見出し画像

有機農業(オーガニック)の地球環境へのメリットとデメリットを分かりやすく解説します

有機農法とは

簡単に解説すると、化学農薬、化学肥料、遺伝子組換え作物を使わないで作物を育てることを有機農法と言います。英語で言うとオーガニックになります。日本ではもともと遺伝子組み換え作物が普及していませんので実質的には化学農薬、化学肥料を使わない作物のことです。農業用の機械は使って構いません。また、有機農法に対して普通の化学農薬、化学肥料を用いる農業を慣行農法と言います。
化学農薬を使わないため病気、虫、雑草に対して何らかの対策が必要です。日本は高温多湿で病気が発生しやすいので、土壌や気候に気を付けないと作物は簡単に病気で枯れたり、収穫が減ったりします。防虫ネットは使えますが、作物によってはそれだけで完全に防げません。雑草対策も多くの時間を費やします。
また、農業では作物の出荷によって土地から持ち出される窒素、リン酸、カリ等の栄養素を何かの形で補給しなければなりませんが、化学肥料は使えません。このため、有機農業では鶏糞、牛糞、油かす(油を搾った後の菜種や大豆)などを肥料(有機肥料といいます)として使っています。有機肥料は化学肥料と比べると多くの重量を撒く必要がある上に、糞類は撒いた後の匂いがすごいです。
本当にさわりの基本的なことしか書いていませんが、それでも大変さが伝わるのが有機農業です。
日本政府は有機農業を推進しようとしています。なんと、現在~0.5%程度しかない有機農業を耕作地の25%にすることを目指すそうです1) 。

有機農法のメリット

政府が有機農業を推進しようとする理由は、有機農業には慣行農法にはないメリットがあるからです。

画像1

鉱物資源である化学肥料を使わず、肥料の環境流出削減

筆者が考える有機農法最大のメリットは肥料です。まず、窒素リン酸カリの窒素は空気から作ることができますが、リン酸カリは鉱物資源で再生しません。限りあるリン酸カリの使用量を抑えるのは有機農業の最大のメリットです。
また、窒素リン酸カリの河川や海などへの環境流出はプラネタリーバウンダリー(地球の限界)では最も深刻な環境問題とされます2) 。有機農法では肥料の使用量が少なかったり、有機肥料は水で流出しずらいとされていますのでこれらの問題が減ると考えられます。
ここで注意しなければならないのは有機肥料の鶏糞、牛糞、油かすに窒素リン酸カリが含まれているのは、これらが化学肥料たっぷりのコーンを食べたり、化学肥料たっぷりの土壌で育てられたからです。ですので、有機肥料が完全に持続可能なサイクルを回している訳ではなく、資源のリユースであるという点は要注意です。しかし、リユースであってもしないよりは全然環境に優しいと思います。

残留農薬や農薬の環境流出が少ない

有機農法では農薬を使いません。これにより農作業は格段に大変になる代わりにメリットがあります。それは作物に残留する農薬や環境に流出する農薬が減ることです。人間と病気、虫、雑草は体のつくりが異なりますので、基本的に農薬は安全です。たくさんの安全性試験をしています。しかし、石油由来の製品を全て身体に悪いと決めつけている人もいますし、筆者も安全と断言はできますが積極的に摂取したいとは思いません。少ないに越したことはないと思います。
また、農薬は人間に益のある虫にも有毒になる場合があります。例えばハチは植物の受粉を助け、害虫を駆除し、人間に蜂蜜をもたらす益虫ですが殺虫剤の影響を受けます。

有機農法のデメリット

農作業にかかる手間が増えて収量が減る

農薬が支持されている理由は病気、虫、雑草に対する防除を農薬以外の方法でするよりも手間がかからないからです。加えて農薬以外の方法では病気や虫を防ぐ能力が劣ります。例えば防虫ネットでは農薬程は虫を抑えることはできません。作物が枯れてしまうリスクがあります。また、化学肥料を利用しないと十分な収穫は得られません。
農家からすると手間が増えて収量が減るとなりますが、消費者からすると値段が上がるになります。実際に有機栽培の農作物は慣行農法よりも高値で取引されています。

食料確保に必要な耕作面積が増える

これが最大のデメリットです。そもそも原生地を開墾して農地にすることは最大の環境破壊です。樹木や土壌が長い長い時間をかけてため込んだ二酸化炭素は排出されますし、野生動物の住処が失われます。化学肥料や化学農薬の使用は原生地を農地に変えることと比較すると環境負荷は小さいと筆者は考えています。
手間が増えて収量が減るということは同じ食料を確保するのに必要な栽培面積が増えるということになります。これは化学肥料や化学農薬を使用するデメリットを上回るデメリットです。

