見出し画像

気配りのできる男、ピッコロさんの精神的な成長を振り返る

ドラゴンボールの名脇役といえばそう、ピッコロさんである。

元敵役が仲間になる展開は当時からけして珍しいものではなかったが、しかしそれにしても仲間になった後のピッコロさん、あまりにも出来た人間すぎるのだ。そこらの元悪役とは格が違ういい人さなのである。

今回はピッコロさんの気配り出来過ぎシーンを中心に活躍を振り返ってみたい。

天下一武道会編のピッコロさん

初登場は初代大魔王ピッコロが死の間際に生んだ卵から孵ったシーンである。

出典:ドラゴンボール完全版11巻

この時は悟飯が生まれる4年前にあたるため、年齢は悟飯と4歳しか違わない。初代ピッコロの記憶を受け継いでいるので精神年齢は差があるが、実年齢はお兄さん程度の差なのだ。

天下一武道会本戦1回戦、対クリリンのシーン。
戦う前はザコと侮り、罵倒しているが、

出典:ドラゴンボール完全版12巻

クリリンが実力者とわかった途端にこの態度である。

出典:ドラゴンボール完全版12巻

きちんと詫びを入れられるいいヤツだ。
そしてもう名前を覚えている。

出典:ドラゴンボール完全版12巻

戦った後はクリリンのことを認め、「たやすくは勝てない」と自分を戒める。

出典:ドラゴンボール完全版12巻

そして悟空との戦いでは、結果論ではあるものの、最後まで一般人を傷つけることはなかった。ピッコロさんはそこらの善人顔をした元悪役とは業の重さが違うのだ。

サイヤ人編のピッコロさん

次の話、ラディッツ襲来は5年後だ。

出典:ドラゴンボール完全版14巻

平和ということはつまり、5年間一度も破壊行動を起こさなかったということである。もうこの時点で世界征服をする気はゼロだろう。

ラディッツを倒し、悟飯との修行前のシーン。

出典:ドラゴンボール完全版14巻

「このオレのように」。中々意味深だ。
神様の悪の心の化身として分離した大魔王。その分身として生まれ、悪に染まることを宿命付けられたピッコロ。
しかし、その生き方を望んでいたわけではないことがここで示唆される。

戦いでは悟飯を襲ったサイバイマンを一瞬で片付ける。

出典:ドラゴンボール完全版15巻
出典:ドラゴンボール完全版15巻

なにげにピッコロ(先代大魔王除く)が殺生をするのはこの場面のみ。悪役時代も含めて人は誰も殺していないのだ。

そして、ナッパから悟飯をかばったシーンに続く。

出典:ドラゴンボール完全版15巻

あれだけ悟飯を戦力として期待し、臆病であることを諌めていたピッコロが、死に際にかけた言葉は「にげろ」である。

戦え、ではない、逃げろ。

ピッコロにとって悟飯は、自分の全てを犠牲にしてでも、ただ生きていてくれることだけを願うほどの存在だった。
人がその感情を抱く相手、それは我が子に他ならない。この時、ピッコロは本当の意味で悟飯の「父親」になっていたのだ。

出典:ドラゴンボール完全版15巻

「まともにしゃべってくれたのはお前だけだった」

悪の化身として生まれ、人々から避けられ、疎まれるのが寂しかった、それを涙ながらに吐露するピッコロ。
ピッコロは初めて他者に心を許し、自らの弱さを曝け出すことができた。

ピッコロは父親になることで愛情を知り、弱さを吐露できる強さを得たのだ。このことは後に悟空と対比されることになる。

ナメック星編のピッコロさん

ポルンガを呼び出した際に悟飯と会話をするシーン。

出典:ドラゴンボール完全版20巻

「生まれ故郷で仲間を殺したフリーザと戦いたい」
これまで自らの悪としての出自、アイデンティティに迷いを感じていたピッコロだが、ここで吹っ切れた。

自分にも故郷や仲間を大切に思う心がある。悪の化身ではない、皆と同じ心を持つ人間なのだ。
そのことを自分自身で受け入れることができた瞬間ではないだろうか。

そしてここからピッコロさんは急速に「気配りの人」に変貌していく。

悟飯たちと合流し、戦闘の前の一言。

出典:ドラゴンボール完全版20巻

デンデに避難を促す。ネイルと融合した影響もあるだろうが、戦いの場面でも子供を気遣える冷静さだ。周りが見えている。

エネルギー波をフリーザが跳ね返し、悟飯に直撃しそうになるシーンでは、

出典:ドラゴンボール完全版21巻

ボロボロの体でエネルギー弾を飛ばし、軌道を変えて悟飯を救う。悟飯を助けるのはもう3度目だ。
そして悟飯に優しい言葉をかけるピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版21巻

