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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #44.0

「なにしてんの、はやく」

僕は彼女の後を急いでついていった。

校舎を出ようかというその時に、今度はドレラを呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、キミオ君と同じ顔の男の子が楽器のケースを抱えて立っていた。おそらくミキオ君だ。どちらがどちらかわからないが、いや、さっき会ったキミオ君かそうじゃないかもわからないのだけれど、さっきとは違うシチュエーションで楽器を持っているという点からミキオ君だろうと判断しただけのことだ。そしておそらくそれは間違っていない。

「どうしたの、ミキオ」

「いや、キミオに話聞いたから、ちょっと」

「珍しいね、声掛けてくるなんて」

ミキオ君は会話をしながら僕のほうをちらちらと見た。キミオ君の時とは別の緊張が走る。

「は、はじめまして、姉がお世話に・・・」

あまりにボソボソ話すので、最後のほうは聞き取れなかった。以前会った時とは印象が違い、どっちが本当のミキオ君なのかわからなかった。

「は、はじめまして、えっと、ミキオ君?でいいんだよね」

「はい。あ、姉をよろしくおねがいします」

決して僕と目を合わせることなく、ドレラのいる方を見ながら話す。これは演技なのだろうか、いや、これが素のミキオ君なのかもしれない。

「何?なんの用もないのに呼び止めたの?」

「いや、挨拶しとくべきかなって」

「ミキオにしては良い心がけじゃない。これから軽音?」

「うん、そう」

「あ、だから楽器持ってるんだね。ギター?それ」

「そうです。軽音楽部に入ってます」

「音楽好きなんだ?」

「はい、好きです」

これまでで一番明瞭かつ大きな声で答えが帰ってきた。

「どんな音楽やってるの?」

以前イギーのことは知らないと言っていたけど、彼自身はどんな音楽をやっているのだろう、興味が湧いた。

「えっと、スピッツとかフジファブリックとか・・・」

てっきり外国のバンドが出てくるかと思ったが、僕も知っている日本のバンドが彼の口から聞こえた。ドレラが言っていた通り、双子を一緒くたにするのは良くない、全くその通りだ。

「いいね、僕も好きだよ、そのバンドたち」

「ほんとですか、いいですよね」

初めて僕の方を見て微笑んだ。心の底から喜んでいるようだった。

「今度聞かせて欲しいな」

「いや、そんな人に聞かせられるようなレベルじゃないんで」

照れくさそうにしているが満更でもなさそうだった。

「さぁ、お二人さん、挨拶は済んだかしら、そろそろ行こうと思うんだけど?」

「あ、ごめん、じゃあミキオ君、また」

「はい、話できてよかったです」

ドレラがバイバイと手を振ると、これまた照れくさそうに振り返して、校舎に消えていった。

二人の違いが少しずつわかってきた。キミオ君は自分から進んでコミニケーションを取ろうとしてくる。一方ミキオ君は、今回の姿が本当の彼ならば、クールというわけでも、人見知りというわけでもないのだけれど、進んでコミュニケーションを取ろうとはしないタイプなのだろう。おそらく質問されない限り、口を開こうとはしない。けれど今の反応を見ると、ぶっきらぼうというよりは単純に照れ屋なのかもしれない。

「なんだかよくわからないけど、偶然にも二人と知り合えた」

「うん、やっぱり双子だから、なにかあるのかな」

「あれ、そういうのは駄目って言ってなかった?」

「言ってないよ、なんでもかんでも双子だからっていうのが良くないってだけで、やっぱり双子だから通じ合うものとか感じるものとかはあると思うし」

「そんなものですかね?」

「そんなものです」

そんな話をしながら、僕は二人と正式に知り合えたことに安堵していた。今までみたいなままでいたらやっぱりどうにもドレラに後ろめたい感じになってしまうし、今後のことを考えると、特に手伝ってもらうキミオ君に関しては先に顔を合わせられて良かったと思っている。

「・・・聞いてる?キネン君」

「え、あ、うん、聞いてるよ」

「じゃあ今私なんて言った?」

「ごめんなさい、考え事してた」

「もう、ちゃんと聞いてよ、例の曲のこと」

「あ、ごめんごめん、ビギーのだよね」

「うん、あれってやっぱりさ、イギーが歌ってた曲だよね」

「そうだね、でもドレラが知らないってことは最新の曲とかまだ発表されてない曲とかかもしれないね」

「それは私も考えたんだけど、なんかそうじゃない気がするんだよね」

「うん、僕も違う気がする。だからそうじゃないなら、ビギーがいるところで歌う曲ってなんだろうって考えた。そしたらやっぱりイギーが好きな曲、鼻歌みたいによく歌う曲とか、リビングのレコードプレーヤーでよく掛ける曲とかなんじゃないかって」

ドレラが目を輝かす。

「すごい、そうだ、そうに違いない、もしかしてキネン君て天才?」

「やめて、むしろバカにしてるみたいになってるよ」

「そんなことないよ、私全然思いつかなかったもん」

手をバタバタさせながら興奮して話すドレラを見ると、自分の考えが本当にすごいことなのではないかと思えてきた。

(続く)



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