【小説】無抵抗に殺されていく人達(1811文字)
「おいおいおい、なんで誰も抵抗しないんだ…」
「ヒャッハー!」
バスの乗客はものを盗まれても抵抗せず、殺される時も抵抗することはなかった。自分だけがおかしいのだろうか?
こんな人間なんてみんなで抵抗すれば生き残れるはずなのに。
「あっ、まさか…」
自分は思った。この人達は何か抵抗出来ない理由があったのではないかと。
「こ、子どもだけは助けてくれぇー![
「うーん、助けるかどうかは保証出来ねぇーなー!」
「ヒャッハー!」
「そ、そんなー」
「でもまずはお前から! あばよっ!」
「うわっー!」
首を勢いよくかっ切った。ものすごくプシューっと血が出ていた。どうしてこんなひどいことを平然と出来るのか理解が出来ない。
まるでもう何もかも諦めてしまっているようだ。でもみんな顔は怯えていた。
「さぁ、次はガキかなー? ヒャッハー!」
自分の番がもうすぐ来るかもとオドオドしていた。しかし、ここでみんなプルプルしていることに気付く。
もしかして、みんな動かないのではなく動けないのではなかろうか? しかし自分は手をグーパーして動ける。
もうこれは絶対にそうだ、このバスの乗客で今動けるのは恐らく自分だけだ。なぜか分からないけど、生きるためにヤツを殺るしかない。
「うわぁーん! うわぁーん!」
「うるせぇーガキだな! ヒャッハー! やってやるよ!」
ここしかない。もうこれ以上犠牲者を出す訳にはいかない。
「ふんっ!」
「ぐはっ!」
スマホを殺人鬼の顔面に投げつけた。
「いってぇー! な、なにが起きてる! 誰だ! なんで動いてる!」
ヤツは面を食らったようだ。やっぱりみんな動けないようになっていた。
「よくもみんなを殺したなー!」
「ひぃぃぃぃ!」
とにかく勢いで押し切る。向こうも恐怖心を覚えたようだ。そして馬乗りになることに成功してマウントポジションを取った。
「クソ野郎が! お前なんか生きる価値ねぇー!」
「た、助けてぇー!」
ひたすらにぶん殴る。ぐちゃぐちゃっという音がバスの中に響き渡る。
「バカ野郎! 死んだ人間はもう帰って来ないんだよ! 人殺しのお前は地獄へ行けー!」
「やっやだー! やだー! 助けてぇー!」
そのままひたすらに殴り続ける。いつしかヒューヒューという呼吸音しか聞こえなくなっていた。まさに虫の息だ。
「あっ、動けるよ!」
「助かったんだな!」
「やったー!」
どうやら乗客のみんなは動けるようになって良かった。
「いやー、良かったですよ。みなさん動けるようになって!」
「キャー! 人殺しー! 近付かないで!」
「えっ…?」
「お前人を殴り殺しておいてよく平気でそんなことを言えるな!」
「ま、待ってよ…」
自分はみんなを助けてヒーローになれるかと思ったら、みんなから見てただの人殺しに映っているらしい。
そして手をまじまじと見て赤く染まっているのを確認する。
「動けなくなってたのもお前の仕業か!」
「えっ、どうして?」
「そうだ! お前だけ動けるなんておかしいもんな!」
自分は良かれと思って助けたのに悪者になっていた。もう2度と人なんて助けない。そして沸々と殺意が沸いてきた。
「お前らふざけんな! 俺がせっかく助けてやったのに! 今から全員俺の手でやってやるよー!」
「ひぃぃぃぃ!」
みんな恐怖で固まってしまった。これだ、動けない理由は恐怖か。動けるのは恐怖を押し退けた勇気ある者だけだ。
「1人じゃ何も出来ないゴミどもが! 束になった途端よってたかって俺のことを人殺しとか言いやがって! お前ら本当に最低だ!」
「す、すまない! 助けてくれ!」
もうこいつらは信用出来ない。
「死にたくなきゃ動けよ。今からバスに火をまく。動けるなら余裕で逃げられるはずさ」
「あーあ! やめてくれぇー! 動けないんだぁー!」
外に出て漏れていたガソリンから火をつける。その瞬間、自分は一瞬正気を取り戻してしまった。あぁ、もう自分は戻れないところまど来てしまった…。
誰か1人でも動いて自分を止めてくれる人を待っていたのかもしれない。ただ良くやったと褒めてくれたらそれだけで良かったんだ。
「さようなら」
「ああああああああ!!!!!」
バスが紅蓮の炎で焼きつくされた。そしてもう引き返せない。こうなったらとことん汚い人間共を消してやるという風に思うようになっていた。
そして1ヶ月後…
「ヒャッハー!」
「キャー!」
この時のバスの乗客は殺人鬼に無抵抗に殺されていったという。
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