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ビジネスにおける人権保障に一番大切なのは、当事者の声に耳を傾けること | 弁護士 佐藤暁子さん

サステナビリティを継続的に学ぶラーニングコミュニティ「Sustainability College」。

月に2回の授業のうち、1回は多種多様なフィールドで活躍されているゲストをお招きした「講師回」、そして2回目は生徒同士の交流や知恵を交換し合う「ゼミ回」を行っています!

「#サスカレ授業参観」マガジンでは、講師回のダイジェストをお届け!講師による45分間の講義とそれを受けた生徒たちからとめどなくあふれる質問…。「Sustainability College」が普段どんなふうに学びを高めているのか、その様子をレポートしていきます!

現在、6期の受講生を募集しています!受講を希望する方は下記HPで詳細を確認いただき、エントリーをお願いします。締切は7月18日(月)23:59まで!

佐藤暁子(さとう あきこ)さん
弁護士。人権方針、人権デューディリジェンス、ステークホルダー・エンゲージメントのコーディネート、政策提言などを通じて、ビジネスと人権の普及・浸透に取り組む。
国連開発計画(UNDP)ビジネスと人権 リエゾンオフィサー

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2022年6月のサスカレの講師回へお越しいただいたのは、弁護士の佐藤暁子さん。「気候正義」という概念が重要視されるように、気候変動はとりわけ脆弱な立場の人々の人権侵害(食糧、資源へのアクセス、住居、教育などの侵害)を招いています。佐藤さんは主に、企業が商品やサービスを作り消費者まで届ける際のサプライチェーン全体の中で起こる人権侵害を減らすことにフォーカスし、さまざまな角度からアプローチをおこなっています。

今回の講義のキーワードは「人権デューディリジェンス」。「人権デューディリジェンス」とは、企業が従業員や取引先、地域住民なども含めたあらゆるステークホルダーに対する人権リスクを分析・評価し、適切な対策を策定・実行するプロセスのことをいいます。一回すれば終わりではなく、日常的な経営判断に人権の視点を取り入れ、継続的に取り組むことが求められています。

適切な人権評価のあり方や注目を浴びる大手企業のみならず、中小企業やソーシャルセクターができることについて、質問が寄せられました!!

Q.1 サプライチェーン全体で人権リスクを把握する重要性は、サプライチェーン全体でCO2排出量を見る時の視点ととても似ているなと感じました。CO2排出量はまだ数字で評価しやすいと思うのですが、「人権侵害が多い少ない」というのは数値化できるものなのでしょうか?

サプライチェーン全体で見る人権リスク。この例にとどまらず、さまざまなフェーズで評価する必要があります

法律としては、自分達のサプライチェーンの中で「現代奴隷がいないかどうか開示してください」という基準はあるものの、一つひとつの小さな工場にどういったリスクがあるかまでは見れていないのが現状です。一定の項目はあるものの、どういうふうに開示するかは企業のクリエイティビティに委ねられているところがありますね。

例えばNIKEは、自社のサプライチェーンにどんな人が関わっているかマッピングしています。女性の労働者や移民労働者の割合、労働者の平均年齢などを示したものです。ユニクロもサプライヤーリストを公開しています。このようにトレーサビリティ(透明性)を高めることは、説明責任を持つことにつながるので非常に重要です。

昔、カンボジアの工場で服を作っている方にお話を聞いたことがあるのですが、自分達がどこのブランドの服を作っているのか知らないとおっしゃっていました。自分達がどのブランドの何を作っているのかわからないままだと、何か問題が生じたときに、どの企業に責任をとってもらうべきなのかがわからない。もし仮にNGOや労働組合から、とある工場が指摘されたときに、「ここは私たちのサプライヤーだから自分達にも責任があるな」と、問題をみんなで認識できるように、サプライヤーリストの開示はとても重要な役割を果たしています。

ただ、日本の場合、間に商社が入ることでトレーサビリティの開示が進みづらいということが指摘されることがあります。これは大きな課題ではありますが、つまり、商社さえ協力的かつ積極的であれば一気に取り組みが進むというポジティブな可能性を秘めていると思っています。

Q.2 大手企業は労働組合やNGOからの圧力によって、人権リスクに取り組まなければならない場合が多いと思うのですが、中小企業に関してはいかがでしょうか?

