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国際本部って本当に必要?

プロフェッショナルスキルで評価されるグローバル社会

グローバルマーケティングについてまず話したいのは、組織体制のことです。私が海外のマーケターと話して感じるのは、専門的なスキルに対する厳しい評価です。日本以外の多くの国では、新卒時点から職種別の採用が基本です。そのため、スキルの高低は別として、個々の人材はその職種のプロフェッショナルであるか、またはプロフェッショナルになりたいと思って会社に入ってきます。この前提に立つと、当然上司や同僚を評価する際にも、その職種のプロフェッショナルとしてのスキルがあり、学ぶべき点があるか、指示に従うことに意味があるかを重視しています。

一方で、商社等グローバル展開を基本にしている会社は異なるかもしれませんが、私が勤務していた大手ゲーム会社規模の日系企業では、海外で活躍できる人材のプールが不足していることが多いです。このような状況では、国際本部や海外事業本部のような海外ビジネスを統括する部署が設置され、外国語に堪能な人材がそこに集められて海外とのコミュニケーションを一括管理することを目指すことが多くなります。人材の量が絶対的に不足しているため、ある意味で苦肉の策的な要素も多いのですが、私はこの発想自体が日本企業のゼネラリスト志向を強く反映していると感じます。

現地の言語が話せるからといって、あらゆる業務が出来るわけがない

この体制で本社と海外子会社のコミュニケーションを取ろうとすると、多くの場合、海外の各ファンクションのメンバーに対して、外国語が堪能という理由で集められた人材が自分の専門分野でもないファンクションについて本社からの指示を伝えたり、それについて議論したりすることになります。

特に、海外駐在経験がなかったり、語学力に乏しい経営者にありがちな誤解は、現地の言葉が話せれば業務上のコミュニケーションは問題なくできるという点です。そもそも、マーケティング、人事、財務、営業などどのファンクションでも、専門的な議論に日本語が話せるからといっていきなり参加しても、最初のうちは母国語の日本語で話されていてもほとんど理解できないでしょう。なぜなら、その専門分野についての知識がないからです。つまり、ビジネス上の専門的なコミュニケーションには、言語が理解できるだけでは不十分なのです。しかし、この人材集約的な発想は、それができるという前提に依拠しています。

最初に述べたように、海外の現地メンバーの仕事の上での価値基準は専門スキルへのリスペクトです。それに対して、本社の国際部の人材は、自分と同じ言語を話すことはできても、専門的なスキルがほとんどないことが多いのです。この状況で、現地の社員が本社の指示を聞くでしょうか?また、海外の駐在員についても同様のことがいえます。例えば、海外事業部の若手が武者修行的に一定期間海外に派遣されることがありますが、その人物は日本で海外事業について何でもこなすゼネラリスト的な教育しか受けていないとしたら、現地メンバーはどのように思うでしょうか。そうなると、現地メンバーがその人物をリスペクトしてくれるでしょうか?さらに、日本からの駐在員がその状況で上司になってしまったりすると、当然自体はさらに良くない方向にすすむ可能性が高いといえます。

よく、海外事業を担当している人と話をしていて、現地の社員が言うことを聞かないという話を聞くことがあります。もちろん、現地メンバーのクオリティに依存する部分もある可能性を否定はしませんが、私は現地とのコミュニケーションの窓口になる人材の専門スキルの問題も検証すべきだと思います。

専門スキル&語学力のある人材を育成することは必須

私は、日本企業が本気でグローバル展開を目指すのであれば、各機能ごとにグローバルで活躍できる人材を育成するしか方法はないと思っています。実際、私は大手ゲーム会社で5年半にわたりマーケティング本部を担当しましたが、グローバルな組織を作り上げることができなかった根本的な理由はここにあります。専門性を持ち語学にも堪能な人材を育成するにはどうしても時間がかかりました。

私の経験から言うと、日本企業が海外の現地法人で優秀な人材を採用するのは非常に難しいです。特に、日本よりも給与水準の高い欧米諸国ではその傾向が強いです。特に日本の給与水準が頭に入っていると、アメリカなどで優秀な現地の社員を雇おうとすると、その人に対して支払うべき給与の額に驚くことが多々あります。しかし、それが現地のマーケットプライスであったりします。せっかく、日本の基準からすると高い条件で採用できた人材には、高いモチベーションで仕事をしてもらい、優れたパフォーマンスを発揮してもらわなければなりません。そのためには、現地の基準に基づいて納得感のあるマネジメントを行う必要があります。

幸いなことに、私の場合は、現地の市場の詳細は分からなくても、デジタルマーケティングに関して私よりも経験値が高い人材が、日系企業が許容できる給与水準で見つかることはほぼありませんでした。そのため、その点では私の意見を真摯に聞いてもらえる状況を作ることができたと思っています。しかし、これは私がマーケティングの話をしているからに過ぎません。

実際、私はゲームを全くしないため、ゲーム制作スタジオをマネジメントのいては、現地社員のマネジメントが非常に難しいと感じました。これは当然のことです。ゲームを作ったことがない私が指示を出しても(実際にはそんなに言いませんでしたが)、10年以上ゲーム制作に従事してきた現地の責任者からすれば、その指示の方が正しいと思える納得感が乏しいからです。

この経験からも、グローバル展開には専門スキルがコミュニケーション力と同程度に重要であり、そのためには適切な人材育成が必要であることを痛感しています。

グローバル展開ではマトリックス組織にチャレンジを!

そのような視点でGoogleやApple、Metaなど、グローバルで成功しているIT企業を見てみると、おそらく彼らはマトリックス組織体制を採用していると思われます。現地法人のマネジメントラインを縦、マーケティングや事業ファンクションのレポートラインを横と定義すると、明らかに横のレポートラインの方が強く見えます。

やはり、大規模にグローバル展開するためには、そのような体制を取る必要があると感じます。英語圏の企業は、母国語が英語であるため、現地法人の採用も英語を話すことを前提に行うことが多いです。このため、本国のメンバーが異なる言語で海外でマネジメントするという苦労はほとんどないのに対して、日本企業には言語面でのハードルは高くなるのですが。

日本の場合、そもそも日本国内がゼネラリスト志向の人材育成スキームがまだ残っている企業(特に大企業)が多いため、専門スキルを持った人材プールが少ないという問題があります。少なくても、マーケティング人材については、その状況である可能性は高いといえます。

しかし、グローバルでC向けマーケットで成功を収めようと思うと、海外市場でのマーケティング展開は必須事項です。そのように考えれば、国内にスキルの高いマーケターの人材プールがあり、そこからグローバル人材を育成することを計画的に行わなければなりません。


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