9月の風とフルーツティー炭酸割り
「はい、味見」
リビングで読書中に頭上から夫の声がする。
顔をあげた先にグラスがある。
ひとくち、飲む。
これ、さっきも飲んだけど。
って言葉はのどの下に押しもどし、
「おいしー」と感想を伝える。
「だろー!うまいんだよ、これ」
上機嫌で彼は言う。
そして、お決まりの言葉をつけ加える。
「ダンナは天才だからな~」
この夏、夫はフルーツティーと炭酸水を
割って飲むことにずっぽりハマった。
ハマると飽きるまでリピする人で
作るたびに「はい、味見」となる。
これ、さっきも飲んだけど。
以前はこんなふうに返してた。
「これ、さっきも飲んだけど」
「いいから飲んで!」
「いまお腹いっぱい」
「いいから飲んで!」
「どんな味か知ってるよ!」
「いいから飲んで!」
プチ押し問答の末、結局飲むはめになるから
最近はしょーがねーなーと素直にそれに従う。
味見してほしいのと、
おいしいって肯定してほしいのと、
オレって天才って自画自賛したいのと。
夫のつくるフルーツティー炭酸割りには
彼の欲求がしゅわしゅわ弾けている。
オリジナルドリンクを作って、
無意識に健やかな自尊心をはぐくむ夫。
その姿をみてほのぼのする、わたし。
朝の風が涼しくなったと感じる9月のはじめ。
今日は何回飲めるかなー。