地球環境に優しい話(by さすえこや)
人体への影響から遺伝子組換え作物まで、除草剤ラウンドアップ(グリホサート)の人類への功罪
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人体への影響から遺伝子組換え作物まで、除草剤ラウンドアップ(グリホサート)の人類への功罪

地球環境に優しい話(by さすえこや)

記事を読んで頂く前に

私はバイエル社や日産化学社の関係者ではありません。不安に感じている方が多いと聞きましたので、すでに報告されている科学的で客観的な事実を分かりやすくまとめました。ラウンドアップの良い面も悪い面も客観的事実に基づき書きました。人類が最も使用している除草剤であるラウンドアップの功罪について正しく理解して頂けると幸いです。

ラウンドアップとは?

1970年にモンサント社(現在はバイエル社に買収されてます)が開発した世界で最も使用されている除草剤(農薬)です。ラウンドアップは商品名で有効成分名は「グリホサート」となります。リーズナブルな価格で草だけでなく広葉樹等広い範囲の植物を高い効力で枯らします。
田舎に住んでいる虫や雑草による浸食と戦いに一定の時間を費やさないといけません。畑、庭、通路、駐車場には刈っても刈っても雑草が生えてきて人間の経済活動を侵食してきます。そんな中で過去50年に渡り雑草に対する特効薬であり続けた薬、それが「ラウンドアップ」です。広範な植物への効果、リーズナブルな価格、低い毒性、高い環境分解性、除草剤に求められる特性の全てをバランスよく備えています。オーストラリアの雑草専門家のパウルズは「この100年の発明の中でグリホサートの食料生産の安定化への貢献は、病気との闘いにおけるペニシリンの発明と同じくらいに重要だった」と言っています。
日本でもすでに40年以上販売されており、現在ではモンサント社から事業を移管した日産化学社が販売しています。農作物の作付前の雑草駆除、水田の畦畔(水田の水が漏れないように作られた盛土)、果樹園の雑草、庭や駐車場の手入れなどの幅広い範囲に使われています。
グリホサートの基本特許類は既に期限が切れているので本家本元の「ラウンドアップ」以外にも様々なジェネリック除草剤が販売されているのもラウンドアップの特徴です。

「人体への影響」の意味とは?

ラウンドアップの人体への影響の前に、そもそも「人体への影響」とは何かについて簡単に解説します。人体への影響には体内に取り込まれて、気分が悪くなる、薬傷を負う、死ぬ等のすぐに影響があるものを「急性毒性」、長期間暴露されることによって、肺を悪くする、遺伝子に影響がある、がんになる等の「慢性毒性」の2つがあります。

ラウンドアップの急性毒性

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植物を見事に枯らすラウンドアップ、これは人間にも毒として効くのではと思ってしまう方もいるかも知れません。
急性毒性の最も一般的な指標にLD50と言うものがあります。これは半数致死量と言い、化学物質をラット、モルモットなどの実験動物に投与した場合に、その実験動物の半数が試験期間内に死亡する用量のことで、投与した動物の50%が死亡する用量を体重当たりの量(mg/kg)としてあらわしたものになります。この数が小さければ小さいほど少量で死ぬこととなり、毒性が強いと言えます。
ラウンドアップの半数致死量は2000mg/kg以上1) と報告されております。数字だけでは分からないと思いますので他の代表的なLD50の値を紹介します2) 。

カフェイン 200mg/kg
アスピリン 400mg/kg
塩化マグネシウム(にがり) 2800~3700mg/kg
食塩 3000~3500mg/kg
砂糖 15000~36000mg/kg

以上のことからラウンドアップの急性毒性は「高くない」と言えます。そもそも植物と動物では体の構造や機構が大きく異なりますので、植物に効果的な毒だからと言って人間に害があると言うのは科学的ではないと思います。
また、殺菌剤や殺虫剤と異なり、除草剤は作物自体を枯らす効果を持つので種まき前や田植え直後でしか撒きません(殺菌剤や殺虫剤は収穫直前に散布することもあります)。このため、ラウンドアップは通常は収穫する頃には雨による流出や自然による分解で残留農薬としては無いか、ごく微量となっております。急性毒性が低いだけでなく暴露量も多くはありません。

