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米国発LGBTQ+青春小説をpixivヘビーユーザーがタグ付け解説!

 面白かったから紹介したい! ということで久しぶりに更新しました、閲覧ありがとうございます。




 あらすじ

 舞台は1987年のアメリカ、メキシコとの国境に近い町、エルパソ。
 主人公はメキシコ系の15歳、アリ。
 アリは同い年のダンテとプールで出会い、泳ぎを教えてもらうことに。
 ふたりは惹かれ合い、友情を育んでいく……。

 映画化された話題作!

 アメリカで最初に刊行されたのは2012年。けっこう前です。
 90万部を超えるベストセラー(2023年春現在)となり、2021年に刊行された続編もNYタイムズベストセラーリスト1位を獲得。
 ラムダ賞、ストーンウォール賞など、日本在住の私にはさっぱりわからない数々の文学賞を受賞しているとのこと。
 タイム誌の選ぶオールタイムベスト100冊(ヤングアダルト部門)に選出され、2023年9月には全米映画公開。ちなみに映画の日本配信情報は見当たりませんでした……。

 そんなに話題になってるなら、ちょっと読んでみたいかも?
 でも難しい本だったら嫌だしなぁ……と思ったそこのアナタ!

 どんな物語なのか、pixiv式にタグ付けしますので是非、参考にしてください!
 安心してください、私、ヘビーユーザーですから! お任せを!


!!この先、公式のあらすじ以上のネタバレを含みます!!

 タグ付けスタート

 __まずは、基本設定

#全年齢
#高校生BL

 米国の出版物なので当然ですが念のため。ポメガバースとか花吐病とか、そういうファンタジー要素はございませんので悪しからず。
 アリとダンテ、ふたりが心を通わせる展開は割とストレートに淡々と進んでいきます。過激なBLファンタジーに慣れていると、少し物足りなく感じるかも知れません。

 ならBLとは呼べない? そうかもしれません。でも本当にそうでしょうか?

 ……そしてそして、

#両片想い

 そうです、我らが大好き、両片想い。やったー。
 全編通してこれです。最初から最後まで、アリとダンテはお互いを想って、くっついたり離れたり、もだもだします。
 アリ><<<<<ダンテ くらいの関係からスタートし、徐々に……という流れ。
 ある意味ど定番、読みやすい物語です。

 そして、あくまで私個人の感想ですが“アリダン“の空気が漂います。

#攻め視点

 の物語ですね。

 ではもう一歩踏み込んで、それぞれの属性はというと、
 ……アリは喧嘩が強い男の子で、学校では一匹狼キャラ。
 ……ダンテは絵を描くのが好きで、パパとママが大好き。
 
#ヤンキー×優等生

 そう捉えられなくもないかな? 正反対の2人は惹かれ合うんですね、わかります。
 
 ここで“キャプション必読、苦情は一切受け付けません“の注意書きとして、

#モブ要素あり

 を付け加えさせてもらいます。女性との絡みもありますので、そこは覚悟の上でページをめくってください。

 では最後にもっとも大事なことを……。

#ハピエン

 はい、これで安心して読めますね。アリダンは悲恋ではありません。ふたりはちゃんと幸せになるので怖がらなくていいですよ。
 LGBTQがテーマといっても本作はヤングアダルト小説、10代の青少年向けの物語です。ちょくちょくシリアスムードになりますが、黄昏流星群みたいな物悲しい結末にはなりませんのでご安心を。

 子供騙しってこと?? そんなの本当に面白いの??
 そう思われるかもしれませんが、これが面白いんですよ。


 以下、いい!と思った点をいくつか並べます。この先は重大なネタバレを含みますので、回避したい方は回れ右してください。


 戦争に行った親に育てられるということ

 主人公アリの父はベトナム戦争に行って以来、心を閉ざしています。普段の生活に支障はないのですが、肝心な時に対話を避け、自分の殻に閉じこもってしまいます。アリは、そんな父に寂しさや怒りを感じ、自分は孤独だと思いを募らせます。
 アリは思春期で揺れ動きやすい年頃。サポートを求めているのに、家の中に自分よりサポートの要る大人がいて、しかもそれは父親。事情が事情だけに責めることもままならない、窮屈さ。
 元軍人の心のケアを扱った物語はたくさんありますが、その子供の視点で描かれたものは貴重ではないでしょうか。戦争が他人事でなくなった昨今、アリと父との葛藤は、まさに今どこかの家庭で起こっていることかもしれないと思って嫌な気分になりました。

