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Your Paradise Hotel そして未来へ つながった点と線

土曜日の昼下がり、家族でお茶にしようと集まったとき
突然それは、テレビから聞こえてきた。

「特集 your paradise hotel, 開業半年にして話題のホテル。
現在、3か月先まで予約は埋まっていて、リピーターの方には
しばらく待ってもらっている状況だそうです。」

「えっ! パラダイスホテル? 僕は、新人研修とうそをついて
この前ここにいったよ。」
「なあ~だ。ひろと。あんたも?私は3か月前に泊まった。」
「だから姉さん、このごろ化粧が薄くなったんだ。」
「バ~カ」
「わたしは、同級生と温泉に行くとごまかして行った。」
とまゆみは、言う。
父親のたかしは、
「私は出張と偽って,開業したばかりの時に行った。」
と応えた。その時、
「しーっ。黙って!詳しいことはあとから。」
と 、みおがみんなの話を止めた。

「まずは、オーナーの山下さんからお話をうかがいましょう。」

「私共のホテルは、廃業予定だった宿泊施設をリノベーションして
オープンしました。ですから、コストはあまりかかっておりません。
唯一お金をかけたのは『音の部屋』のステレオぐらいです。」

「ご宿泊の皆様は、日ごろの生活で使っていたもの(例えばスマホやPC)や
慣れ親しんだ習慣(例えば飲酒や嗜好品)といったん距離をおくことで、
それらの占める比重に驚かれる場合が少なくありません。」

「現在の情報化社会において、スマホ等は必須と思われています。
だから全く使えなくなると、私たちは途方に暮れてしまいます。」

あり余る時間。いったいどうしたらいいのか

「また、起きている間ずっと、とても明るい環境で過ごすことは、
神経が休まらないかもしれません。
暗闇は、私たちに立ち止まって、自分のことを考える時間を
提供することがあります。」

「ここのスタッフの名札はファーストネームのみです。
友人やご近所の顔なじみの方のように、気軽に声をかけて
いただきたいからです。」

「お泊りいただいている方に、ホテルにいる間だけは、
仕事場の顔や『〇〇ちゃんのお母さん』といった社会的な仮面を取り、
心の鎧を外して、ゆったりとくつろいでいただきたいのです。」

「私たちが目指すのは 貴方にとっての 心の5つ星ホテル です。
滞在型のホテルには、農業体験等ができるものもあります。
しかし、このホテルのように五感を呼び覚ます、クリエイティブな
体験ができるところは、他にありません。例えば、視覚を刺激する活動の
中には、色水遊びもあります。ここにいらっしゃったら童心にかえり、
やってみたいというものをどんどん試してください。」

「今後は日本が好きな海外セレブもお忍びで来てくれると、
うれしいです。」
「海外セレブというとどなたですか?」
「例えば、トム・クルーズとか。私、大ファンなんです。
トムが来たら合言葉でおしえてもらえるよう、もうスタッフに
連絡済みです。お忍びだから声をかけるわけには
いかないけれど、遠くから彼を眺めてみたい。
これこそオーナーの特権ですよね。ハハハ。」

「いきなり話題が変りましたが、、、、」
「すみません、話を元に戻します。
将来は芸術活動をしている人にこの村に住んでもらい、
この場所から表現を発信してもらいたいです。
また、ホテルのイベント等に協力してもらえたらなおいいです。」

「知り合いに画家がいるのですが、できた作品を所蔵する
スペースの確保が都会では大変だと言っていました。
ここの古民家なら、あり余るほどスペースがあります。」

「多くの創作活動をする芸術家のひな鳥たちがここに集まることで、
化学反応が起こり、新たな表現が生まれる可能性もあると思います。」

「ホテルを中心として、この地域全体の活性化や発展に
協力できたら、とても嬉しいです。」

「ありがとうございました。パラダイスホテルの特徴、また今後の
展望についても詳しくお話しいただけました。」
 
「それでは、ホテルのスタッフの方にお話を聞きます。」

「この村で生まれた、たくみと言います。友だちの多くはここでの
仕事がないので都会に出ていきました。僕は両親の農業の
手伝いをしながら、ホテルで働いています。」

「お食事に提供している野菜の大部分は、この土地で取れたものです。
形は不ぞろいですが、野菜そのものの味が濃厚です。
3日間過ごすうちに、お客様も自然のだしに慣れて、
それぞれの野菜のおいしさ、食感を楽しむようになられます。」

「お客様の笑顔が、私たち働く者の原動力となっております。
3日目は、ほんとうに表情が変わられます。
『体中にため込んでいたものをいったん放電し、
新たなエネルギーをチャージした。』
という言葉が、僕は一番ぴったりすると思います。」

「リピーターの方には、『お帰りなさい。』とお迎えし、
出発の時には、『いってらっしゃい。』
とお送りできたら、最高ですね。」

放送が終わり、4人はみんなの顔を眺めまわした。
いつも間にか私たち、仲良しになっている。
自分のやりたいことができるようになって、
相手への寛容さがでてきたのかもしれない。
このほどよい緩さをもった関係が、これからも続くといいな。


まだ、この世には存在しないこのホテル。
皆さんは泊まってみたいですか?

私は、実際にあったらいいなと 心から願っています。
                            完

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