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書の展覧会レポ【スーラージュと森田子龍】@兵庫県立美術館

兵庫県立美術館で開催されている【スーラージュと森田子龍】に行ってきました。二人の交流や海外における前衛書の受容、その思いについて考えさせられる展覧会でした。

駅を降りて、歩いて行くと美術館が見えてきます。この方のお名前教えてください。(美術館のマスコット??)

これはカエル…でしょうか?結構大きいです。

今回の展覧会は現代書家の森田子龍とスーラージュの二人展です。作品だけでなく、子龍の日記や編纂に関わった『墨美』の展示もありました。

今回は、子龍やスーラージュの作品をとおして、子龍が何を求めていたのかを考えていきたいと思います。

※本展覧会では、撮影を許可されているのがスーラージュの作品のみでした。したがって子龍の作品は掲載しておりません。ぜひ会場に足を運んで御覧ください。



子龍の作品は、多種多様である

子龍の書のイメージは「前衛書」だと思いますが、「前衛書」と言われて皆さんはどのような作品を思い浮かべるでしょうか。

・読めないやつ
・迫力があるやつ
・墨が散らばっているやつ
etc…

さまざまな「前衛書」のイメージが各々の中にあると思いますが、多くの人のイメージは「書よりも抽象画(絵)に近い」というイメージだと思います。

もちろんそのような見方もありますし、間違いでありません。しかし、今回の展覧会の展示で私が感じたことは、「子龍は書家である」ということです。

・均整な文字からの脱却を図りながらも、文字の構築性からは離れない。
・書の新たな概念を作り出しながらも、その道具からは離れない。
・西洋人との交流を図りながらも、白と黒という概念の世界を模索する。

「書き順を破綻させることなく、筆と墨を用いて、新たな世界を築く」という営みは、書のどの領域(漢字・かな・前衛・近代詩文・篆刻・刻字…)においても通底することなのでしょう。
書の遺伝子のようなこの核の部分を子龍は捨てることなく、新たな書の世界を見せてくれました。

墨本来の美しさにこだわり、
墨の機能としてのにじみにこだわり、
文字がもつ点画と自身の身体を一体化させることで
新たな書の世界を広げた…ように感じました。

会場では『日本の書』という短編映画が上映されていました。
監督は画家のピエール・アレシンスキー。

映画の中では若き日の森田子龍に加え、篠田桃紅、江口草玄なども登場します。制作風景も見ることができる貴重な映像です。
(ちなみに、若き日の江口草玄がめちゃくちゃかっこいいです。煙草をふかして紙に灰が落ちますが、それを今から使う筆で払います。そして何事もなかったように書き始める…なんかいい、かっこいい)

映画の中で印象的だったのは、
「今まで教えられてきたことが、すべて嘘だったとわかった」
という意味のセリフです。
敗戦を経験した戦後の書家は
「書の世界も嘘にまみれているのではないか?」と思ったことでしょう。
書の慣習的な習い方に疑問を抱いたのも当然です。
各々が一匹狼的な立場で、自身が信じる書を「書き」「描き」続けているのが印象的でした。


スーラージュは黒の人?

白と黒の世界を描いたという点いおいて、スーラージュと書は共通点がありそうです。作品をご覧ください。↓

白黒だけはない世界があります。路地のような奥行きが見えます。
色が見えます。刷毛のようなもので描かれたのでしょうか。
黒かと思いきや上の方には青が見えます。暗い海のような…。

私の印象は、「スーラージュは黒の人なのでは?」です。
黒の美しさを全面に出しているのではないでしょうか。
会場の一室では、スーラージュの大きな真っ黒な作品があります。(贅沢にもその作品1点のみが一室に飾られています。)

谷崎潤一郎は日本の美意識が陰翳にあると言いました。暗さとの共存が日本の美を発展させたとも解釈できるでしょう。
そのような意味でスーラージュは日本の美(陰翳)に共感できたのではないかと思うのです。スーラージュの黒の美意識が、書の黒と出会うことで、互いを刺激しあう関係ができたのではないでしょうか。


書のリポジショニング

他にも、子龍とスーラージュの交流の様子や、子龍と交流のあった人々の写真などが展示されています。
そこからわかることは、子龍を含めた戦後の書家たちが決して西洋芸術に迎合せず、日本の書の立場と位置づけを明確にしようと邁進していたということです。書をどう位置づけるかという難問に対して、子龍は哲学者の井島勉や久松真一にも協力を求めています。戦後の書家にとって、盲目的な書の慣習への反省は、書という芸術の自覚の芽生えであったはずです。
「書を純粋な近代芸術にしたい」
「今までの書からの脱却なくして純粋な書芸術はありえない」
そんな声が聞こえてきそうです。

このように、他分野の協力を得ながら、書はその立場や位置づけを探ってきました。(まさに&書【andsyo】の理念!)現在はどうでしょうか。先人たちの活動は現代の書にどのように影響しているのでしょう。

安藤忠雄氏がてがけた兵庫県立美術館。建物も美しいです。

森田子龍を含めた戦後の書家たちの思いを学ばせていただきました。
せっかくの神戸でしたが、美味しいものが食べられませんでした…。
(悔しい!次リベンジします!!)

書の世界は複雑で、さまざまな分野につながっています。
‐書の奥深さ、すべての人に‐
&書【andsyo】でした。

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