで炊いた方が美味しいです。後から合わせ酢の水分が入るので少なくしないといけないですし、少量の水で高火力で炊いた方が、お米にコシとハリが生まれます。シャリは口当たりと、ほどけ加減が非常に重要です。口当たりがザラッとしたりネチャッとしたり、食べるときに米粒がパラっとほどけないシャリは失敗作です。おにぎり用のご飯とシャリ用のご飯では、炊飯方法が違うのは当然ですよね。
そして、少ない水分量で美味しく炊くために重要なのが、浸水(浸漬)です。理由については、お米は水分が入り始めた瞬間から、周囲のデンプン質が溶け出すためです。研ぐ時からデンプン質が溶けにくい冷水を使い、浸水は低温で行った方が粘りを押さえることが可能です。お米に水をゆっくりと均一に浸透させるため冷蔵庫で一晩かけるのが理想です。家でシャリを切るのは決して多くはないと思いますので、美味しいシャリのためには是非とも手をかけてみてください!シャリが応えてくれるはずです。なお、常温で長時間浸水するとデンプン質が溶けてベタベタになるので、厳禁です。
多くのレシピが参考にならない!合わせ酢の真実
次に、重要なのが合わせ酢です。タイトルはいささか煽情的かもしれませんが、事実です。なぜなら、圧倒的多数のレシピは砂糖が多すぎる上に、使用する調味料を指定していないからです。
僕が美味しいシャリのために断言するルールは以下の4点です。
砂糖は少量に抑える
美味しいお酢を使う
美味しい塩を使う
順に説明していきます。
「砂糖」について
まず、初めに申し上げておくと、伝統的な江戸前鮨のシャリには砂糖を使いません。最近の人気店も、使用しないか、使用しても極少量です(関西以西の江戸前鮨は別です)。
Googleで検索して上位表示される3サイトから、合わせ酢の分量をピックアップしてみます。
【2合分のシャリに対する分量】
サイトA:酢50ml、砂糖大さじ1と1/3、塩小さじ1弱
サイトB:酢40ml、砂糖大さじ2と2/3、塩小さじ1
サイトC:酢40ml、砂糖大さじ2、塩小さじ2
どう考えても砂糖が多すぎです。「砂糖が多いシャリ」は、ハッキリ言って昭和の負の遺産です。江戸前鮨には、もともと砂糖を使いませんでした。しかし、戦後の高度経済成長期に砂糖が「贅沢の象徴」としてみなされたためか、シャリに砂糖を大量に使うようになってしまいました。その頃は「甘い=旨い」とみなされたのです。甘味を旨味として認識するなんて、完全に誤認と言わざるを得ません。しかし、ネット上のシャリのレシピには、誤認が未だに生き続けている現状です。
ただ、砂糖を用いる事が完全にデメリットではありません。メリットもあるので、ピックアップします。
米粒にツヤが出る
冷めても美味しく感じられる
少量用いれば味がまろやかになる
重要なのは使用量です。そして、お米の甘味、塩の塩味、お酢の酸味との味覚的バランスです。シャリを食べて「甘い!」と感じる量は明らかに多く、江戸前鮨的には美味しいシャリとは言えません。お米の甘味を活かすことが、美味しいシャリの重要なファクターです。
なお、関西のシャリには砂糖を用いる事が一般的ですが、それはお米を昆布とともに炊飯したり、〆(締め)の塩の当たりが強いと言う、調理上の違いのためです。味覚のトータルバランスが異なる事は押さえておく必要があります。
「お酢」について
そして、シャリに使う調味料で最も重要なのがお酢です。ただ、多くのレシピではないがしろにされているのが残念なところ…。安いけれど旨味が無く、極端に酸っぱくて臭い穀物酢で作っては、美味しいシャリなど生まれるわけがありません。
筆者はかつて美味しいシャリのためにお酢の飲み比べを行い、記事にしました。
このような経験と鮨職人さんとの交流、ひいてはお酢蔵の蔵元からお話を伺うことで、美味しいシャリには美味しいお酢が必須だと確信しました。「お酢なんて酸っぱいもの」と思っている人が世間には多いので、僕は「本当のお酢は酸っぱいよりも旨いもので、酸味は旨味をアシストするための存在」であることを伝えたいと思っています。
そこで、一般の方が購入できる美味しいお酢の代表としては、京都宮津の「飯尾醸造」さんのお酢です。下記の【純米富士酢】と【富士酢プレミアム】をブレンドすると、驚くほど旨い合わせ酢になります。
廉価なお酢に比べると高いお酢ですが、美味しさが本当にレベチです。造るのに多大な原価と手間がかかっていることも考えると、僕はコスパが良いと思います。なにせ、素人が簡単に料理を美味しくできるチートが調味料なので。
「飯尾醸造」さんについては、取材して記事を書きましたので、ご感心のある方はご参照ください。
他にも良いお酢蔵さんはありますので、是非とも色々試して、自分の「推しお酢」を見つけてください!絶対に美味しいシャリになりますので。
「塩」について
次に重要なのが、塩です。端的に言うと、塩化ナトリウムが 99.5%以上の精製塩よりも、ミネラルが含まれている海水塩の方が、美味しいシャリを作りやすいです。ミネラルが多いということは、塩分が少なくしょっぱさが弱いということです。
そこで、家庭向けにオススメする塩としては、藻塩(広島の海人の藻塩や、島根の浜守の塩)や、奥能登の揚げ浜式の塩が挙げられます。これらはナトリウム含有量が低く、旨味がある塩なので、美味しいシャリに仕上がります。
美味しい合わせ酢のレシピ
最後に、美味しい合わせ酢のレシピを紹介します。自身の配合は以下のとおりです。
シャリ(2合分)の合わせ酢
お酢(米酢と赤酢のブレンド):50〜60ml
塩:6〜10g
和三盆:極少量 ※使わない時もあります(気分や使う魚に合わせて!)
