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有楽町で会いましょう

大学時代の友人と、その娘がやってきた。札幌から、弾丸で。
友人から「会いたい」とLINEでメッセージが来た時は、ちょうど心身ともに参っている真っ最中。もちろん嬉しい。
でも。
ヘルペスが悪化した顔は酷いものだし、お菓子のストレス喰いで顔はパンパン。
一番はメンタル。ぐらぐらのメンタル。友人との機会を楽しめるか不安もあった。
とは言っても、折角の機会。お休みを取って、有楽町へ出かけた。

待ち合わせ場所で彼女たちを見かけた時、不思議な安堵感にはっとした。
生命力。植物がそよそよと風に靡くような、確かな生命力を感じた。

友人とは10年ぶりくらいだろうか。
アースカラーのゆるいシルエットの洋服と、毛量の多い髪を無造作に束ねた髪型、ウサギのようなくっきりとした顔立ち。花に例えるならシロツメクサかマトリカリア。飾り立てず、素朴で自然な美しさ。
その隣に、利発そうなお嬢さん。ああ、この女の子は確かに私の友人の体から出てきた人間なんだなあと初めて会った気がしなかった。

友人とお嬢さんとローヤル - 有楽町/喫茶店へ。お嬢さんが「クリームソーダが好きだ」というので純喫茶に行ってみた。

お嬢さんをじっと見つめる。まつ毛が長くて眉毛は太めだけど薄く、唇は小さくて上向き。髪の毛は若干茶色くくるくるとした癖っ毛。小学校4年生の女の子。私たちがお喋りしている横で、折り紙を一生懸命折っていた。

友人とは、手紙のやり取りが緩やかに続いている。この時代に、LINEの交換もしているのに、敢えての手紙。2年、いや3年くらいになるだろうか。大腸がんになってストーマを造って、治療に狼狽えている時。死ぬかもしれないなあと思った時、友人に手紙を書きたくなってやり取りが始まった。私は言いたいことを我慢しなかった。言いたくないことに関しても、我慢せず言わなかった。友人からの手紙で「違う」と思うことは、我慢せず「それは違う」と遠慮なく言った。ドロドロした気持ちも、出したい範囲で出した。友人は、それを受け取ったり、受け取らなかったりしながら、自分の言いたいことをたくさん伝えてくれた。

固めのしっかりプリン。美味しかった。
結構大きめ。


彼女も社会福祉士の資格を持っていて、成年後見絡みの仕事をしている。成年後見制度が出来てすぐの頃だっただろうか。その頃から今の仕事を続けている。
仕事、子育、夫、共通の友人たちの話。そして、福祉の話と家族の話。彼女は自分の話をたくさん話す。昔も今も。大学時代の彼女と変わらない。お子さんたちの話をしている時点で、学生時代とは異なるのだけれど。

大学時代、彼女のお母さんから届く個包が羨ましかった。「母さんから送られてきた」と言って分けてくれる、振る舞ってくれる、お菓子や料理。嬉しくも、家族の親密さ、育ちの良さ、仲の良さに複雑な気持ちになり、ささやかな抵抗心がなかったと言ったら嘘になる。それも思い出した。
隣でクリームソーダを夢中で食べるお嬢さんを見て、私ってくだらない気持ちを抱えていたんだなあと笑ってしまった。

友人に質問をしてみた。「これから仕事、どうしたいってある?やってみたいこと、やりたくないことってある?」
友人は「児童福祉をやってみたい。ずっとずっと大学時代から思っていること。今は流れでこの仕事をしていて、体は疲れないし定時で帰れるし融通きくし、ありがたいけれど。やっぱりスクールカウンセラー、ずっと気になってる」とはっきりと言った。
私はわかっていた。彼女のやりたいこと、興味のあること、福祉への思いはずっとブレない。同時に、結婚して子供を3人育て、社会福祉士としてキャリアを重ね、広い交友関係を築き、家族と友人に囲まれて、愛情を受けて育って愛情を持って育てている彼女の人生を感じた。

で、わかった。

私は幼少期の家族関係をずっと引きずって今に至る。病気をして、また病気をして、さらに病気。仕事もキャリアなんて言えるものでもないし、休職期間を経てやっと仕事を始めたところだ。というか、すでに逃げ腰。生きづらさ気づくまでにも時間がかかった。

友人と会って、話して、そのまっすぐで飾らない自然体の彼女から放出される愛情を感じて、ああ、私とは明らかに違う、と思った。
決して悪い意味じゃない。
彼女は彼女。私は私。
やっとわかった。

もう、羨ましいとか、なんで私はこうなんだろうとか、どろりとした気持ちは湧かなかった。妬ましい、がなかった。

私は私でやっていくしかない。
一年半以上のカウンセリングと、自分を休めて大事にしたことが活きた気がした。

友人に正直に言った。「いい顔している。そのままでいてほしい。自然だね。」と。彼女は日焼け止めクリームくらいしか塗らない。眉毛もそのまま、マスカラおファンでも口紅も無し。それで、この美しさ。すごい。生まれながらの美人というより、生き様が表れている、という感じ。話し方や姿勢、表情、口から出てくる言葉たち。彼女の良さがちゃんとそこにある。

さて。私はどうしようか。
まずはヘルペスを治して、ストレス喰いをやめよう。運動をして汗をかこう。
帰ったらたっぷりの野菜と果物と水分を摂ろう。好きな音楽を聴きながら掃除をしよう。私は私の人生を楽しむことをいちばんに生きる。
まだまだここからだよ。


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