 そこで特に胸を打つのは、アリが父親思いの優しい息子であることです。葛藤しつつも、頼りない父を見捨てようとはしないんですよね。アリはいい奴なんです。
 


 アメリカで、メキシコ系であるということ

 マリファナ、ギャング、未成年飲酒・喫煙、無免許運転などなど。舞台が1987年ということもありますが、アングラ要素も散りばめられていることが本作の特徴。
 __自分はアメリカ人なのか、それともメキシコ人なのか?
 アリとダンテは苦悩します。
 日本に住んでる私としては、どっちもじゃだめなの? と言いたくなりますが、そうではないのがアメリカという国の複雑なところなんでしょうか。

 物語終盤で明かされる、アリの兄は殺人罪で刑務所にいるという事実もなかなかショッキングです。
 暴力が身近にある世界。アリとダンテはそこに住んでいます。2人は純粋で心優しい少年です。暴力の世界に転がり落ちないよう、両親も懸命に彼らを守ります。
 それでも暴力が身近にあり過ぎて、いつか足を踏み外すんじゃないかと、読んでいるこっちがハラハラさせられる展開が続きます。
 ヤングアダルト小説といえど、侮れないリアリティが詰まっていました。
 


 本当の自分になりたいということ

 不確かな世界に翻弄されながら、主人公アリの核となるテーマは一貫して、“自分ってなんだろう?”ということです。
 これぞLGBTQ小説の真骨頂。
 私がBLを好きなのは、“自分ってなんだろう?”ともがく主人公が好きだからです。セクシャリティに限らず、着るものや食べるもの、家族との関係性など、あらゆる面で妥協しない、または妥協できない主人公を見ていると気分がいいのです。
 なので、ダンテが靴を嫌がるくだりは印象的でした。一見するとBLとは関係ないようですが、個人的にはあれこそBL。

 ……そこで欠かせない重要な要素が、“周りと調和しようとする主人公の姿勢“です。


 本当の自分になって、出来ればみんなに受け入れてほしい

 好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
 それは変えられないし、変えたら自分じゃなくなっちゃう。
 でも自分の意見ばっかり押し付けない。だってみんなと仲良くしたいから。


 そんな主人公が大事な人たちとすったもんだしながら、みんなが幸せになれる道を探す、そういう物語ってよくないですか?
 現実的に考えるとなかなか難しいと思われますが、いいじゃないですか夢があって。フィクションだし。

 本作のいいところは、純粋な少年ふたりが愛情深い両親に見守られながら成長する、という愛と希望に溢れた世界観です。なんやかやみんな、愛し合ってるわけです。
 ……それって、ご都合主義のハッピーエンドってこと?
 いいえ、これぞプロの作家の仕事でしょう。
 本作は、世界と対立して破滅するんじゃなくて、みんなとハッピーになれるように頑張る物語なんです。



 ハッピーエンドじゃなきゃ!

 そんなのただの子供騙しでしょ、と思われるかもしれません。
 でも今の世の中、バッドエンドを考える方が簡単なのではないでしょうか?
 少なくとも私はそうです。
 いつの間にか__悲しい物語を読み、感傷的になってスッキリする__そんな感覚は失ってしまいました。私、お金払って買った本で悲しくなりたくないんです。コロナを経てその傾向はより顕著になったと感じています。
 私をドキドキ、わくわくさせてくれ! 読むもの、見るもの、聴くもの……全てにおいて、今はその一言に尽きます。
 だからアリとダンテはいいのです。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 続編の邦訳出版は未定のようです。もし興味を持っていただけましたら、是非Amazonでポチッとしてください。発売から日が経っているので、今ならお得な中古本を入手することも出来ます。

 私はELLEのブックレビューで本作を知って、正月休み中に読みました。
 発売から半年近く経っていたので決して耳が早いとは言えない読者です。

 知らない作家の本を定価で買うのは勇気がいりました。しかも、冒頭の薄暗い感じがサリンジャーに似ていると感じ「失敗したかも……」と一瞬がっかりしました(『ライ麦畑でつかまえて』あんまり好きじゃない)。
 ですが、ダンテと出会うあたりから楽しく読めるようになりひと安心。

 みなさん、冒頭は少し我慢が要るかもしれません。
 でもでもその先で、胸キュン展開がアナタを待ってますよ!

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