見出し画像

こんな夢を見た。

わたしはひとを殺めた。言い逃れようのない罪だ。贖わなければならない、ゆるされてはいけない。そんなとき、何も知らない友人が、台風のようにわたしを旅に連れ出した。お前といると気を遣わなくてよいから具合がいいという。思いがけずわたしは、自ら逃避行へと歩き始めてしまった。

わたしは身を隠した。笑いながら旅を続け、行く先々で罪に罪を重ね、追手には目くらましをばらまいて逃げまどった。ふとした物陰でやつらはわたしを引っ捕らえんと待ちかまえていた。それでもわたしは、口唇をふるわせながら狡猾に網の目をくぐり抜けて、気づけば何かからは逃げおおせてしまった。


私が見たのはこんな夢だ。近ごろでは思い出せないほどの中途覚醒を繰り返し、そのたびに臓腑を握りしめられたような圧迫感を覚えた。呼吸は浅く、目覚めようにもまた夢のなかへ引きずりこまれては逃げ続けた。

にじむ汗を拭きながら頓服薬を噛み砕き、落ち着きが戻るのをまだかまだかと這いずっていた。気づけば私は両の手を組み、あるいは合わせていた。イエスでもブッダでもなく、勝手に貶めて勝手に祀り上げた私の神に、ひたすら呼びかけ祈った。

突拍子もない夢のなかに練りこまれた、隠し味にもならないほど微量で劇的な真実。今このタイミングか、なるほどたしかにそうかもしれない。私は会いたい人に会いに行かなければならない。

いつでも会える人なんて、皮肉にもこの世にはひとりもいない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?