ラウンドアップの慢性毒性

ラウンドアップは化学物質ですので、長期的に暴露することで何か身体に害があるのではと思うかも知れません。慢性毒性も急性毒性同様にラットやモルモットに所定の方法で投与することで反応を見ております。また、体内でどのくらいのスピードでどのように代謝されているかも調べられております。試験結果を詳しく書くと長くなるので割愛しますが、日本の場合は内閣府食品安全委員会(2016年7月)が科学的なデータを基に「グリホサートは神経毒性、発がん性、繁殖能にたいする影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった」と報告しており、事実上これが公式の見解となっております。欧州や米国の多くの公的機関が多くの科学的データを基に専門家が判断してグリホサートの慢性毒性を否定しております。
ラウンドアップは発売されてから50年経っている訳ですから、もし仮に人体に慢性毒性があるなら我々消費者より多量のラウンドアップを扱っている人、すなわち農薬会社で製造に携わる人、農薬を散布している人などにがんをはじめとした慢性疾患が現れても不思議ではありません。しかし、このような報告はあってもラウンドアップとの因果関係が科学的に証明されたものはありません。ラウンドアップに慢性毒性はない、あるいはあっても消費者として暴露する量であれば問題ないと言うことが推定されます。

ラウンドアップと米国訴訟

一方で、訴訟大国の米国では一般のラウンドアップ使用者によるバイエル社への健康被害の訴訟が多くあり、その中のいくつかではラウンドアップを健康被害と断定してバイエル社に損害賠償を命じたものがあります。しかし、これは原告が科学的にラウンドアップと病気との因果関係を証明したことを意味せず、金銭目的の弁護士や医者と共に陪審員を感情的に説得したことの証明だと考えていいと思います。私個人としては裁判所がバイエル社に賠償を命じたことはラウンドアップの危険性の客観的事実にならないと考えております。
2021年6月バイエル社は最大109億ドル(日本円で1兆円以上!)を原告に支払うことで責任と不正行為を認めずに原告と和解しました3) 。バイエル社がモンサント社を買収した価格が7兆円であったことを考えるととてつもない金額です。バイエル社は不正や危険無かったが「不安定な状況」を終わらせるためとコメントしています。

ラウンドアップの環境への影響

ラウンドアップは農薬ですので人体への影響だけでなく環境への影響にも着目する必要があります。当然これらに関しても膨大なデータがあります。ラウンドアップは水生環境に影響があることが知られており、具体的には藻類を枯らしたりコイを殺す効果があるようです。しかし、ラウンドアップは温暖で太陽光がある環境であれば水中で30-50日で半減していくことも知られております4) 。つまり100日程度で分解して無害化します。確かに害はありますが、一定濃度以下になれば無害なので高い頻度で大量に散布されてない限りは大きな問題は起きません。
また、前述の通り藻やコイと人体は仕組みがちがうのでこれらに害があっても人体に影響がある訳ではありません。一方で環境保護の観点から河川や養殖地へ直接流入する可能性がある箇所では使わないように呼びかけられています。

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結論「ラウンドアップの人体への影響」は?

以上のことをまとめるとラウンドアップの化学物質として人体への影響は「想定しうる危険性(リスク)はほぼ無い」になります。
また、科学技術は全てリスクとリターンのバランスで採用されております。自動車は死亡事故が多いですが、食糧輸送やエネルギー輸送を考えると無ければ生活が成り立たないため使用を止めることができません。ラウンドアップについては前述の通り農薬界のペニシリンと称されるくらい食料生産への貢献が膨大であるのに対して、水生環境への影響は認められてはいるものの人体へのリスクがほぼ無いので世界中で大量に使用されております。SNSで拡散されているような世界中で規制が強まる動きも今の所は見られません。

ラウンドアップと遺伝子組換え作物

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ラウンドアップと安全の話をする上で避けて通れないのが遺伝子組換え作物です。遺伝子組み換えだけでいくつも記事が書けそうなので短く簡単に説明します。
品種改良とは生物を遺伝的に改変していくことです。人が農業を始めた時から品種改良は始まっております。最も古い手法には優良な遺伝子の掛け合わせや、突然変異の育種などがあります。産業革命以降に生物が遺伝子の情報を元に形作られていることが分かると積極的に遺伝子に働きかけるようになり、放射線照射や変異原性薬品使用などで突然変異を促進する方法が取られるようになりました。
近年では爆発的なバイオテクノロジーの進歩により広範な遺伝情報の改変が可能となっております。分かりやすく言うと他の作物や動物の遺伝情報のコピーアンドペーストができるようになっております。
このような最新のバイオテクノロジーを駆使して様々な夢の作物が作られています。病害虫抵抗性、ストレス耐性、高収穫、栄養強化などなどを人工的に付与した作物です。これらの遺伝子組み換え作物の1大ジャンルに除草剤耐性作物があります。除草剤耐性作物の種を撒いて除草剤を撒けば耐性作物だけが育つことができます。農家からすると雑草管理の手間が大幅に省けたり、収穫物に雑草が混入するリスクを減らせたりします。遺伝子組み換え作物の栽培面積の9割が除草剤耐性作物か除草剤耐性作物と他の形質を併せ持つ作物と言われております5) 。除草剤耐性作物の中でも最もメジャーな除草剤であるラウンドアップは耐性作物が多く作られており、これらの作物はラウンドアップレディーと呼ばれており遺伝子組換え作物市場で大きな地位をもっています。

