8歳、1人でつけ麺を食べる

週末、家族でお昼ご飯を食べに出かけた。
近所のまだ行ったことのないお蕎麦やさんに行こうと思っていたが一杯で入れなかった。
切り替えて他の店を探す。
ブラブラ歩いていると、最近できた居酒屋がランチをやっているみたいなので、その店に入ろうかと家族で顔を合わせて確認をする。
だがそこで長男が1人だけ嫌な顔をする。
「俺はこの店は死んでも嫌だ」と言う。
いつも長男に「何か食べたいもんがあるか?」と尋ねると、きまって「うなぎか、蕎麦」と答える。
なので、何を食べたいかは聞かないことにしている。今回のこのリアクションもさほど驚きではない。
ここから宥めすかすしかないのだ。
「蕎麦もさっきいっぱいで入られへんかったやろ。ほいでうなぎはそんな特別な日やないと食べられへんからな。この店で我慢しときんしゃい。」と声をかける。
それならということで、斜め向かいのつけ麺屋さんがよいといいはる。
「ほなら、もう仕方がないから、みんなでつけ麺屋さんにいこか。」といって、つけ麺屋さんに向かうと、今度は長女がさっきの店が良かったと泣き出す。
もう収拾がつかないので、
「親の意見を言わせてもらうとやな、正直今の気分としてはつけ麺の気分やないねん。さっきの居酒屋ランチの方がうまそうやから、あっちがええな」と。
それでも長男は譲る気配がない。
「ほならここで一つ提案やけど、1人でつけ麺食べてきてみたら?」と提案をする。
「おれ、全然それでもええよ」と長男。
さて、みなさんタイトルを見て既にお気づきかと思いますが、そうなんです。このあと1人でつけ麺を食べにいくことになるのです。
幸いにも、僕たちが食事をする斜め向かいの店だったため、
「何か困ったことがあればすぐこちらの店にきたらええわ。」と言って、券売機で食券を一緒に買い、その券売機を息子に握りしめさせてつけ麺屋さんへ入場だ。
入った瞬間「2名さまですか?」ときかれる。(そりゃそうだ。)
「いえ、1人です。」といって、息子を指差す。
その後息子はカウンターに案内され静かに着座する。
そのことを確認して店を出て、我々が食事をする店へと戻る。
そこでしばし食事をした後に、様子を見に行く。
まずは入り口の窓越しに中を覗いてみる。
すると狭いカウンターに大人たちに囲まれて息子がつけ麺をすすっている様子が見える。
なんともこれはこれで頼もしいというより、可愛いらしい光景だった。
そして中に入って声をかける。
まだ、麺が3割ほど残っていそうな感じだったので、
「食べ終わったら、ごちそうさま言うて、斜め向かいの店にくるんやで。」と。
そしてまた我々の店へと戻る。
しばらく経っても息子がこちらの店になかなかこないので、妻に
「ちょっくら見てきてくれへんかな?」と伝える。
すると、見に行った妻が2分後に店に戻ってきて、
「もう店におらんかった。」とかなり冷静に伝えてくる。
「店員さんに聞いたら、ちょっと前に店はでた。ということやったわ。」と、
「ちゃんとごちそうさま言うて出て行ったんかな?」と僕が聞くと、
「それは今どっちでもええわ。」と言われる。(そりゃそうだ。)
「さっさと会計して探しにいくから」ということで、急いで会計を済ませ、店をでて周辺を探す。
周辺には見当たらない。
もしかして家に帰っているかもしれないということで、ふたてに分かれて家までの道を探しながら歩く。
僕は途中入る予定だった蕎麦屋の中を入念に覗き込む。
「つけ麺のあとに蕎麦への未練が捨てきれず入っていやしないか。」
「つけ麺と蕎麦のダブルヘッダーは、大谷翔平が1試合目にピッチャーで登板し2試合目でホームランを打つよりも、ハードやで。」と内心思う。
しかし、蕎麦屋の中にも見当たらなかった。
次の瞬間、妻からLINEの着信がある。
「見つかったわ。」という連絡だった。
ほっと一息ついて、妻と息子たちと合流をする。
合流をして、特にどこへいってたのかは確認せず、
「ちゃんとごちそうさま言うてでてきたか?」と聞いた。
すると息子は、
「ごちそうさまが言えなかった。」と言った。
「次はちゃんと言わなあかんで」と父。
「ほんでスープわりは頼んだんか?」と聞いたら、どうやらそれも頼んでいないらしい。というよりもその存在すら認識していない。
「それはごちそうさまを言わんと店出てくるより、良くないことやな。」とすごく正論をぶつけてしまった。
スープわりを頼んではじめてつけ麺デビューだということは世の一般常識かと思う。
ということで、息子はまだデビューできなかったことになる。
しっかりと教育をして次のデビュー戦に備えたいと思う。

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