~現場経験者として~グラスルーツカテゴリーで実現してほしい『選手・チーム・試合・大会情報の一元化』

はじめに

これまでに2種・3種カテゴリーの指導者、1種(社会人)カテゴリーのスタッフ(分析・広報等)、カテゴリー問わず審判を経験した立場として、試合や大会を運営することの地味さと大変さ、そしてその多くが関わる人々の善意によって成り立っている現状を見るに、自分なりの視点でシステムや技術が寄与できることはないか考え、構想したモデルについて記します。

普段からトップリーグに馴染んでいて、いわゆる「#コミュサカ」と呼ばれるカテゴリーにあまり触れる機会のない方々にとって「アマチュアってそんなこともできてないの?」と思われるかもしれませんが、一人の現場経験者として感じてきたことをできるだけまっすぐに書き連ねるつもりなので、しばしお付き合い頂ければ嬉しく思います。

今回構想したモデル

はじめに今回考えたモデルのイメージを紹介します。社会人リーグや育成年代の大会の運営をイメージしてもらえれば幸いです。

このモデルにより、チーム・選手情報と審判情報、試合・大会情報をシームレスに連携することで、登録や記録に関わる各種業務の効率化とミス防止、さらにその情報を対外的に開示することでグラスルーツカテゴリーの露出度向上を実現してほしい、と考えています。

現状と問題意識

通常、日本サッカー協会及び各都道府県協会の管轄で行われる公式戦は、あらかじめJFAのKICKOFFシステムに登録されたチームと選手が所定の手続きを経て大会へ参加する権利を得ることになります。KICKOFFシステムにはチーム情報とそこに紐づく登録選手の情報をまとめて登録することができ、試合前の確認では選手証(一覧をPDFで出力したもの)をチームが持参して審判や大会関係者が選手登録の有無を確認します。

また、審判の割当についてもKICKOFFシステム経由で審判宛に打診が届き、これに諾否を回答することで当該試合の割当が確定します。

ただし、少なくともグラスルーツのカテゴリーにおいてはKICKOFFシステムに大会・試合の情報が登録されることはなく、結果として上述のチーム・選手情報や割当審判情報が紐づいていない、というのが現状です。今回のモデルを考えるきっかけの一つに「選手登録ミスによるトラブルをなくしたい」という想いがあるのですが、自分が1種のグラスルーツカテゴリーに関わっていた2018年、選手登録ミスや交代手続きの不備により試合結果が無効となったり当該チームが処分を受けたり、というケースが散見されました。せっかくデジタルで登録されている情報なのに、連携がなされておらず運用の仕組みはアナログ依存というのは、決して最適化された状態とは言えないと考えます。

では大会・試合の情報はどこにあるのかというと、主催協会のホームページに記載されています。あくまでホームページ上の情報開示なので、データ連携を前提とした構造ではありませんし、またその更新頻度や内容は規則的な運用を前提としたものはごく一部です(手弁当や無報酬で頑張っている現場の方々には申し訳ないですが)。JFAのホームページに直接記載される全国クラスの大会はさておき、各都道府県協会毎の情報開示運用についてはピンキリというのが実情です。

クローズドでローカルな大会ならまだしも、多くの大会フォーマットはJFAを頂点としたピラミッド構造のもとに成り立っており、各カテゴリーでは毎年秋から冬にかけて話題になる昇降格等の制度も存在します。ファン目線では順位決定の仕組みや昇降格のルール、審判目線では大会要項ぐらい情報開示してほしいと常々思っていました。

モデルの説明

今回構想したモデルは、事前に登録しうる各種の情報を連携させることで効率化を図り、かつ情報開示にも繋げてしまおう、という発想がベースです。主に年間を通じて行われるリーグ戦を前提に、モデルの内容を詳述します。

(1) 試合前日まで

チーム・選手DB(現行のKICKOFFシステムを想定)に登録される情報と、大会・試合DB(新設)を連携させます。チーム関係者は大会要項に従って選手をチームに登録し、当該大会・試合への参加資格を有する選手の情報を大会・試合DBへと連携します。加えて後述しますが、この選手の情報には前節までに受けた出場停止処分が記録され、登録のみならず試合への参加可否についても連携させる仕組みとします。

(2) 試合直前

通常試合前は大会関係者、審判、両チーム代表者がMCMを実施し、この時にメンバー表を提出、場合によっては選手証との照合による登録確認を行います。この時、関係者全員がスマートフォンなどの電子デバイスをもとに参照し、登録や出場停止の情報があらかじめセットされた状態で認識合わせをします。

