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【小説】意地っ張り2人の女の子の最期(1061文字)

「あんたねぇ、いっつもいっつも意地張ってるんじゃないわよ。こんな時ぐらい私の言うことを聞きなさいよ!」
「絶対に嫌だ。あんたの言うことを聞くぐらいなら死んだ方がマシよ!」
「あんたねぇ、本当に死ぬわよ! こんな時ぐらい私の言うことを聞きなさいよ!」

 ここに2人の女の子がいた。この2人はいつもいがみあっていて仲が良いのか悪いのかよく分からない。
 そして今この2人は餓死寸前の状態であった。2人の女の子の真ん中に食べ物が1つ置いてあるのみ。
 2人で争うのかと思いきや互いに食べ物に手を付けずにいた。それは互いに相手を友達だと思っていて相手に生きて欲しいからという想いに他ならないのである。

「あんた、我慢しなくて良いわよ。食べちゃいなさいよ」
「ダメよ、本当に死ぬ気なの!」
「は? 死ぬってなによ。私はこんなの食べなくても生きていられるの!」
「人間が食べ物を食べないで生きるなんて不可能よ!」

 どちらもなかなか真ん中のご飯を食べないので両方ともに走馬灯みたいなのを見始めていた。
 そして幽霊になりかけてる。二人とも机に突っ伏してる状態で。

「あっ、やばいわ。私、あんたが2人に見えてきた」
「だから言ったでしょ。早く食べれば良いのにって。ちなみに私もあんたのことが二重に見えるわよ」

 2人ともこんなになっても遠慮をしているのだ。相手を助けたいという慈愛の想いだからだろう。

「私、今だから言うわ。あんたのこととっても好きよ。世界で一番誰よりも…」
「こんな時になによ。本当にバカなんだから! なんでこんな時に言うのよ…」
「こんな時だからこそ言わなくちゃって思ったのよ…」
「実は私もあんたのこと好きよ…。世界の誰よりも…。なんでこんな時じゃないと素直になれないんだろう…」
「私ね、あんたのいない世界とか考えられないよ。だから私には食べることなんて絶対に出来ない…」
「そう、奇遇ね…。私もあんたのいない世界なんて退屈で死んじゃうに決まってるわ…」
「あっ、視界がものすごい霞んできた。ねぇ、どこにいるの…。いなくならないでよ…。1人は怖いよ…」
「私はここにいるよ…」

 2人で手を繋いだ。今感じるのはこの手を伝った温もりだけだった。

「もう本当にいよいよダメみたい…。もう何にも見えなくなっちゃった…」
「大丈夫よ、私とあんたならどこに行ってもきっと乗り越えていけるもの…。先の見えない暗闇の中だろうとね…」
「そうね…。私とあんたは2人で最強なんだから…」

 結局、最後までどちらとも食べ物に手をつけようとはしなかった。そのまま2人は手を繋いで餓死した。

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