お酢が多いように感じるかもしれませんが、炊飯時に水を減らしているので、合わせ酢で水分を加える必要があるためです。
また、米酢と赤酢をブレンドする理由は、米酢の酸味に赤酢の旨味を加えるためです。このような観点からも、米酢と赤酢を両方持っていると、シャリ作りが楽しくなります。
なお、幅を持たせている理由は、季節によってお米の炊きあがりの状態が変わるためです。なので、僕は少し多めに作っておいて、シャリ切りの時に調整しています。そして、塩気についても季節や体調で調整しています。年間を通してレシピ通りに造るのではなく、自分の体調やその日の嗜好で調整すると、美味しいシャリに近づくことが出来ます。
和三盆は「高級」と言うイメージがあるかもしれませんし、実際にお高いですが(笑)、甘味が舌に残らないので繊細な料理にオススメです。特に東かがわ市の「三谷製糖」さんの和三盆は抜群です。
そして、合わせ酢については、シャリ切りの前に用意して馴染ませておきましょう。炊飯開始前に作っておくと馴染むはずです。
また、最後に裏ワザをお伝えします。合わせ酢はシャリ切りの直前に電子レンジで温めておきましょう。シャリの味が変わります。
最後の仕上げ!シャリ切り
そして、シャリは当然のことながらシャリ切りで味が決まります。最低限言えることは2点。一つが、2合以上(最低でも1.5合)で作ること。もう一つが、炊きたての熱々ご飯で作ること、です。
飯台はシャリ切りの前に水で濡らしておきましょう。
炊きたてのご飯を飯台に移したら、すぐに合わせ酢をまんべんなく回しかけて、即座に切ります。しゃもじの面を立てて、文字通りご飯の粒と粒の間を切るようなイメージでほぐします。
そして、しゃもじでご飯を裏に返した後、しゃもじを寝かせて水平方向に切ります。
これを数回、なるべく少ない回数で繰り返して、お酢を全体に馴染ませるのがシャリ切りです。赤酢をブレンドすると、米粒に馴染んでいるかどうかがすぐに分かるメリットもあります。
間違っても遅く、ダラダラとやらないようにしましょう。シャリ切りは、しゃもじがご飯に触れれば触れるほど粘りが出て、せっかく低温長時間浸水しても失敗する確率を高めてしまいます。限りなく手早く。
その後、放熱して、湯気が出なくなったらお櫃もしくは炊飯器に移して保管します。僕は、うちわは使いません。5分〜10分ほど置いて放熱します。
炊飯器をうまく使うコツ
土鍋や銅鍋を持っていないし買う予定がない人、すぐにでも美味しいシャリを作りたい人は、ご安心ください。炊飯器でも使い方次第で美味しいシャリを炊けます。
炊飯器を使うにしても冷蔵庫で一晩浸水させる方法が理想ですが、最も簡単な方法をご紹介します。これなら、急きょ手巻き寿司やバラ寿司(ちらし寿司)を作りたくなった時でも安心です。
優しく、手早く洗う(最初の10秒以内が重要なので、お米が米ぬかの匂いを吸わないように水をすぐに捨てる)
冷水を使い1.5時間(できれば2時間)ほど浸水させる、水分量は80%
浸水後、「急速炊飯」モードで炊く
これで美味しいシャリを作れます。
まとめ
以上で、美味しいシャリの作り方のご紹介を終えます。部分的でも採り入れて頂ければ、必ず美味しいシャリを作れると信じています!
本当にシャリ次第でお家スシの味が変わります。
美味しいシャリの力を実感して頂ければ幸いです!
なお、美味しいシャリを作るためには、飯台が必須です。可能であれば大きめの飯台を購入してシャリ切りをした方が、絶対に美味しいシャリになります。スペースが問題ない方は、是非とも試してみてください…
さらに美味しいシャリ、スシを作りたい方は、下記のリンクをご参照ください。
スシ本についてのまとめ記事も書いています。
マニアックに料理を極めたい方には、調味料まとめも(笑)
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