「強くなったな」「オレはうれしいぜ」。このような言葉を素直にかけられるまでに成長した。悟飯も成長したが、それを見守る保護者ピッコロもまた成長している。

最終形態フリーザと対峙した際の一言。

出典:ドラゴンボール完全版21巻

悔しさを滲ませながら力の差を正直に認め、謝罪する。
勝てないことではなく、助けられないことを謝罪するのがピッコロさんらしい。

悟空が元気玉を作っているシーン。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

悟空に加勢するために気をもらい受けるが、「自分たちのために残しておけ」とリスクヘッジをし、さらには「ぜったいに来るんじゃない」と念押し。やはり周りが見えている。

それでも彼らが加勢に入った場面ではこの表情。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

実に嬉しそうである。

元気玉の後、体力の付きた悟空を救い出したものピッコロだ。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

瀬戸際の場面でも悟空を助けに行ける冷静さ。
そしてフリーザを倒したと思われた場面では、優しい表情で悟飯の頭を撫でている。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

この場面にセリフの描写は無いが、よく頑張ったな、強くなったな、とねぎらいの声をかけていたことだろう。

すべてが終わり、地球に帰還した後のこの場面。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

デンデに優しく微笑むピッコロ。
フリーザ編のピッコロさんは表情が良い。自分自身のあり方が定まって、他者を思う気持ちを素直に表せるようになった。人間的な深みが出てきている。

人造人間編のピッコロさん

フリーザ襲来時、先に気配を消していたことをベジータに称賛されるピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版23巻

劇中でベジータが人を褒めるのはここくらいだ。このときは「あのナメック星人」呼びだが、この後からベジータはピッコロを名前で呼ぶようになる。

3年の修行を経て、出発のシーン。

出典:ドラゴンボール完全版23巻

チチにとってピッコロは悟飯をさらった憎い相手だったはずだが、「ピッコロさも気いつけてな!」と言われるほどに馴染んでいる。

人造人間19号、20号との戦い。

出典:ドラゴンボール完全版23巻
出典:ドラゴンボール完全版23巻

悟空を助けるためなら負け芝居もできるピッコロ。ベジータなら死んでもやらないだろう。

倒れた悟空を蹴り飛ばすベジータと、それを受け止めるピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版23巻

さりげないシーンだが、ベジータはピッコロを狙って蹴ったようにも見える。ピッコロへの信頼が伺える。

心臓病を発症した悟空を運ぶヤムチャへこのセリフ。

出典:ドラゴンボール完全版23巻

この状況で戦力外のヤムチャを誰が気遣えるだろうか。さすがの気配りの男である。格が違う。

19号、20号がトランクスの知る人造人間ではなかったことがわかったシーン。

出典:ドラゴンボール完全版24巻

さりげない一言だが、エネルギーを吸うかどうかは今後の戦い方に関わる大事な情報だ。漏らさず確認できるスキルは現代社会でも活躍できるだろう。

ベジータの心情を慮るピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版24巻

同じ元悪役として通じるものがあるからか、ピッコロはベジータの心情を代弁するシーンが多い。自分も戦士としてのプライドは失っていないのだ。

融合するために神様と対峙するピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版25巻
出典:ドラゴンボール完全版25巻

普段は合理的な発言をするピッコロだが、神様にはどうにも憎まれ口を叩いてしまう。このあたりの関係は妙にリアルである。ナメック星人も親(の分身)の前では素直じゃないのだ。

そして融合を果たした後のこの場面。

出典:ドラゴンボール完全版25巻

ミスターポポへにこやかに挨拶をして戦いに赴く。
さりげないシーンだが、神様の記憶を受け継ぎ、さらに違う次元へ成長したことがシンプルに感じられる名シーンだ。

そしてもう一つの名場面、セルゲーム。悟飯を戦わせようとする悟空の方針に意義を唱えるピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版27巻
出典:ドラゴンボール完全版27巻

3年も一緒に修行しており、悟飯の実力はよく知っていたはずだ。超サイヤ人になったとはいえ、セルと戦えるレベルではないというピッコロの見立ては客観的には妥当だ。(実際は異なっていたが)

そして今まで隠していた事実を告白する悟空。

出典:ドラゴンボール完全版27巻

悟空は悟飯の怒りに任せる以外の策を持っていなかった。
ピッコロは悟空を問い詰め、悟飯の気持ちを代弁する。

出典:ドラゴンボール完全版27巻
出典:ドラゴンボール完全版27巻
出典:ドラゴンボール完全版27巻

浮世離れした悟空は、良い意味でも悪い意味でも物事を大局的な物差しで測る人物だ。悟飯への愛情はあったが、「親」として心情に歩み寄るような発想はなく、悟飯の気持ちを想像しようとはしなかった。

唖然とする悟空。

出典:ドラゴンボール完全版27巻

「悟飯の怒りに頼るしかない」、それを本人にすら伝えずに抱え込んでしまっのは、一つは悟空の徹底した合理性によるもの、もう一つは悟空の弱さによるものだろう。悟空はセルに勝てないという弱みを誰にも吐露できなかった。
悟飯に寄り添い、弱さを吐露することで自身も成長したピッコロとは対照的である。