化学農薬を使ってないが農薬が使えて検査はない

有機農法では化学農薬は使ってませんが、使える農薬があります。生物農薬、天然物、ボルドー(銅で殺菌作用がある)などです。これらはいわゆる化学農薬ではありませんので、使ってよいことになっております。生物農薬と天然物は、自然界に存在するという理由で使ってよいことになっていますが、天然=ノーリスクではありません。生物農薬と天然物は化学農薬程は安全性試験をしていないため、筆者は本当に安全かを疑っております。また、化学肥料を使うことができないのに銅を使っていいというのは論理的な整合性を欠くと思います。
また、肥料として使う鶏糞や牛糞には農薬が含まれている場合があります。家畜は飼料(コーンや大豆かす)を食べて育ちますが、コーンや大豆かすに農薬が残留している場合は糞から農薬が検出されることがあります。クロピラリドという難分解性の除草剤は糞を通じて畑に持ち込まれることがよくあり注意喚起がされています3) 。
有機農法の農薬に関する最大の問題は検査なしです。通常、農協を通してスーパーで売られる農作物は抜き取り検査をしています。抜き取りですので、全てを検査している訳ではないですが、まれに検査される可能性があります。農家からすると農薬の基準値を超えると、その農地の出荷はできません。また、場合によっては部会(その地域)全てが出荷できなくなります。最悪、1年間無収入、それも自分だけではなく村全体という生き死にに関わるリスクがあります。このため、農薬検出により夜逃げしたり、自殺したりした話もあります。まれにでも検査されるというのは農薬の適正使用に於いては非常に有効に機能していると思います。

画像2

一方、有機の場合は一度認定されれば、農作物の検査はありません。農薬を使えば手間が少なく育てられます。農薬の検査はありません。化学肥料に至っては使用を調べる術がありません。肥料や農薬の使用の誘惑にかられる人はいると思います。
また、筆者は常々気になっているのですが日本の有機農業の栽培面積は~0.5%程度とされていますが、その割にはオーガニックと名乗る野菜が多いと思いませんか?
ちなみにスーパーや農協などの物流を通さない産直も農薬検査はありません※。産直は製作者の名前が見える安心感はありますが、一方では検査なしという安全上の問題を抱えていることも知っていてください。

※2021/10/15追記 最近では産直などでも収去検査がなされるようですので事実上検査ありです。不勉強で申し訳ありませんでした。

生分解性プラスチックを使用できない

農業は意外とプラスチックを使います。有機農業は農薬が撒けないので、除草剤の代わりにマルチシートを、殺虫剤の代わりに防虫ネットを畑にかけることが多いです。しかし、分解に非常に時間がかかり、マイクロプラスチックになったり、海を汚したりする可能性がある「生分解できない石油由来プラスチック」を使わないと有機農業になりません。近年、石油由来でも微生物によって安全に分解する生分解性プラスチックが開発されて実用化されていますが、これらを使用することができません。理由は石油由来の製品が土に混じるからです。
しかし、これでは農薬の使用量は減ってもプラスチックの汚染を減らすことができません。

結論「慣行農法は持続可能でないが、有機農法が環境負荷が小さいとは言えない」

「緑の革命」4) でも触れましたが、化学肥料と化学農薬を使う慣行農法は持続可能ではありません。肥料はいずれ掘りつくし、農薬も耐性の問題があります。
しかし、今日本の~0.5%で行われている有機農法が答えになるかというとならないと思います。上述したとおり現行の有機農法ではそれほど環境負荷が小さくなる訳ではありません。そもそも99%以上が慣行農法を選んでいるということは慣行農法には農家にも消費者にもメリットがあるということです。
一方、みどりの食料システム戦略1) で目指している農業は江戸時代に回帰というよりはドローン、IoT、バイオテクノロジーを駆使した有機でも慣行でもない新しい形の農業、スマート農業(Agri Tech)を目指しているようにも見えます。例えば除草ロボットを使えば除草剤を使わなくても雑草の駆除ができます。
筆者も農業のファイナルアンサーは慣行にも有機にもなく、慣行と有機と新しい技術革新の融合の末にあるのだと考えております。

画像3

最後まで読んで頂きありがとうございます。

1) みどりの食料システム戦略
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-60.pdf

2)  プラネタリーバウンダリーについてはこちらもどうぞ

3) クロピラリド関連情報
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/clopyralid/clopyralid.html

4) 「緑の革命」についてはこちらもどうぞ


この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?