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【小説】息子が骨折を肩代わり

 俺たちは仲良し家族だ。なのでなんでもぴったりにお揃いにしないと気が済まない。

「母さん! 息子! 俺たちの握力を50に合わせるんだ! 握力計はもったか?」
「うん!」
「いくぞ!」
「えい!」
「んにぃ!」

 全員でぴったり握力50だ!

「すっごい! 俺たち本物の家族じゃないか!」
「そうね! 私でも握力50出るなんて!」
「んにぃ…」

 なんか息子だけ元気がなさそうであった。そんなことは気にも止めずに次の家族仲良し儀式を考え始める。

「さてと、次の週末は家族みんなで何をやろうか。そういえば最近はサッカーにハマってるから3人でオーバーヘッドキックでもしてみようかな! よし、これでもっと本物の家族に近付けるぞ!」

 そして週末になり、公園に行って父親と母親と息子でサッカーボールを持ってオーバーヘッドをしようとする。

「俺たちオーバーヘッドキックがぴったりなら本物の家族だ」
「私にオーバーヘッド出来るかしら?」
「出来るかどうかじゃない! やるんだよ!」
「そ、そうね! 頑張るわ!」
「んにぃ…」 
「それじゃあ、みんなでオーバーヘッドをやって本物の家族になるんだ! いくぞ!」
「どりゃー!」
「んにぃ…!」

 みんなでオーバーヘッドキックを1つのボールでやる。上手く蹴りを合わせて成功した。

「よし、俺たち本物の家族だ! 」
「あなた! 着地どうすんのよ!」
「そんなもん気合いでなんとかするんだ! 本物の家族なら出来るはずさ!」

ぐちゃぐちゃ
「痛てぇ…! 大丈夫か!」
「いたた…!」
「………」

 どうやら父親と母親は無事のようだ。しかし、1人だけ無事では済まなかったやつがいた。

「おい、息子よどうした!」
「キャー! 息子ちゃんがー!」

 真ん中でオーバーヘッドキックをしていた息子がぐったりしている。

「おいしっかりしろ! 俺の息子なら気合いで立ち上がれ!」
「そうよ! 私たち家族でしょ!」
「……………」

 そのまま病院へと運ばれた。そして診断の結果が出た。

「お子さん、ものすごいひどいケガをしてましたね。まず、2ヵ所複雑骨折してます」
「息子がそんなやわな訳あるかー! 俺の息子だぞー!」
「いいから話を聞きなさい。そして手の方の筋肉もズタズタだ。まるでリミッターを外して筋肉を使ったかのようだ。そんなことが全身の至るところに見受けられます」
「そ、そんな」
「一体何をしたらこんなことになるのか。生きているのがもはや奇跡です」
「む、息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」

 骨が2回分折れて最後ぐったりしていた。なぜなら母親役と父親役の骨折を肩代わりしたからだ。そして前回の握力も父親と母親が握力20しかないので自分がリミッターを外して2人に握力30ずつ分けていた。
 息子の握力は出るはずのない110キロを出していたのだ。こうして無理をして全身の骨や筋肉はズタズタになっていた。
 これが本物の家族を目指した結果の代償だ。

「そ、そうか…。俺と母さんが息子の足を引っ張っていたのか…」
「違うわ! 足を引っ張っているのはあなたよ! 家族の形にこだわって! 今まで黙ってたけどもう限界よ! 息子もぐったりして以来ずっと病院のベッドの上で動けないのよ!」
「くっ…。息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
「おーい! うるせぇーぞ!」

 隣の家の人から壁ドンされた。

「あっ、すいません」
「情けない父さんね…。息子も泣いてるわよきっと…」

 今日は2人寂しく食卓を囲っていた。

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