そして悟空は無自覚に、息子の命よりも「戦いを楽しむ」という自身の価値観を優先して考えていた。
かつて悟飯の親となり、自らの全てを捨ててでも悟飯が生きることを願ったピッコロは、本当の意味での親になりきれていなかった悟空に対し、さぞ憤りを感じたに違いない。

そしてピッコロに諭されることで、悟空は親の在り方と自らの過ちを自覚し、初めて「親」として責任を取ることになる。

出典:ドラゴンボール完全版28巻

この行動は以前のピッコロと同じである。戦いを望まぬ悟飯を戦力として鍛え上げ、戦場に送り出し、そして自らを犠牲にして責任を取った。奇しくもピッコロがかつて親として行ったことを悟空がなぞる形になった。

長年の盟友、悟空の死に肩を落とすピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版28巻
出典:ドラゴンボール完全版28巻

親友のクリリンと同じくらいショックを受けている。ピッコロもまた、悟空の親友なのだ。

セルとの決着後、ベジータに声をかけるピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版28巻
出典:ドラゴンボール完全版28巻

本気で手を貸す必要があるとは思っていなかったはずで、やはりプライドを砕かれたベジータが気になったのだろう。
ピッコロはフリーザ戦で涙したベジータの心の弱さも知っており、特に気になったのかもしれない。
ピッコロとベジータの信頼関係は意外と深い。ベジータはピッコロを一目置いており、ピッコロはベジータをいつも気にかけている。ピッコロはベジータの唯一の友人と言える存在なのかもしれない。

18号が意識を取り戻したシーン。

出典:ドラゴンボール完全版28巻

なにげにファインプレーである。この一言がなければクリリンに好意を持つことがあったかどうか。

出典:ドラゴンボール完全版28巻

わからなくっていいのよ。だって雌雄同体だから。

魔人ブウ編のピッコロさん

悟飯の変装を守るため、カメラを破壊するピッコロさん。

出典:ドラゴンボール完全版29巻
出典:ドラゴンボール完全版29巻

悟飯のことになると過保護になるピッコロさん。
しかし、(ごまかすためとはいえ)悟飯は恩を仇で返す。

出典:ドラゴンボール完全版29巻

親の心子知らずである。ピッコロは非常に耳が良い。たぶん聞こえていたはずだ。あとでちゃんと謝っとくように

ブウとの戦いの際、ベジータからトランクスたちを託されるピッコロ。

出典:ドラゴンボール完全版31巻

ベジータの心情を代弁する。

出典:ドラゴンボール完全版31巻

ベジータは信頼するピッコロに我が子を託し、ピッコロはベジータの決意を理解する。二人はけして馴れ合うことはないが、お互いを理解し、尊重しあっていることがわかるシーンだ。

ビーデルとサタンについて会話をするシーン。

出典:ドラゴンボール完全版32巻
出典:ドラゴンボール完全版32巻

ピッコロはこれまでサタンに対しては、「ちっ・・生きていたか」など辛辣だったが、ここでサタンの働きを認め、「誇り高い世界チャンピオン」と最大級の賛辞を送っている。
動機はどうであれ、と前置きした上で、結果論だと切り捨てることなくしっかり評価しており、論理的で状況把握と説明力に長けたピッコロさんの良さが出ている。

ブウとの戦いでは、

出典:ドラゴンボール完全版33巻
出典:ドラゴンボール完全版33巻

一瞬、本来の鳥山マンガに戻ったかのようなギャグ展開をそつなくこなすピッコロさん。「むむむむ・・・凄いがどこかくだらないぞ」

戦いが終わった後のラストシーン。

出典:ドラゴンボール完全版34巻

ミスター・ポポに抱きつくデンデと、それを優しく見守るピッコロさん。
孤独な悪の化身として始まったピッコロは、物語を通して自分と向き合い、自らの在り方を定め、仲間を、そして大切な家族を見つけることができたのである。

終わりに

いかがだっただろうか。気配りの男、ピッコロさんの人格者っぷりが伝わっていれば幸いである。

ピッコロはネイルや神様と融合したことで性格が変わったと思われがちだが、実はそうではなく、懐の深さは元からである。
劇中、融合は力を引き出すきっかけという説明がされているが、精神的な面でもピッコロの成長を引き出すきっかけになっていると言えるだろう。

ドラゴンボールは純粋な力で相手を上回っていく物語だが、キャラクターの心の動きもよく見ると細やかに描かれている。多くの説明はなくとも、精神的な成長に合わせて態度や表情が変わる様は丁寧に表現されており、キャラクターの「心の動き」を中心に物語を追ってみると、また違った発見があるかもしれない。

#ドラゴンボール
#ピッコロ
#私の推しキャラ


この記事が参加している募集

私の推しキャラ

今こそ読みたい神マンガ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?