大手企業へのプレッシャーが最終的にどこに向かうかというと、取引先の中小企業であることがほとんどです。大手企業は財政的にもリソース的にも体力があるので、ある程度対応しても存続できる可能性が高い。しかし、中小企業はそう簡単ではありません。「人権リスクを開示するように」と取引先から言われても、経営リスクの観点から腰が重くなることも多いと思います。

一方で、小さな会社だからこそできることもたくさんあると思います。大企業はとにかく部署の縦割りが激しい。人権の分野を誰が担うのか、例えば資源を調達する部署がやるのか、人事、総務部がやるのか、サステナビリティ部署がやるのか。誰が何をやるか決めるだけでも1〜2年かかってしまうこともあると思います。

しかし、中小企業であれば、代表の一声で一気に舵を切れることもありますよね。中小企業の経営者は、地域の繋がりも大きく人材不足も深刻にとらえています。ダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいかないと、経営が縮小してしまう危機感を強く感じているからこそ、スピード感を持って取り組めるのではないかと思っています。

Q.3 ソーシャルセクターができることに関してはいかがでしょうか?

ソーシャルセクターといってもさまざまだと思いますが、やっていることの意義が強い分、労働に関する問題が隠されてしまいがちだと思っています。労働者としての権利が保障されていなかったり、組織に多様性がなかったり。私もソーシャルセクターの一員として反省することが多いです。人権に関する研修など、大企業だからできる取り組みも多いはずなので、そういった大手とどう協力して人権意識を底上げできるか。ソーシャルセクターからも実践例が上がってくるといいですよね。

また、ソーシャルセクターに限らずですが、人権は「しちゃいけないことのチェックリスト」ではなくて、「自分が労働者としてどんな権利が保障されているかのチェックリスト」が必要だと思っています。知らなければ、自分や他者の人権の守り方がわからないのは当然です。本来は小さな頃から人権教育がもっとおこなわれるべきだとは思うのですが、企業研修でもこういった研修が必要だと思っています。

Q.4 人権デューディリジェンスの評価の信憑性について、どのようにとらえていますか?

人権デューディリジェンスの実効性を測るために最も重要な指標は「ステークホルダーの声が入っているか」です。個人の関係でもそうですが、相手が何を思い、どんな不安を抱えているかは聞いてみないことにはわかりません。

定期的におこなわれる企業監査は、正直いくらでも抜け道があるし、果たして本当に意味があるのだろうかと。直接的に労働者や地域住民に話を聞かないと、問題が把握できているとは言えません。人権分野では「ステークホルダーエンゲージメント」が重要視されていて、労働組合やマイノリティの活動をされているNGOと直接対話をしながら、できていること・できていなことを当事者からフィードバックしてもらうことが大切です。

だからこそ、経営層にも多様性が必要なんです。多様な視点を兼ね揃えて初めて問題をちゃんと把握できると思っています。

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「Sustainability College」の講師回では、次回のゼミ回に向けてお題を用意しています。今回は、こちら!ぜひこの記事を読んでくださったあなたも、考えてみてくださいね!

「Sustainability College」では6期生の募集を開始しました!

現在約80名が在籍する「サスカレ」では新メンバーを募集しています。〆切は7月18日(月)23:59まで!(※6期生は、8月の講義回からの参加となります。)

入学後は、過去のゲスト講義回の動画もすべてアーカイブ視聴が可能です。
今回のnoteで紹介した佐藤暁子さんの回も視聴できます!気になる方はサスカレのHPをご覧の上、奮ってご応募ください!!

生徒からの感想まとめ from #サスカレ

【おまけ】今月のサスカレニュース

サスカレの受講生や学級委員長の最近の取り組みなど、ちょっとしたニュースを毎月お届け!

・7月12日(火)13:30〜FERMENSTATION 酒井さんに聞く「B Corp 企業のつくり方」|サスカレ特別編

・7/6(水)21:00~22:00 サスカレtwitterスペース開催!テーマは「サステナ最前線、実践者の悩みとホットトピック」
時間になったらサスカレのtwitterアカウントにお集まりください!

・サステナブルツーリズムに関する情報交換を行うFBグループ by サスタビ

執筆:佐藤 伶

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