女の恋は上書き保存とか勘弁してくれ
生まれて初めてだった。
ハンバーガー片手に泣いている人を見たのは。
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「あ!いたいた!おまたせ〜〜」
「ううん。全然待ってないよ」
ハンバーガーを食べたいと、待ち合わせた池袋のカフェ。
「飛行機まで時間あるし、ゆっくり食べよっか」
ずっと楽しみにしていた韓国旅行。
海外に行くのも、彼氏と旅行するのも初めてだった。
「絶対ね、どっちかが”ここで待ち合わせしよ”って言うと思ってた」
「俺も。昼は絶対ここのハンバーガー食うつもりで来た」
初めてのデートで2人仲良くランチした場所。
ここに来ると付き合いたての頃が懐かしくなる。
彼の、ハンバーガーを持ったまま一生懸命語りかけてくる姿が好きだ。
大学のこと、友達のこと、バイトのこと。
忙しそうに口を動かして私に伝えてくる。
(ずっと一緒にいたいな...)
2人のお気に入りのカフェで、こうしてどんどん思い出を増やせていけたらいい。
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「ごめんお待たせ。」
「....ううん。」
彼のバイト終わり、1度会って話し合おうと集まった池袋のカフェ。
「俺、夕飯まだだから食うわ」
「うん」
(そういえばハンバーガー食べてるとこ見るの久しぶりだな....)
そんな風に思って、しばらくここのカフェにも来ていなかったことに今さら気づいた。
「もうお互いがいなくても平気だよね」
切り出したのは私だった。
いつからか心が離れていたこと、すれ違っていたこと、これからのこと。
話し合いながらゆっくりとハンバーガーを食べる彼の口は静かだった。
(もう一緒にいられないんだな...)
しばらく沈黙が続いて、とうとう彼は泣き出した。
ハンバーガーを持ちながら泣いている人を見たのも、こんな風に男の子を泣かせてしまったのも初めてだった。
「まもなく閉店のお時間です」
店員のその声で我に返る。
閉店時間でなくても、自分たちはもうこの店にいてはいけないような気がした。
そのまま私たちはカフェを出て、別々の場所へ帰った。
次ここに来たらきっと今日のことを思い出す。
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結局その後、彼と会うことはなかった。
「女の恋は上書き保存だ」なんて人は言う。じゃあ一体、上書きするたびに昔の思い出たちはどこへ行くのだろう。
別れた直後は思い出すことさえ怖かったがあのカフェのハンバーガーは本当においしかったし、彼と過ごした時間は間違いなく幸せだった。
自分の今立っている場所から少し離れたところに、そっと置いておきたい思い出。
そう思わせてくれる彼に感謝しているし出会えてよかったなと思う。
いつかあの場所で、初めてのデートを思い出したい。