前述した登録ミスに起因する問題は、デジタルで登録されている情報をアナログで提出させることで、参照時にトレースができなくなることに起因します。すべて電子的な仕組みのもとで参照してしまえば、そもそも間違いはおきないでしょうという発想です。

ちなみに情報の参照は現行KICKOFFシステムの使用に必要なJFA IDに、個別の立場(チーム関係者、大会関係者、審判等)を属性として付与した状態でログインすることを前提とします。この仕組みは現行登録制度の延長上で十分に実現可能な仕組みと考えます。

試合開始前に、提出されたメンバー表をもとに審判(主に副審)が各チームのメンバーチェックを行います。現在は紙とペン(とフラッグ)を持って行う用具チェックも、スマホ片手に進めるイメージです。

(3)試合中

試合で発生し、かつ記録が必要なイベントは大会・試合DBへ登録します。想定しているのは得点と懲戒罰(警告・退場)を最低限の項目とし、得点者とその時間、交代記録も反映できればより充実した情報になるでしょう。

現実問題として主審がスマホ片手にレフェリングするわけにもいかないので、この役割は四審や大会関係者が代行することになると思われます。ただし個人的なアイディアとして、レフェリーの記録用デバイスとしてスマホ使用が認められる未来もありではないかと考えます。警告を提示する時には画面いっぱいに黄色く発色したデバイスを提示し、その場で電子登録するイメージです。実現すれば昨今話題になっているVARのOn Field Reviewも、メインスタンドまで戻るのではなくその場でスマホチェックなんてこともあり得るかもしれません。追加的な処分の参考資料として、小競り合いやトラブルの時にスマホで現場を録画しておく、というのはさすがにやりすぎでしょうか?

(4)試合直後

試合が終わったら記録された情報のレビューを関係者で集まって行い、審判・チーム関係者が承認して試合記録を確定させます。試合直前と同じように、各々の属性でログインした状態で結果を承認することで、現行の署名に代わる機能を果たします。

また、退場者(2枚目の警告を除く)が発生した場合や報告事項がある場合、審判は重要事項報告書を主催協会宛に送る必要があり、迅速性が求められるわりにこれが結構面倒です。これもその場でスマホに打ち込んですぐに報告すれば、いわゆる「残業時間」も削減できるはずです。余談ながら、審判員の開幕前研修では「重要報告書をきちんと書いてください」という通達が毎年のように届くのですが、報告処理負担の軽減と事象の明確な明記を目的に、例えば退場については文章フォーマットを使用できるようにするのも良いでしょう(いつ、フィールドのどこで、誰が(相手競技者の誰に対して)、何をしたことで競技規則12条の何に抵触したと判断して、退場処分とした、など)。

登録された試合結果は、関係者の承認を以て大会・試合DBにおいて確定し、同時にWEB等で公開されることが望ましいでしょう。試合結果をWEBに反映する仕組みはGoal Noteクラウドに代表されるソリューションが既に展開されており、わざわざ人づてに得た情報をHTMLで打ち込むよりよほどスムーズです。このあたりの仕組みもシームレスにできれば、情報開示の迅速性向上と業務処理負担軽減を実現できます。特にグラスルーツカテゴリーにおいては情報開示の基盤が弱く、ここを強化できれば露出度の向上とともにファンの拡大、スポンサーの募集に向けた施策も打ちやすくなるのでは、と考えています。

(5) 翌日以降

懲戒罰にともなう出場停止の処分は、概ね翌日以降に規律委員会に相当する部門で協議され、後追いで決定します。この情報を大会関係者が登録し、チーム・選手DBに出場停止の対象となる試合情報を付与することで、次節の(1)のフェーズに戻るときに最新の情報が反映されます。

おわりに

以上が今回構想したモデルの説明になります。もしかすると関係者の間では既にこうした議論は進んでおり、ロードマップ上に実現に向けた計画は既に描かれているのかもしれませんが、当事者としてかかわった期間中にその恩恵を受けられていない立場として、好き放題構想してみました。

グラスルーツカテゴリーは注目される機会も多いとは言えませんが、トップカテゴリーに所属する選手が必ず通ってきた道であり、すそ野の広い日本サッカー界を支える大切な存在です。そしてその運営は非常に地味で泥臭く、関わる人々の善意と熱意で成り立っているといっても過言ではないでしょう。この領域に関わる方々が技術やシステムの恩恵を受けられることを願ってやみません。

以上

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