ラウンドアップ耐性作物の長所

ラウンドアップ耐性作物は前述の通り雑草管理の手間と雑草混入のリスクを減らすメリットがあるのですが、他に土壌流出を防ぐことができるという地球環境に非常に良い点があります。それはラウンドアップ耐性作物とラウンドアップを用いると農地を耕さないで済む不耕起農法というものが容易に使えます。
通常の農業では表土を柔らかくしたり雑草を除去したりすることを目的に耕す(耕起)ということが行われます。しかし、この耕して土を柔らかくする行為は土壌の流出を招きます。柔らかい土は雨で簡単に河川に流出するからです。日本のような雨が多くて温暖な気候では植物はすぐに腐り腐植となって土壌の再生に貢献しますが、世界では寒冷や湿地で簡単には途上が再生しない土地が多いです。このような土地では、何千年もかけて作られた土壌のみが存在し、農業により短期間で流出した場合は砂漠化したり短期間では元に戻らないという問題があります。また、流出した土壌の腐植はどこかで二酸化炭素となって大気に放出されます。この土壌の流出を防ぎ、土地の有機物を増加させて二酸化炭素を吸収させる農法として注目されているのが不耕起農法です。当然、我々は何千年も土を耕してきたので、耕さない不耕起農法にはいくつかのデメリットがあります。その最大である雑草問題をラウンドアップ耐性作物とラウンドアップの組み合わせが解決しています。このため、不耕起農法も遺伝子組換え作物も栽培面積は増加しております。

ラウンドアップ耐性作物の問題点

遺伝子組換えラウンドアップ耐性作物の問題点はいくつかありますが主に以下の3点があげられます。①遺伝子組換え作物を口にすることの問題点。②除草剤の使用量が増える。③耐性雑草の問題。
①の遺伝子組み換え作物を口にすることの問題に関しては安全性評価では現在までのところ大きなリスク(急性毒性、慢性毒性等)は報告されていません。たしかに遺伝子組換え自体は最近の手法で、これまでの突然変異の選抜とは次元の違う話ではありますが、今の所は食べて問題は起きていないようです。
②除草剤の使用量が増える、について解説します。通常除草剤は雑草だけでなく目的の作物も枯らせてしまうため、作物にかけることはありません。除草剤を使うのは種まきの前や田畑のまわりでだけです。筆者も残留農薬を見たことがありますが、殺菌剤殺虫剤は残留しますが、除草剤は食卓に上がる作物への残留はゼロかごく微量がほとんどです。一方、このラウンドアップ耐性作物とラウンドアップの組み合わせは栽培しているときに多量にラウンドアップを撒くので除草剤の使用量と残留する農薬量が増えます。しかし、ラウンドアップは前述の通り人体にほぼ無害と言っていいのでこの点は大きなリスクと言えないでしょう。
ラウンドアップ耐性作物の最大の問題点は③耐性雑草の問題です。ラウンドアップを大量に撒いていること、ラウンドアップ耐性の遺伝子を大量に自然界に放っている(雑草と交雑する)ことの両方がラウンドアップ耐性雑草(スーパーウィードと言います)を生んでいます。ラウンドアップを撒くと自然の中でラウンドアップに対して強い雑草のみが生き残ります。これを繰り返すとラウンドアップが全く効かない雑草が誕生します。また、ラウンドアップ耐性作物の花粉は雑草の花と交雑するなどすると耐性の遺伝子を持つ雑種が生まれます。既に米国ではラウンドアップ耐性を持つ雑草が報告されています。
このため、過去50年に渡り人類の雑草に対する特効薬であり続けてきたラウンドアップはいつか使えなくなる日が来るだろうと言われております。多くの専門家がラウンドアップが使えない地球での食糧生産は今日よりも困難を極めると推定しています。

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最期まで読んでいただきありがとうございました!

1) 職場のあんぜんサイト
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%B4%E6%AD%BB%E9%87%8F
3) https://media.bayer.com/baynews/baynews.nsf/id/Bayer-Provides-Update-on-Path-to-Closure-of-Roundup-Litigation
4) 水質汚濁に係る農薬登録保留基準の設定に関する資料「グリホサートアンモニウム塩、グリホサートイソプロピルアミン塩、グリホサートカリウム塩及びグリホサートナトリウム塩」
5) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97#%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%A0%BD%E5%9F%B9%E7%8A%B6%E6%B3%81



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