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それは、見かけよりも深く黒く重く。

好きな人がいる。
でも、その人は私を好きじゃない。
好きなのは、私の友達。

すごくよくある話だなと思う。漫画かよって思った。
でも事実そうなんだから、笑っちゃう。

私の好きな人。隼人くん。
背は高いわけじゃないけど、低くもない。私よりは数センチ高い。
物静かだけど、コミュニケーションが上手くて交友関係は広い。
顔は、10人が10人好きになる顔ではないけど、整ってはいる。私は好きな小綺麗な顔。
髪はさらさらで短い。少しだけ明るく染めてる。
体系はひょろっとしているけど、痩せているという感じでもない。
勉強はできる方ではないけど、できない方でもない。
趣味は音楽を聴くことで、バンド系が好きみたい。
好きなタイプはよく知らないけど、小柄な子が好きみたい。
ホント、どこにでもよくいる人。

私の友達。優衣ちゃん。
背は低め。明るくてよく喋る子で、交友関係がとにかく広い。学校があってもなくても、とにかく毎日遊びに出かけてる。
顔は、別に可愛いくもなく、綺麗でもない。どちらかというと特徴のある顔。
ボブスタイルの黒い髪は、よく手入れされていて艶やか。
体系は普通、胸は大きい。
勉強は得意ではなさそうだけど、できない訳ではない。
趣味は音楽を聴くこと、バンドが好き。特にインディーズ。
好きなタイプは、顔が綺麗な人。中身については知らない。

二人を会わせたのは私。
趣味が合うから、話してみたら良い方向に進むんじゃないかなって。
その時は、全然。隼人くんのことなんて好きじゃなかったんだ。

私。陽菜。
特にこれと言った特徴もない、どこにでもいる女子。
平均身長、平均体系。黒髪ロングの平凡顔。
頭の出来も普通。
趣味はアイドル。TV見たり、ラジオ聞いたり、ライブ行ったり。そんな感じ。

私が何で隼人くんが好きになったのかは、もうよく分からない。
顔が好きだったからかも知れないし、それ以外に理由がない気がする。だって、別に中身はそんなにいい人だと思わない。

22:00少し過ぎた頃。今日もスマホが鳴る。

『おつかれ』
「おつかれー どうしたの?」
『ちょっと話したいなと思って』
「優衣ちゃんにかければ?」
『えー 緊張するし』
「大丈夫でしょ、教室で普通に話してるし」
『そうなんだけど、何か電話って違くない?』
「そう?」

2,3日に一度の電話。ベッドにごろ寝しながら会話する。
私からかけることもあるけど、大体隼人くんからかかってくる。

「今何してたの?」
『別に、何もしてない』
「暇つぶし?」
『んー、陽菜さんと話したいと思って』

この人、私が自分を好きだって分かってるのかな。
でも、私だけじゃなくて、他にも定期的に電話してる女の子がいるのも知ってる。
優しくしてくれる、色んな女の子に甘えてる。そのうちの一人が私。
好きなのは優衣ちゃんなのに。

『佐藤さんて、ホントに彼氏いないよね?』
「優衣ちゃん? いないよ」

好きな人はいるけど。

『今度さー 佐藤さんが好きなバンドが出るライブ誘おうかと思ってるんだけど』
「いいんじゃない? 早退してでも行くと思うよ」
『いや、早退はしなくてもいいけど』

多分、ライブは一緒に行くだろうけど、いつか隼人くんは振られるんだろうな。
優衣ちゃんは、そのバンドのギターの人が好きだから。
そんなことを思いながら、話を聞く。
そのまま、優衣ちゃんのこととか、学校のこととか、とりとめもない話をしていたら、何か、やっぱり好きだなって。
ずっと声を聴いていたいなって思ったら、隼人くんが寝落ちて会話がなくなった。
ため息をついて、通話を切った。

***

「来週、隼人くんにライブ一緒に行こって言われたんだけど、断った」
「え、何で?」
「それがさ、聞いてよ! 地道にライブに通い詰めて、手紙とか書き続けた苦労がやっと実ったっていうか! 昨日、基本身内だけのアフターに呼んでもらえてさぁ……」

そしてにやにやと笑う優衣ちゃんは、どうやら好きな人と寝たらしい。
まじか。

「良かったね、っていうか、良かったって言っていいのか……」
「え、そこは良かったでしょ、そう言って!」
「うーん、良かったね?」
「ありがと! いいんだ、私はめちゃめちゃ今幸せ! 来週も呼んでくれるって言ってたし、私が本カノになる日も近いっしょ!」

そう言って笑う優衣ちゃんは、本気で未来を信じてて、嬉しそうで、幸せそうだった。
でも、彼女がいても平気で他の女に手を出す男でいいのかとか、相手の女に恨まれたりしないのかとか、そもそも略奪するとかどうなのとか。
本当にそれが良いことで幸せなのか、分からない。

何でだろう、何もかも作り話みたい。
そのあたりに幾らでもいる、ただの女子男子高生なのに。
どうして3人とも、こんなに不毛な恋愛をしているんだろう。
恋とは綺麗なものだと、輝いているものだと思っていたのに。

「陽菜はホラ、隼人くんあげるから! 上手くやりなよ!」

そう言って肩をたたく優衣の手を、叩き落としてやりたくなった。


#2000字のドラマ

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