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【小説】スーパー半額惣菜・弁当争奪戦(1220文字)

 夜の街灯に群がる虫たちのごとく、今日も今日とて半額惣菜と半額弁当を奪い合うバトルが始まる。

「今日もすげーな。シールを貼る前からみんな待ち伏せてるもんなぁ…」
「まったくですよ。半額になるのを待つぐらい皆さんのお金には余裕がないんですかね?」
「まあそうだろうな。今は何かと景気が良くないからなあ。この半額の惣菜と弁当が生きる拠り所になるならそれでいいじゃないか?」
「そうですね」

 私たちは着々と期限の近い弁当や惣菜に半額シールを貼っていく。そして戦いの火蓋は突然切って下ろされた。
 みんな一斉に半額シールが貼られた弁当や惣菜に飛びつく。

「おいてめえこら!それよこせ一!」
「ぐへーやられたー!」
「みなさん落ち着いてください!」
 みんな半額品を取るために殴る蹴ると何でもありだ。毎回スーパーの半額品の争奪戦で怪我人のだ。
 もう早くも何人か地面に倒れている。

「私はもう早く食べないと死んでしまいます…ご飯をご飯を下さい…グハッ」
「しょ、しょうがねえな…」
 1人の男は血を吐きながら今にも死にそうだった。そしてもう1人の男はその男を見て可哀想に思ったのか、苦労して取った半額弁当を渡した。

「かかったな!バーカ!ケチャップだよ!」
「てめぇーきたねぇぞ!よくも俺を騙しやがったな!返せこの野郎!」
 ケチャップを吐いた男は無事に半額弁当を手に入れて颯爽と帰っていった。

 巧みな戦術により半額品をかっさらう者、知恵を振り絞って半額品の争奪戦を制する者、己の腕力のみで争奪戦を制す者と半額品の争奪戦は多種多様な人間がいる。

「おいおいおい、これすげえなぁ!まるでこの半額品の争奪戦は現代社会と何も変わっちゃいねえじゃねえか!」
「やはり、いついかなる時も力のある者が勝負を制するものなんだなぁ…」
 そう、競争というのはどこにいってもあるのだ。

「どこの店に行っても熾烈な競争争いはあるって聞くぜ」
「だな。こんな辺鄙なところにあるスーパーでさえ、半額シール貼っただけでもこんな殴る蹴る何でもありの争奪戦が起こるんだからなぁ」
 半額争奪戦は開始してから5分で幕を下ろしてしまった。1時間前からずっと店内をうろうろして半額シールを貼られるのを待つ人も中にはいた。
 それでも半額品を取れなかった者は大勢いるのだ

「長い間待って半額弁当屋半額惣菜を買えなかった人は少し可哀想ですね」
「本当なら廃棄の弁当はあげたいところだけどなぁ…でも、そうしてしまうと廃棄をもらうためだけに生きる人達が増えてしまうからやらないんだ」
「そうなんですね」
「そんなことをしていたら、誰も買わなくなるから儲からなくなりこの店の経営も出来なくなってしまう。心苦しいが廃棄品を渡すことは出来ない」

 今は食っていくのでさえ精一杯の時代ということなのだろう。我々もこんな厳しい時代の中でギリギリ経営をやっている。
 こんな自分もいつしか半額争奪戦に参加せざるを得なくなってしまうかもしれない。
 明日は我が身なのだ。

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