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Your Paradise Hotel 第五話 心の余裕

4人のその後 ①

たかしのこと
たかしの仕事は、相変わらず納入業者や
得意先の訪問が多い。
だが前と違って、その意義を積極的にとらえるようになった。

担当者の笑顔に一瞬不安が見えたとき、業績悪化の問題を
抱えているのではないかと想像してみる。
もちろん企業としては利益追求は大事だ。
だが、関連する会社がともに伸びていかなければ、
その成功は続かない。

ある会社は売れない商品をたくさん抱え、困っていた。
お金にならない上に、倉庫代までかかってしまう。
そこでたかしは、その商品におまけのような付加価値を
つけることや既存の2つの商品を組み合わせて売ることは
できないかを検討することを提案した。
話の中からお互いにwin―winになる道を模索することこそ、
社長の仕事だと今更ながら気づいた。

また部下の態度は私の合わせ鏡だ。私から個人的な
付き合いを深めていっていないので、彼らが通り一遍の
対応であるのは当たり前だ。
これからは、お互いに心を開いて語り合う人間関係は
趣味の世界に求めていこう。

陶芸教室は理屈抜きに楽しい。だが、たかしの気持ちに
ある変化が起こっていた。
形に残る作品を作ってみたい

粘土で作り上げたものが、こわせば無になる。
その潔さに以前は心ひかれていたが、年を取って
何故か自分の足跡を残したくなった。
そういえば、妻が花びんが欲しいといっていたなあ。
試しに作り、気に入ってくれたら、形の残る作品を
作りたくなったと話を切り出してみようか。

会社の危機的状況の折には、あらゆるリスクを想定し、
英断をふるったたかしが、妻に対しては、および腰になる。
何ともおかしいが、世間ではよくあることかもしれない。



みゆきのこと
みゆきは絵画教室に通っている。そこで数人の友人もできた。
今まで気分が落ち込んでいたのは、一人で悶々と
していたからだろう。

気の置けない仲間ととりとめのない話をするだけで、
ふっと気持ちが軽くなる。

また、お茶やランチに行くこともあり、家族に食事を
頼むことや出来合いのお惣菜を買うことにも
抵抗がなくなった。

週末はキッチンを家族に開放し、それぞれに交代制で
夕食づくりを担当してもらうことにした。

夫は市販のカレールーを使ってビーフカレーを作ってくれた。
どうしても包丁を使いたいという。案の定、使い方が下手なので、
野菜が極端に小さくなってしまった。
火加減もわからず、煮込む段階で焦げ付き大騒ぎになった。
しかし、食卓には笑いがあふれた。

レトルトを使わなかったのは、夫の心意気だろう。
それだけでも認めようか。

長男は唐揚げが大好物だ。 
「今週は唐揚げにするよ。」
といったので油がはね、キッチンが汚れて大変だと
想像して暗澹たる気持ちになったが、
そこは自分の実力をよく知っている息子。
なんとレンジでチンの唐揚げだった。

食卓にはフライドポテトと皿一杯の唐揚げ。
見かねた娘が家にある野菜でグリーンサラダを
作るという。
でもドレッシングがきれてるな。

だが娘は小さな空き瓶に、米酢、オリーブオイル、醤油と砂糖、
冷蔵庫にころがっていたカボスを絞ってシェイク。
あっという間に手作りドレッシングの出来上がりだ。

この前まで全く料理をしなかったのに週末に
作るようになったので、ネットで時短料理を
検索しているらしい。

大皿からあふれんばかりの唐揚げを前にして、夫も上機嫌になり、
「やっぱり唐揚げにはビールだよ。」
と言ってみんなで乾杯した。
みゆきは、久々に食べる冷凍食品のクオリティーに
びっくりした。
これが毎日だと身体に悪そうだが、みんなが好きなものには
やはり理由があるなとわかった。





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